音楽『La Cienega just Smiled/Ryan Adams ラ・シエネガ・ジャスト・スマイルド/ライアン・アダムス』

 ライアン・アダムスを知ったのは2001年9月11日の直後だった。当時学生だった私はあの衝撃的な出来事を旅行中だった海外で知った。泊まっていたゲストハウスのロビーに宿泊者全員が集まってテレビに釘付けになっていた。アメリカ人旅行者もいたと思うがみんな大変なことが起こったと理解はしていても、それに対してどのように行動すればいいのかわからずにいた。みんな冷静だった。冷静になる以外にどうすればいいのかわからなかったのだ。数日後の朝またロビーに行ってみるとテレビはニュース番組ではなくて音楽チャンネルのMTVを映していた。テレビの前にひとりの白人が居て、ニュースに変えるか、と私に聞いたことをよく覚えている。別にいいよ、と断って一緒にMTVを観た。その時、MTVでライアン・アダムスが歌っていた。『New York,New York』というタイトルで若い男がNYで歌っていた。もうじき発売される『GOLD』というアルバムの先行プロモーションだった。在りし日のNYで歌われるカントリーロック調のヒップな音楽は、少なくとも妙な空気の中で意味もなく落ち込む私には救いのように思えた。いまでもこの『GOLD』というアルバムはよく聴く。
RYAN
 そのなかで私が一番好きな曲がこの『La Cienega Just Smiled』だ。LAにあるLA CIENEGAという一本の通りを毎晩行き来する男のセンチメンタルを歌っている。歌詞はシンプルで様々な解釈ができるように核心については語られていない。ただとにかくセンチメンタルだ。

 やれやれ、また夜がやってきた
 いつものようにジーンズにジャケットにシャツを着込む
 何にせよ結局は最悪な気分なんだ
 彼女のおかげでね
 
 記憶の奥底で君をつよく抱きしめてみる
 気分はいいけど、ずたずたに切り裂かれるようだ
 そして僕は、僕が君についてどう想っているのかを知ってしまうのに、ひどくおびえているんだ
 
 ラ・シエネガ、笑ってくれよ、また会おうって
 
 やれやれ、また夜がやってきた
 いつものようにジーンズにジャケットにシャツを脱ぎ捨てる
 何にせよ結局は最悪な気分なんだ
 彼女のおかげでね
 
 ラ・シエネガ、笑って言ってくれよ、きっとまた会おうって
 
 ライアン・アダムスというミュージシャンは素行にはちょっと問題がある。あるライブでは自分の名前に似た大御所“ブライアン・アダムス”の曲を冗談でリクエストしたオーディエンスに怒ってライブを止めてしまったり、日本でもフジロックに来た時には雨のせいで気分が斜めだったらしくノイズだけをまき散らしてさっさと切り上げたりしている。それでも彼は驚くほど律儀にもこの10年間コンスタントに作品を出し続けている。きっと本当は気が小さくて真面目なんだと思う。そうでもなければこんなセンチメンタルな曲は作れない。彼の音楽の特徴はロック、フォーク、カントリー、ブルーズと多彩である。ある作品ではフォーク色がつよく、ある作品ではハードなロックをやっていたり、思い切りカントリーをやったかと思うとどろどろのブルーズをやってのけたりもする。でも聞きやすさで言えばセカンドアルバムにあたる『GOLD』が一番だと思う。彼のすべての要素が落ち着いて配分されている。10年以上前の作品だけどこの手の音楽は時代性とかは関係ないのでいつでも新鮮に聞けておすすめですよ。

AdamsRGold

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