【映画】リーアム・ニーソン主演『誘拐の掟』レビュー ※ネタバレあり

リーアム・ニーソン主演作の『誘拐の掟/A Walk Among The Tombstones』のレビューです。エドガー賞受賞作家ローレンス・ブロックの私立探偵「マット・スカダー」シリーズの『獣たちの墓』を原作とし、リーアム・ニーソン演じる過去に傷を持つ私立探偵が謎の猟奇殺人事件に挑むクライム・スリラー。リーアム・ニーソンの暗い演技が際立つ作品でした。2015年5月30日より日本公開決定。

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■ストーリー、前半■ ※ネタバレなし

マット・スカダーは免許を持たないモグリの私立探偵。ニューヨーク市警の刑事だった1991年に、飲酒状態で強盗を撃退するも一般市民も巻き添えにしてしまい、その時のトラウマから刑事を辞めた過去を持つ。

ある晩、マットはアルコール依存症患者の集いに参加した後、ピーターという顔見知りの男に誘拐事件の仕事を依頼される。そしてピーターの兄であるケニーの豪奢な自宅に訪れたマットは、ケニーが麻薬の売人であることを見抜き、誘拐事件はあくまでFBIが担当すべきということで仕事の依頼を断る。

しかし別の夜、マットの自宅に押し掛けてきたケニーから事件の経緯を聞かされ、その異常さにマットは言葉を失う。

ある日、ケニーの元に「妻を誘拐した」という電話が入る。身代金として40万ドルを要求。金を用意したケニーだったが、妻が乗っていると告げられた車のトランクには、何十にも小分けされたビニール袋が。それらはケニーの妻の体の一部だった。

ケニーが麻薬の売人であることからも事件を警察に持ち込むことも出来ず、マットは仕方なく仕事を受けることにする。

マットはまず図書館に行き、近辺での起きた事件のなかで猟奇性が類似する事件を探す。コンピュターの扱いに慣れていないマットは近くにいた黒人少年TJの力を借りて、過去に近くの墓地にバラバラにされた遺体がビニールに入れられ廃棄されていた事件に辿り着く。

この事件の目撃者と、墓地の管理人の聞き込みを開始したマットは、事件の奇妙な関連性に気がつく。事件の目撃者の家を訪れたマットは、刑事の経験から彼が麻薬の売人であることを嗅ぎ付け、そして墓地の管理人の部屋のなかに、その売人と事件の被害者の性行為を盗撮した写真を発見する。

麻薬の売人とその恋人や妻が遭遇する猟奇殺人。そして三度繰り返されようとする猟奇殺人。マットは自身の過去のトラウマとも戦いながら、この異常な事件の核へと近づいていく。

■レビュー■ ※ネタバレなし

本作はローレンス・ブロック原作の『獣たちの墓』の映画化作品であり、主役は過去にアル中を患い現在は禁酒中のモグリの探偵マット・スカダー。飲酒中の強盗団への発砲行為で少女を殺してしまった過去を持つ孤独な男マットを演じるのは、最近一年に3回は劇場で観ているような気がする人気絶頂のリーアム・ニーソン。

本作は猟奇殺人を扱っているが、デヴィッド・フィンチャーの映画のように登場人物同様に観ている側も精神的に追い詰められるような類いの映画ではなく、やはりリーアム・ニーソンの映画である。直接的な猟奇的シーンはほとんどないし、比較的早い段階で犯人の顔を明らかになることからも謎解き要素も薄い。扱っている題材が猟奇殺人ではあるものの、映画の内容としてはサイコ・スリラーというよりも探偵映画に近い。そこで起きた事件の意味や意図を描くと言うよりも、事件を解決する主人公の姿を描くことを第一義としている。

ということでここ最近、特に『96時間』以降のリーアム・ニーソン主演映画の多くがそうであるように、本作の最大の見所はリーアム・ニーソンそのものである。アカデミー賞ノミネート経験のある62歳の味わい深い俳優でありながらも、近年の彼のフィルモグラフィーはほとんど「アイドル」的であり、特に本作では過去の傷に苦しみながらもそこから這い上がってくるというまさに「アイドル映画」と同様の構造となっている。

故にスリラー映画としての見所はかなり薄い。特に犯人側に猟奇的な魅力は一切なく、物語中盤でいきなり犯人のご尊顔が映し出されるなど、製作サイドが本作を「リーアム・ニーソン映画」に仕立てたかった意図はかなりはっきりとしている。猟奇殺人を繰り返す犯人らの心理的描写の代わりに、主人公マットの心理描写が主になっており、物語の主軸には主人公のトラウマからの復帰というもので、猟奇殺人事件はそのきっかけでしかない。物語後半に描かれる少女の身体欠損描写も、マットの辛い過去との繫がりとして消化されるに留まる。つまりスリラー映画としては全然スリラーではないのだ。

しかし本作をリーアム・ニーソンの「アイドル映画」として観れば良質な作品に仕上がっている。彼の魅力とは巨躯の背中と、栄養失調気味のうさぎのような悲し気な表情のコントラストにある。完全無欠の強い男ではなく、本作でも痛めつけられたり、警察にお世話になったりと、彼の不完全さが強調されている。だからこそ彼が一人で自分の過去から這い上がってみせる時に観客は高揚する。

個人的は『96時間』シリーズのような最強オヤジよりも、リーアム・ニーソンはこの「マット・スカダー」の方が当たり役のような気がする。それは実生活で妻を亡くしたリーアム・ニーソンがその葬儀で一人では立っていられないほど打ち拉がれていた姿と重なる。そういう意味でも本作はリーアム・ニーソンの「アイドル映画」として観る限りにおいて、十分に楽しめる映画となっている。

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※次のページにストーリー後半のネタバレあり※

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