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映画レビュー『シチズンフォー スノーデンの暴露』

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『シチズンフォー スノーデンの暴露/Citizenfour』

全米公開2014年10月24日/日本公開2016年6月/アメリカ・ドイツ/113分/ドキュメンタリー

監督:ローラ・ポイトレス

出演:エドワード・スノーデン、グレン・グリーンウッド、ウィリアム・ビニー他

あらすじ(ネタバレなし)

2013年6月、香港発で世界中に報道されたエドワード・スノーデンによるアメリカ国家安全保障局の違法な諜報活動に関する衝撃の内部告発。

スノーデン本人から暗号を受け取り取材を開始した監督とジャーナリストの手によって、世界中を巻き込んだスキャンダルの真相が明かされる。世界を驚愕させた8日間の香港での内部告発の一部始終を写したドキュメンタリー。

レビュー

野獣化する国家の行く末とは?:

2013年に国家安全保障局(NSA)の元職員だったエドワード・スノーデンがNSAによる違法な諜報活動を暴露した経緯を描いた本作『シチズンフォー スノーデンの暴露/Citizenfour』は発表と同時に話題となり、2015年のアカデミー賞を受賞するに至る。

本作を観ていてまず最初に思い浮かんだのは1976年の『大統領の陰謀』だった。ワシントン・ポストの記者ふたりが当時のアメリカ大統領ニクソンの政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」の真相へと踏み込んでいく過程を描いた社会派ドラマであり、実話である。「ディープ・スロート」という謎の内密者とのスリリングな駆け引きと、真実に近づくことで危険が増していく政治の暴力性を暗に描いた名作だ。どちらの作品も権力の妨害に出会いながらも真実を激しく希求する人々の姿を描きつつも、本編では事件の途中までしか描いていない。

そして本作は未だ解決したわけではない事件を扱ったドキュメンタリーだ。

2013年1月、本作の監督で「ポスト9.11」のアメリカの暴走を批判的に描いてきたローラ・ポイトレスの元に暗号化されたメールが届く。「CitizenFour」という偽名者から送られたメールの内容とは、監督自身が長く取材対象としてきたNSAの違法な諜報活動を告発する内容だった。これまでもNSAが9.11後に行っていた諜報活動への批判は行われていたものの、そのメールの送り主は過去の告発者とは決定的違っていた。彼はその証拠を持っていたのだ。NSAが違法な諜報活動を行っていた明白な「現物」を彼は持っていた。

やがてポイトレス監督は「CitizenFour」と名乗る告発者と安全な通信手段を確保すると、以前に彼がコンタクトを取ろうとしたジャーナリスト、グレン・グリーンウッドを伴い、香港のホテルの一室で初めて「CitizenFour」を出会うことになる。その「CitizenFour」こそがエドワード・スノーデンだ。そして香港のホテルでの8日間の会合は、やがて世界中を巻き込んだ世紀のスキャンダルへと発展する。本作はその一部始終を、可能な限りの誠実さで映し出したドキュメンタリー映画で、当たり前だがフィクション映画とは現実感で大きな隔たりがある。本作で描かれている国家の暴走という問題は、現在進行中の問題でありインターネット社会へと移行される社会にあって避けては通れない、来たるべき我々の危機でもある。

本作では大きく二つのレベルでの「告発」が描かれている。

一つはこれまで自由と民主主義を標榜してきたアメリカがテロリスト以外にも友好国の要人や一般市民の通信を当たり前のように傍受し、それだけでなく彼らの行動までも監視していたというプライバシー侵害と国家矛盾の問題。本作の中心的問題提起はこの部分にあり、9.11以降にアメリカが行っている対外戦略の無法化を告発してきた監督らしく、国家運営のために国民のプライバシーを犠牲にすることを厭わない政府への批判が色濃く反映されている。

そしてもう一つの「告発」対象とは、NSAを含むアメリカ政府が9.11以後に権力の空洞化を加速していることだ。『大統領の陰謀』では告発する相手がはっきりしていた。それはニクソンであり、その周辺の取り巻きであり、そして彼らを中心とした権力の暴走である。少なくとも1970年代のアメリカの混乱にあっては、時の政府には、腐ってはいても中心が存在し、非難の対象や責任の所在がはっきりとしていた。しかし本作には「告発」相手が出てこない。当事者に事情があって出てこないのではなく、そもそも問題の当事者が存在すらしていないことが本作では暗に描かれている。

それはこのスキャンダル後のオバマ大統領の迷走ぶりにも現れている。オバマは公式会見で「愛国者」という言葉を持ちだしスノーデンを非難した。おそらくはオバマ本人も自身の政権の自己矛盾に気がついていたはずだ。ブッシュ政権下での高圧的な対外戦略を激しく非難したオバマ本人が、ブッシュ政権時代よりも非民主的な監視システムを拡大させているのだ。自分が批判した「非愛国者=ブッシュ」よりも一面においては「非愛国」的な現実を放置していたオバマに愛国を語る資質があるのか疑問だ。

しかし本作の「告発」対象はオバマ大統領でもNSA長官でもない。そもそもこのNSAの違法な諜報活動をオバマ大統領が知っていたかすら問題にしていない。責任の所在がたらい回しになり、権力の中枢にいる連中が口を揃えて他人事のような言説を繰り返すだけの政府に対して、今回のスキャンダルの責任を希求したところで何の成果もみられないことを監督は過去作で思い知っている。だから監督はあえて本作で責任の対象を明確にしていない。

ポイトレス監督が問題の本質として「告発」しようとしているのは中心なき権力の野獣化と言い換えられるかもしれない。野獣には共感性はなく、もちろん倫理観もない。意思決定の順序は完全に無視され、まるで動物的反応の連続で構築された国家となっていく病理。叩かれたらさらに強く叩き返し、黙っている相手は拷問してでも吐かせ、目の前で裏返しのままの書類があればそれが他人のものであれ盗み見し、批判者は徹底的に排除する。本作に登場するスノーデンのスキャンダルを報道したジャーナリストの恋人はアメリカからの強い要請のためイギリスの空港で9時間にわたり拘束される。そこでは正常な国家としての意思と、正常な意思決定手順は全く考慮されていない。膝を叩けば跳ね上がるように、脊髄反射でしかアメリカは作用しなくなっている。脳(=権力の中心)が全く機能していない状態と言えるのだ。

もちろんアメリカが中心を放棄し野獣化したきっかけは9.11だ。それ以降のアメリカの愚行はあえて説明する必要もないだろう。そしてその矛先はイラクやアフガンだけでなく、アメリカ国民にも向けられている。一説によればオバマ政権下でNSAが傍受したデータは膨大で、アメリカ国内で交わされたほとんどすべてのメールデータも含まれるという。

しかし本作を観て思うのは、権力の野獣化とはアメリカに限ったことではないということだ。日本でも思慮浅い政治家たちの空虚な政治パフォーマンスを見ていると、彼らのほとんどが躾のいい犬ほどの理性さえ持ち合わせていないことがよく分かる。もちろんそれは自民党の政治家だけではない。そのカウンターにも似たり寄ったりの脊髄反射的な野獣の姿はちらほら見える。聞くに堪えない言葉が飛び交い、差別意識を垂れ流しては自らを省みることもない。

かつてアメリカは自由と解放の象徴で、民主主義の父親と考えられていた。しかし実際には自由と解放と民主主義の根幹にあるプライバシーを殺そうとする首謀者となっている。

ゴヤやルーベンスの絵でも有名なローマ神話に登場するサトゥルヌスは、やがては自分を殺しにくると疑った息子たちを食ってしまう。『我が子を食らう、サトゥルヌス』がそれだ。かつて自分が神々の権力闘争の果てに父親を去勢し殺した際に受けとった、やがてお前も同じ運命を辿り殺されるだろう、という予言にうなされたせいだ。そして神々の頂点に一度は立ったサトゥルヌスだが、自分が恐れた予言通りに息子(ギリシア神話でのゼウス)に権力の座から追放されてしまう。

今のアメリカはパラノイアを患っているように見える。自らが民主主義の名の下に独裁政権を駆逐し覇権国家へと成長した過去が、9.11以降の権力の空洞化を進め、いつしか親殺しを恐れる野獣の偏執へと向かわせることになった。民主主義によって殺されることを恐れるアメリカは、サトゥルヌスがそうしたように、自分の子どもである民主主義や自由を殺そうとしているのかもしれない。

この神話は一種の暗示となり、野獣化した国家の行く末を予見しているように思える。

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ということでドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露/Citizenfour』のレビューでした。日本公開決定の報が入ってからも一向に公開日が決定しない本作の日本での扱いには思わずいらぬ邪推をしてしまいますが、なんにせよ、非常にスリリングで怖〜い映画です。本編ではスノーデン本人が通信傍受の実態はわかりやすく説明してくれているので、教材としての価値も高いと思います。難しいことを抜きにしても現実の緊張感はハンパないです。最近5つ星を連発しているようで自重したいものですが、これは「見るべき」映画ということで仕方ないです。おすすめです。以上。

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シチズンフォー スノーデンの暴露
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COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 1 )
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  1. 国家は、あなたを監視してる。

    「ということは、逆もまた可能ではないのかな」と思いました。

    あなたは、米国政府が直面している課題に対する唯一の解決策を
    インターネットで公開できます。
    米国政府は、あなたがインターネットに公開した唯一の解決策を
    監視し、採用せざる得ないということです。
    あなたは、国家を操り、支配することも可能です。

    君は自分の手で歴史の歯車を回してみくないのか?

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