「不思議の国のアリス」をもとに描いた大ヒットファンタジー『アリス・イン・ワンダーランド』の続編『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』のレビューです。悲しい過去にとらわれたマッドハッターを救うため、時間をさかのぼる旅に出るアリスの冒険を描く。
『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』
全米公開2016年5月27日/日本公開2016年7月1日/ファンタジー/113分
監督:ジェームズ・ボビン
脚本:リンダ・ウールヴァートン
出演:ミア・ワシコウスカ、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン・ハサウェイ、アラン・リックマン
レビュー(ネタバレなし)
ティム・バートン監督による前作『アリス・イン・ワンダーランド』は全米で3.3億ドル、世界中で10億ドルを超える大ヒットを記録したのに対し、その6年ぶりとなる続編『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』は全米では1億ドルにも及ばず、全世界での2.3億ドル程度と制作費1.7億ドルの作品としては興行的には「失敗作」という結果に終わった。
その原因は様々あると思う。ヒットすればなんでも続編が作られる現状に観客はすでに飽き飽きしているとか、続編までの6年という時間のおかげで関心が他に移ったとか。そして何よりも本作のような「誰も傷つかないし、誰も悪くない」映画を観客は求めていないということだろうか。
大作映画らしい贅沢でカラフルなCG描写や、物語が間延びしないように配置されたアクションシーン、そして前作から引き続いて登場する人気キャラクターたち。一本の映画としては決して悪い作品ではなかった。前作のファンにとっては間違いなく楽しめる作りになっていて、主要キャラクターの厚みも増していく。それでも退屈を覚えてしまうのは、物語の途中から本作の意図がはっきりと感じ取れてしまうからだ。結局は最後に全てが丸く収まるという「誰も傷つかないし、誰も悪くない」着地点が早い段階から示されることで、その後の冒険や諍いなのがどうでもよく思えてしまうのだ。
亡き父の意志を継ぎ女船長として中国からイギリスまでの過酷な船旅を終えて家に帰ってきたアリスだったが、元婚約者の策略で自宅と引き換えに父の船を手放すことを強いられようとしていた。絶望するアリスの前に、突如聞き覚えのある声が語りかけ、その青い蝶の姿をしたアブソレム(アラン・リックマン)の後を追っていくと、そこには「不思議の国」へと通じる鏡があった。
早速、チェシャ猫やレイヤード、ツィードル兄弟そして白い女王(アン・ハサウェイ)と再会するのだが、そこでアリスは親友マッド・ハッター(ジョニー・デップ)の調子が良くないことを知らされる。
どうやら森の中で偶然に見つけた帽子の細工品を見たことで、死んでしまったとされる家族のことを思い出してしまいふさぎ込んでいるようだった。
徐々にマッド・ハッターの体調は悪くなり、特徴だった赤毛からも生気が失われていった。
なんとかマッド・ハッターを助けようとするアリスは、白の女王が提案した時間を巻き戻す力のある「クロノスフィア」を時間の番人であるタイム(サシャ・バロン・コーエン)から借りて、時間を遡り、赤の女王がはなった怪物に殺されたというマッド・ハッターの家族を救い出そうとする。
こうして親友マッド・ハッターのために時間を遡る冒険にでることを決意したアリスは、過去の世界でハッターの家族に隠された真実や、赤の女王の過去などを知ることになる。
ディズニーの映画ということもあってガジェットは相変わらず作りこまれている。特に「クロノスフィア」が変形した姿はジョージ・パル監督作『タイム・マシン 80万年後の世界へ』(1960)のタイムマシンとそっくり。そして時間の番人タイムが支配する「時間の国」も舞台そのものがアトラクションのようになっていてディズニーらしさが随所に感じられる。
そして逞しさを増したアリスや、過去の因縁が描かれる赤の女王らのキャラクターは益々際立っている。
しかし物語の見せ方は本当にどうしようもない。特にアリスがスッタモンダの末に過去に遡ってからは、息つく暇なく場面が展開するために行き当たりバッタリ感が強く、映画のオープニングで描かれる成長したアリスの姿がそこに全く反映されていない。「女性の自立」という裏テーマがことごとくスベッている。ここがダメだから、あっちに行こう、あっちもダメだったらそっちに行こう、、、、そうこうしている間に過去の因縁を紐解く重要な鍵が勝手に現れて、また違う世界へと冒険を移行していく。とにかく忙しく動き回るだけなのだ。
アトラクション的な魅力は評価できるだろうが、アニメ『ズートピア』の後だからこそ、単純なアトラクションのなかで手垢まみれのテーマとタイムパラドックスを描いてもそれは退屈でしかない。
「誰も傷つかないし、誰も悪くない」結末を求めているファンには申し分ない作品とも言えるが、そんな生ぬるいだけの映画に金を払いたくはない観客の方が多いことも十分に理解できる。
そして本作をルイス・キャロルの原作小説を「基にした」作品として見た場合、そこに何の毒も感じられずに呆れるばかりだ。人間世界を分断する価値基準をひたすら転倒させ、絶対的な座標軸をはりぼてに見立てた彼のエッセンスは本作の物語にはほとんど反映されていない。冒頭で中国風ドレスを身にまとうミア・ワシコウスカの姿に少女愛者とされるルイス・キャロルのコンプレックスを見出すことができるかもしれないが、それも実際には中国市場へのゴマスリだろうと確信するほどに、本作には毒がない。言い換えれば刺激がない。
退屈なディズニーの典型に思えた。
『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』:
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