映画レビュー|『マッドマックス 怒りのデス・ロード』-こんな空っぽの世の中だ、地獄めぐりのほかに何がある?

30年ぶりのシリーズ最新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のレビューです。新たなマックスとしてトム・ハーディを迎えた本作。シリーズ最高傑作というだけでなく、話題作揃いの2015年公開映画のなかでも現時点では他を圧倒する存在感。新『マッドマックス』の誕生を高らかに宣言する、壮大な世紀末オペラの序章。ネタバレページあり。監督はジョージ・ミラー。日本公開は2015年6月20日。

Mad Max Fury Road lovely day

『マッドマックス 怒りのデス・ロード/Mad Max: Fury Road』

全米公開2015年5月15日/日本公開2015年6月20日/アメリカ・オーストラリア映画/120分

監督:ジョージ・ミラー

脚本:ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー、ニコ・ラサウリス

撮影:ジョン・シール

出演:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース・バーン、ゾーイ・クラヴィッツ他

あらすじ

時は炎と血に支配された世紀末。妻子を殺され砂漠をさまよう一匹狼のマックス(トム・ハーディ)は、その旅の途中で武装集団「ウォーボーイズ」たちによって捕えられ、支配者イモータン・ジョー(ヒュー・キース・バーン)が暴力で支配する荒野の王国「ウェイストランド」に連れて行かれる。

一方、マックスが囚われの身になっていた頃、「ウォーボーイズ」の幹部である片腕の女戦士インペラトル・フリオサ(シャーリーズ・セロン)が運転するトレイラーが予定とは違う道を走り始めた。彼女はイモータン・ジョーの支配から逃れるためジョーの妻である5人の女を引き連れて、緑豊かな故郷へと逃亡を図ったのだった。

イモータン・ジョーらは早速追跡を開始するも、囚われのマックスもまた「ウォーボーイズ」の戦士ヌックス(ニコラス・ホルト)が運転するバギーに縛りつけられたまま、その追跡劇に巻き込まれることに。

最初は敵対し合うフリオサとマックスだったが、共にイモータン・ジョーから逃げるということで思惑が一致。ここに世紀末を舞台にした、ノンストップ地獄めぐりの幕が切って落とされた。

※ネタバレのストーリー紹介は次のページで※

レビュー

こんな空っぽの世の中だ、地獄めぐりのほかに何がある?:

30年ぶりのシリーズ最新作で、これまで度重なる公開延期と追加撮影など、本作への期待度とは、正直に告白すれば、とにかく派手なカーアクションがあればそれでいい、という程度のものだった。編集段階でのラッシュ試写を観た一部の人からも、好意的な言葉があまり聞かれなかったこともあって、ジャンル映画としての「祭り」を期待するくらいだった。一方で、予告編が公開されるようになると風向きも徐々に変わってきた。何かとんでもない世界観を表現しようとしているのではないか、と思えたのだ。しかしそれでもやはり「カーアクション」が期待の主な対象だった。それさえちゃんと盛り上げてくれればそれでいい、という程度だった。

しかしこれがとんでもなかった。蓋を開けてみれば、とんでもない映画体験が待っていた。こんなことになるとは想像もしていなかったし、こんなに心乱される『マッドマックス』が観られるとは考えもしていなかった。本当に、本当に途轍もなかった。最初の数十分で「カーアクション」への期待感は軽々と満足させられた。早送り気味なアクションシークエンスへの違和感などはすぐに消え去り、惜しげもなく爆破される車に、虫けらのように踏み潰されていく人々。『マッドマックス2』の世界観を継承したカーデザインや人物設定が、もったいぶらずに容赦なく破壊されていく。

本作はただのアクション映画ではない。もちろんカーアクションは本作の魅力の重要な要素であるが、それが全てでは決してなかった。これは炎と血の世界を舞台にした壮大な世紀末オペラの始まりだった。

囚われの身となったマックスは、妻子を殺されたことが原因となって妙な幻覚に苛まれる。そしてシャーリーズ・セロン演じるフリオサは、幼少のころに確かに過ごした緑豊かな故郷を夢みて、イモータン・ジョーに娶られた5人の女たちを連れ出す。彷徨うことが目的となっているマックスが、目的を持って彷徨う彼女たちと出会ったことで物語は一気に「地獄めぐり」の様相を表す。それは地獄を求めるマックスと、地獄から逃れようとする女たちの道中であり、目的は違えど行く道は同じという奇妙な旅路だった。まさかこんな世紀末オペラが下敷きにされているとは思いもしなかったのだ。

今回の新『マッドマックス』ではフランチャイズ化が予定されており、契約では今後さらに3作のシリーズが制作される予定だという。本作鑑賞前にこのニュースを知った時は、「何を無茶な、、」という思いだったのが、実際にはしっかりとしたシリーズ全体のイメージをジョージ・ミラー他の製作陣が共有していたことがよくわかった。つまり本作はマックスによる「地獄巡り」の序章だったのだ。

メル・ギブソンの後を引き継いだ新マックスのトム・ハーディは、旧三部作最終作『サンダードーム』で揺らいでしまったマックスの人物設定を原点に戻しつつ、さらに、「何を考えているのかわからない」という要素を付け加え、新しいマックスとしてはこれ以外ない適役だったと言える。なによりラストのマックスの姿には心から震えた。

シャーリーズ・セロンも強くも脆い女戦士を熱演していた。ニコラス・ホルトもよかったし、5人の女たちもただのお色気担当という訳ではなく、それぞれが重要な意味を担っていた。アクションシーンや世界観の設定以外にも、この配役はほとんど奇跡のように思える。

そしてもちろんジョージ・ミラーは喝采を受けて然るべきだろう。本作で描かれる目眩く展開は『ハッピーフィート』で磨かれたに違いないし、戦う女たちの魅力は『イーストウィックの魔女たち』から引き出されたのだろう。そう思えば、一見すると理解不能な彼のフィルモグラフィーも、この『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で結実したと言えるかもしれない。

話題作揃いの2015年にあって本作は、『ワイルド・スピード SKY MISSION』や『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』さえも蹴散らすような傑作と断言したい。

レビュー冒頭の「こんな空っぽの世の中だ 地獄めぐりのほかに何がある?」という言葉は寺山修司からの引用である。新たな『マッドマックス』には寺山が体現したような、ニヒリズムのなかにのみ現れる叙情性が描かれていた。この地獄めぐり、どこまで続くのか、最後まで付き合ってみたくなる。

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ということで『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のレビューでした。もう、何も言えません。本当に、本当に、すごかったんです。まだ半分しか経っていない2015年ですが、現時点では圧倒的な破壊力でベストな一作です。とにかくこのレビューは初校ということで、今後何度も見直すことでちょっと訂正するかもしれません。クドイですが、すごい映画でした。迷わず観ろよ、観ればわかるさ。

※次のページにネタバレのストーリー紹介※

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5 件のコメント

  • いつも楽しくサイトを拝見しています。
    自分も本日みました。心躍る、素晴らしい作品でした。
    いちいち出てくる人たちの造詣がツボに入りましたね。

    後半の振り子みたいな敵とか、棘戦車とか「もっと簡単な
    方法、あるんじゃね?」と突っ込みたくなるシーンが
    いっぱいなのも最高。乳女も婆軍も、炎のギタリストも、
    沼地で一瞬しか出てこない竹馬族も、どれもが心をギュっと
    掴まれるキャラクターでした。
    次回作でこれを超えられるのか!?と心配になります。

    ところで、私はシンガポールで観たのですが、「イモータン
    ジョー」を、中国語訳では「不死身(Immortal)のジョー」と
    意訳してました。にしては、意外にあっさり死にますが(笑)。

    一番笑ったのはガソリン吹き掛けエンジン回転競争。こんなん、
    考え付いてもやろうと思いません。脱帽です。

    • Tommyさん、コメントありがとうございます。
      改造車の数々には興奮しますよね。しかも容赦なく爆破されますから、もう最高でした。
      あと沼地での竹馬たちは最高のアクセントになってました。とにかく頭のおかしい世界だということがよくわかります。
      イモータンジョーはあっさり気味ですが、それでも男気がほとばしる子煩悩ぶりには鳥肌でした。
      おっしゃる通り、これで次回作はかなりハードルが上がりましたが、この世界観はヒーロー映画やロボット映画では絶対に再現できないものなので、期待したいです。

  • 初めまして。
    英語が疎いのにもかかわらず自分も観てきました。
    マックスよりフリオサの方が活躍してたのが少し気になりましたが
    カーアクションは申し分のない素晴らしい出来でした。
    近年マッドマックスに似た「デス・レース」や「ドゥームズデイ」がありましたが
    やっぱり本家は違いますね。

    ネタバレの質問なんですが
    最後のテロップで「first history man」って言葉が出てきたんですが
    あれってどういう意味で誰の言葉なんですかね?
    あの意味が分からず未だにモヤモヤしてます。

    • meroさん、コメントありがとうございます。
      言葉抜きにすごい映画でしたよね。
      ネタバレとなる、ご質問のラストの引用文についてですが、正確には「First History of Man」だっと思いますが、あれはマッドマックスの世界に登場する架空の本ということです。そこからの引用という形で、“Where must we go, we who wander this wasteland, in search of our better selves.”という言葉が登場します。訳すと、「このウェイストランドで彷徨う者たちは、皆がそれぞれの良心を探して、進まなければらない」という感じです。
      意味としては、まだまだ『マッドマックス』は終わらないぜ、ということだと思います。

  • 管理人さん ありがとうございます!スッキリしました。
    まさか架空の本の引用だったとは。てっきり著名人の名言を引用したのかと考えてました。
    今後もシリーズ化して欲しいですね。
    次回はジャイロキャプテンだったブルース・スペンス氏に復活して欲しいです!

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