ドキュメンタリー映画『AMY エイミー』レビュー

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『Amy エイミー』

全英公開2015年7月3日/日本公開2016年7月16日/イギリス/128分/ドキュメンタリー

監督:アシフ・カパディア

出演:エイミー・ワインハウス、モス・デフ、タイラー・ジェームズなど関係者多数。

あらすじ(ネタバレなし)

2011年7月23日にこの世を去った天才シンガー、エイミー・ワインハウス。27歳という若さで駆け抜けた半生を、プライベート映像や未発表曲を通して描く。

たった2枚のスタジオアルバムを残しただけだが、2008年にはグラミー賞で最優秀新人賞や最優秀楽曲賞など5部門を受賞する。一方でドラッグと酒に溺れ、問題行動を起こすことでも知られていた。

一体何が彼女を死に至らしめたのか?

27年の短い人生を駆け抜けた不出世の天才シンガー、エイミー・ワインハウス。彼女の本当の姿をプライベート映像とインタビューを通して描き出す。

レビュー

ロックミュージシャンが27歳で死ぬことは珍しいことじゃない。ブライアン・ジョーンズやジム・モリソン、ジャニス・ジョプリン、そしてカート・コバーンと27歳でその激しい人生の幕を閉じたことは、ロックというジャンルが持つ刹那的な魅力に重なり、その事実をもってして伝説となったとも言える。

2011年7月23日、ジャズをルーツにR&Bやソウルを歌いこなす天才シンガー、エイミー・ワインハウスが死んだ。死因は急性アルコール中毒。麻薬中毒者だった元夫への依存から抜け出し、本格的な復帰へ向けてツアーを開始した矢先に、彼女は酩酊状態でセルビアのステージに上がり世界中から批判を浴びた。そしてその翌月、自宅ベッドで死んでいるエイミーが発見される。27歳だった。

ビリー・ホリデーやエラ・フィッツジェラルドを彷彿とさせる粘り気のあるハスキーな歌唱で若い頃から注目されていたエイミーは20歳でデビューすると、そこから一躍トップスターになる。そしてたった7年という活動期間と2枚のアルバムを残した後、「クラブ27」のドアを叩いた。

本作『Amy エイミー』は、幼少の頃からのプライベート映像を元に、様々な関係者のインタビューを交えて彼女の短い半生を振り返る構成となっており、劇中には彼女の歌が多く使用され、それらがエイミーの人生とリンクするような作りになっている。しかしこれは演出上の結果というよりも、彼女が書く歌詞が私小説的であることに起因している。劇中でも語られるようにエイミーは自分の喜びや悲しみを歌に直接的に書き込んでいた。つまり映画でなくても、彼女の歌を聴き、その歌詞を理解すれば彼女の心模様を推し量ることができる。実際に彼女のデビューアルバム『フランク/Frank』は当時付き合っていた年上の恋人の振られたことがきっかけとなっている。

自分のリアルな感情を歌に込める。凡庸なミュージシャンにとってそれは歌詞を書くひとつの手法となるだろう。結果、君が好きなのに想いが通じなくて苦しいよ、苦しいよ、それでも愛してるよ、、、、といったゴミ屑のような歌が巷に溢れるようになる。しかしエイミーは決して歌詞の書き方として私小説的な方法を選んだわけではない。彼女の場合は、そうしなければならなかった。そうすることしかできなった。なぜならエイミー・ワインハウスという一人の人間は、その歌と決して分離できない関係だったからだ。

幼少の頃より並外れて豊かだったエイミーの感受性は、皮肉にも両親の離婚という悲しみによってさらに過敏なものになっていく。そのなかで彼女は何かに依存しなければ生きていけないようになっていった。友人や家族同様に、ある面において彼女の豊かな音楽性とは、彼女が揺れ動く自分の依存(=避難)先として形成されたとも言えるのかもしれない。しかしやがて彼女の依存対象は、恋人やアルコール、薬物へと破滅的な方向へと向かっていく。

そして本編後半で描かれるエイミーが生涯愛したトニー・ベネットとの共演シーンはとても切ない。すでに彼女の精神はその時点でどこか致命的に狂っていたのだろうか、トニー・ベネットを前に緊張して自分のイメージ通り歌えないことにかなりナーバスになっている姿が映されている。それでも憧れのトニーとの時間を良いものにしようと必死になっている彼女の姿を通して、やはり歌うことがエイミーを救ってくれるのではないか、という叶わない希望を抱かせる。それでも観客はそうならないことを知っているから、余計に切ない。

彼女が27歳という若さでこの世を去ったことはあまりに突然で衝撃的なニュースだったが、同時に訃報にふれた時には多くの人が「やはり、そうなってしまったか」という想いも抱いたと思う。以前、ジャズミュージシャンの菊地成孔氏がロックミュージシャンは劇的な早死にをするが、ジャズミュージシャンは実はなかなかしぶとい、ということをどこかで書いていた。確かにステージの休憩中に愛人に射殺されたり、警備員に殴り殺されるなどジャズメンの「死に方」は多種多様だが、実はイメージとしてあるオーバードースによる死亡例はロックほど聞かない。それは基本的にジャズは貧乏だからヘロインやコカインを大量に買うことが出来なかったためと言われる。

では、もし彼女が有名にならなければ今でもどこかで彼女の歌は聞けただろうか?

という問いかけはきっと無意味だろう。確かにそうなれば彼女は死なずに済んだのかもしれない。有り余る金もなければ、リハビリ施設での特例もなかっただろう。地元のバーで週末に歌うくらいなら彼女は27歳で死ぬ必要もなかったのかもしれない。それでも世界中の音楽ファンは彼女の歌声と音楽に魅了された。彼女の音楽は間違いなかった。その特異な言動も含めて、「天才」シンガーの動向に注目し、彼女にもっとたくさん歌ってほしいと願った。しかしその願いが彼女を追い詰めたのも事実。結果、ひとりの「天才」シンガーはあっけなく「伝説」の仲間入りを強いられる。いつの時代も伝説が作りあげられる時、そこには人々の罪悪感や贖罪の念が透けて見える。彼女を伝説化することで、自分たちの罪が伝説になるための「試練」だったと思いたがるのだろうか。

生前、彼女の奇行を面白おかしく書きたてたイギリスのメディアは彼女の死後、当たり前のことだが、彼女への追悼をこぞって掲載した。曰く、「愛しのエイミー」だそうだ。メディアに限らないこの軽薄さこそが多感な彼女を深く傷つけ、やがては死に追いやったのかもしれない。

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ということで『Amy エイミー』のレビューでした。ホームビデオをもとに彼女の幼少時代からを丹念に描いており、「普通」の女の子だったエイミーがやがてはトップスターになり精神の維持が難しくなる過程がよくわかります。彼女の心身のバランスの崩壊を暗示するように、トニー・ベネットとの共演作が『Body & Soul』というのも皮肉です。そして劇中には彼女が歌がちりばめられており、その歌唱力には圧倒されてしまいます。それゆえにやはり彼女の死は悲しいのです。これは日本でもきっと公開されるんじゃないでしょうか。それほど素晴らしいドミュメンタリーでした。おすすめです。以上。

Summary
Review Date
Reviewed Item
エイミー AMY
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