映画『X-コンタクト/Harbinger Down(原題)』レビュー

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SFホラー『X-コンタクト/ハービンジャー・ダウン(原題)』のレビューです。1980年代にソ連が秘密裏に打ち上げた月探査船の残骸から発見された凍り付けになった宇宙飛行士からは突然変異したクマムシの細胞が発見され、やがては血みどろの惨劇に襲われる。『遊星からの物体X 』を強く意識しつつ、CGを排し全編アニマトロニクスなどのプラクティカル・エフェクトにこだわった異色作。

『X-コンタクト/HARBINGER DOWN』

全米公開2015年8月7日/日本公開2016年7月16日/アメリカ・カナダ合作

監督:アレック・ギリス

脚本:アレック・ギリス

出演:ランス・ヘンリクセン、カミール・バルサモ、マット・ウィンストン他

あらすじ(ネタバレなし)

グラフ(ランス・ヘンリクセン)が船長を務めるトロール船ハービンジャー号は、グラフの孫を含めた地球温暖化の調査目的のクルーとともに、ベーリング海を航海していた。

そのとき、海中に不思議な発光体を発見する。船に上げてみると、それはソ連時代に打ち上げられた衛星の残骸で、中には凍り付けにされた飛行士の死体が残されていた。しかしその死体には不思議な生命体が寄生していた。低温のため活動を停止していたものの、船に上がったことで氷が溶けていき、やがては宇宙飛行士の死体とともに消え去った。

監視調査の結果、ソ連の衛星は宇宙空間で強い生命力を持つ「クマムシ」を行っていたと見られ、それが宇宙空間を経験したことで突然変異したものと考えられた。

そして謎の生命体は、液状に姿を変えながら神出鬼没し、クルーを襲い始める。クルーたちの様々な思惑が交錯する中、この最恐最悪の生命体の恐怖から生き延びることができるのか!

レビュー

本当のクリーチャーの話をしよう:

まずは本作が作られる経緯から。

ジョン・カーペンター監督作の1982年『遊星からの物体X/The Thing』の前日譚を描いた作品『遊星からの物体X ファーストコンタクト』が2011年に作られた時、CGなどを限界まで排した実物でのクリエーチャー描写を担ったのがアマルガメイテッド・ダイナミクスだった。彼らはアニマトロニクスと呼ばれる生物を模したロボットを使ってクリーチャーを描くも、結局はポスプロ段階で大幅にCGを加えられることになった。それを快く思わなかった(当たり前だが)アマルガメイテッド・ダイナミクスの中心人物で、過去に『エイリアン対プレデター』などでSFXを担当したアレック・ギリスが、それならばとキックスター(クラウド・ファウンディング)で資金を募って、完全CG排除100%プラクティカル・エフェクトのみでのSFホラーを作ろうという試みの実現が本作『ハービンジャー・ダウン』だ。

ということでクリーチャー愛をこじらせた映画人たちの情熱の塊のような映画だった。

話はまんま『遊星からの物体X』である。ベーリング海で発見された未知の生命体が、乗組員に寄生していくという内容。発見されるのはソ連時代に地球に墜落した宇宙船で、それは宇宙空間で「クマムシ」の研究を行おうとしており、謎の生命体とはその「クマムシ」の突然変異として説明される。『遊星からの物体X』との大きな違いをあげるとすれば、犬が出てこないことと、未知の生命体に寄生されたかどうかが外見から判断できるかできないか、という点くらいなもの。本作では生命体に寄生された人間はすぐにわかるようになっている。つまりお話上での新しい展開を期待する作品ではなく、見所は唯一、クリーチャー描写に限られる。一点集中、クリーチャー表現以外には興味ない連中が集まって作った作品なので、プロットが薄いとか、ストーリーが類型的すぎるとか言う奴は、みんな「クマムシ」に食われてしまえばいい。

そもそもがCGやらVFXやら糞食らえ、という清々しい偏狭さから出発しているため、映像の現代感と似つかわしくないようなレトロな演出が冴え渡っている。生命体が液状化し排水溝に逃げ込んで行く逆回転映像や、クリーチャーが暴れまわるシーンも早回しを多用している。パソコン上で特殊効果を付け足そうとか、そういう発想は全くない。潔いまでに細部に人の手が介在しているのがよくわかる。

本作の最高の見所は、人体に寄生した生命体が宿主の体を維持したままで襲い来るシーンだ。体からは第三、第四の手が伸び、首下からは人間とは別の「クマムシ」頭部が突き出してくる。コンセプトアート( 下)を見ると『寄生獣』みたいだが、両者とも『遊星からの物体X/The Thing』が元ネタなので、異母兄弟みたいなもの。

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アクションの派手さや、細部の精密さはCGにはかなわないが、それを隠すために映画全体のトーンは薄暗く設定されており、登場人物たちの絶望感とうまくリンクしている。正直に言えば、もちろん全然怖くないのだが、それでも見入ってしまう。

本作がキックスターで資金を集めることに成功した背景とは、CGを多用したハリウッド版『ゴジラ』が大ヒットしたなかでも、東宝の特撮『ゴジラ』への期待の声が多く聞かれたこととよく似ている。特撮に「技術」と「魂」が求めらるのと同様に、本作からもCGに頼らないクリーチャーの存在感から、製作陣の情熱がビシビシと伝わってきた。『エイリアン』や『遊星からの物体X』などで描かれたクリーチャーの実物感は現代でも通用することがよくわかる作品に仕上がっている。

もちろん誰にでもおすすめできる映画ではない。少なくとも『エイリアン』や『遊星からの物体X』を観ていないと、魅力も半減するだろう。そして作品としても決して高評価が与えられるものではない。ジャンルとしてはB級SFホラーとなるのだろう。それでも映画を観終わったあとに思わず拍手を送りたくなったのも事実。久しぶりに本当のクリーチャーを見せてもらった気がした。頑張れば勝てそうな気もするのだが、劇中では圧倒的なクリーチャー。俳優の演技とクリーチャーの存在が密接だった頃の緊張感を思い出させてくれる。これが本当のクリーチャーなのだ。

最後に本作の撮影裏映像をご覧ください。2015年にこうやって映画を作っている大人たちが存在するということに、意味もなく勇気づけられるのは僕だけでしょうか。

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ということで『X-コンタクト』のレビューでした。『エイリアン2』のビショップ役のランス・ヘンリクセンが出演するなど『エイリアン』と『遊星からの物体X』へのオマージュを隠そうともしないあたりも好感が持てます。欲を言えば、もっとクリーチャーの襲来シーンを長く観たかったのですが、やはり予算上の問題があったのでしょう。でもこういう映画がクラウド・ファウンディングで作られるというのは映画の未来に希望を感じさせてくれます。ファンが観たいと思う映画にファンがお金を払う。この関係は何よりも健全です。日本ではどのような形で紹介されるのかわかりませんが、是非とも鑑賞してみてください。おすすめです。以上。

追記:『ハービンジャー・ダウン(原題)』は『X-コンタクト』という邦題で7月16日~8月19日、シネマカリテ「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」にて上映が決定しました

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Review Date
Reviewed Item
X-コンタクト/ハービンジャー・ダウン(原題)
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