映画『スター・トレック BEYOND』レビュー(ネタバレページあり)

大人気SFシリーズの劇場版リブートシリーズ第3作『スター・トレック BEYOND』のレビューです。「連帯か、それとも戦いか」という惑星連邦の存在を根底から揺さぶる異星人の挑戦を前に、カーク船長に率いられるエンタープライズ号は史上最大の危機に見舞われる。監督は『ワイルド・スピード』シリーズのジャスティン・リン。

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『スター・トレック BEYOND』

全米公開2016年7月22日/日本公開2016年10月21日/SF/122分

監督:ジャスティン・リン

脚本:サイモン・ペグ、ダグ・ユング、ロベルト・オーチー、パトリック・マッケイ、ジョン・ペイン

出演:クリス・パイン、ザカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、カール・アーバン、ジョン・チョー、サイモン・ペグ、イドリス・エルバ

レビュー

J・J・エイブラムスがはじめたご長寿SFドラマの映画リブートの第三弾となる『スター・トレック BEYOND』は、目まぐるしく展開するストーリー同様に、その製作過程も難航を極めた。シリーズの屋台骨だったはずのJ・J・エイブラムスは『スター・トレック』の最大のライバルである『スターウォーズ』へ堂々と浮気し、その後を託されたロベルト・オーチもプロデューサーとしては有能だったかもしれないが監督してはスタジオの要求に応えることはできず、結局は『ワイルドスピード』シリーズのジャスティン・リンがメガホンを取ることで落ち着いた。

これまでの勢い良く発進していたリブート版『スター・トレック』はここで立ち止まり、それでも残った者たちが作り上げたのが『スター・トレック BEYOND』だった。

前作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』が原色に溢れた未開の惑星でのノンストップ・アクションから始まったことと同じく、本作でもエンタープライズ号は異星人の惑星に向かい、不思議な力を持った石の利用法について説得を試みるも失敗するというアクション・シークエンスで幕を開ける。結局逃げるようにしてエンタープライズ号は惑星連邦の巨大なスペースステーション「ヨークタウン」に戻ることになる。

前作の終わりに5年もの宇宙探査の旅に出たエンタープライズ号だったが、それから3年、クルーたちの気持ちにも変化があった。特に船長ジェームズ・T・カークと副船長スポックはそれぞれの「役目」について深く悩み、エンタープライズ号から降りようとさえ考えていた。

そんな時、正体不明の敵から襲われていた惑星群から連邦に救出依頼のメッセージが届けられる。救出に向かったエンタープライズ号はその途中で迎撃不可能の敵に襲われ、遂には艦船を放棄する事態に。多くの仲間が敵に捕まってしまうなか、何とか脱出ポッドで逃げることに成功したクルーたちは、囚われた仲間たちを助けるために、再び団結するのだった。

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(C)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

今更とりたてて言うことでもないが『スター・トレック』の魅力は、『スター・ウォーズ』のそれとは全然違う。『スター・ウォーズ』の壮大な世界観は僕らが暮らすこの世界の小ささを実感させてくれ「宇宙」という可能性の無限さを教えてくれる。一方で『スター・トレック』の壮大な世界観はこの世界を小ささを実感させることはあっても、常にこの世界と地続きで繋がろうとするメッセージが込められている。この世界が抱える「越えがたい」問題を『スター・トレック』の世界ではすでに解決しており、「不可能なんかじゃない、さあ、早く追いつけ」と、この世界の可能性の無限さを教えてくれるのだ。

TV版『スター・トレック』の先見性を数えるときりがないが、有名なところではテレビドラマで初めて黒人と白人がキスをしたのも『スター・トレック』だし、冷戦期の真っ只中にロシア系キャストをメインキャラクターに持ってきたりと常に同時代的な問題の「解決後」の世界を描いてきた。

その魅力は本作にも受け継がれ、公開前に論争にもなったアジア系クルーのスルーの同性愛設定や、そしてイギリスのEU離脱(ブレグジット)やトランプに代表されるような、この現実世界に広がる連帯への諦めという風潮に一石を投じる内容になっている。

本作では「連帯か、独立か」というテーマを本作は物語の中心に据えている。

イドリス・エルバが演じる本作のヴィランはクロルというエイリアンで、彼の目的は「破壊」にある。そして彼が「破壊」したいのは、連邦惑星の宇宙ステーションだけでなく、連邦惑星の理念でもある「連帯」という概念そのものだった。連帯は人々を甘えさせ堕落させるが、孤立して行われる戦いこそは人々を強くする。この考え方はEUを離脱するイギリスを支えたものと同種だし、自国の利益最優先を掲げるトランプの政策にも通じるものだ。そしてなぜイドリス・エルバ演じるクロルは、そのような考え方に至ったのかという部分が本作の「オチ」となる。

全世界的に一番ホットな対立事項を物語の核としたのが『スター・トレック BEYOND』だった。

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(C)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

しかし映画の評価とはそのテーマ性に委ねられるのではなく、特に『スター・トレック』のようなエンターテイメント作品においては如何にして「明快」な物語のなかに無理なくそのテーマを忍び込ませるのかという点は重要な評価ポイントとなるのだが、残念ながら『スター・トレック BEYOND』ではテーマ性ばかりが「走って」いるだけで、エンターテイメントとしての魅力に欠ける結果となっていた。

本作ではスコッティ役のサイモン・ペグが脚本家として参加していることもあって期待されたコメディ面でも新鮮さは薄くで、全体としては暗いトーンに落ち着いている。J・J・エイブラムスが監督した前2作ではクルーたちの関係性や、カークを中心とした他のクルーとのバディ感が重要な魅力だったのだが、本作ではエンタープライズ号は受動的に戦いに巻き込まれ、主人公サイドと対立するのが好戦的集団ということもあり、両者の違いの明確にするためだろうがカーク船長の個性に代表されるような向こう見ずな「無茶ノリ」はない。個人的にはリブート版の最大の魅力がこの「呼ばれてないけど、俺たちがやってやる」という型破りなエンタープライズ姿勢だったのだった。そして本作にそういったプロットも確かに用意されているのだが、淡白すぎる。

一方でクルーたちの関係性は一気に『ワイルド・スピード』風にコテコテになる。とにかく浪花節で、焼きそばをおかずに白米を食っている気分になる。

またこれも『ワイルド・スピード』的と言えるのかもしれないが、物語の途中でクルーは離れ離れになり、4つほどの陣営にわかれてしまうために場面の切り替えが頻繁に行われることになった。シーンの移動は大忙しなのだが、物語自体はさほど展開されない。おかげでいつの間にかクライマックスにたどり着いているという手応えのなさが目立ってしまうことになった。

ということで前作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』と比べると、妙に辛気臭い作品になってしまった。きっと『スター・ウォーズ』との違いを強調したかったのだろうが、SF作品としては『スター・トレック』の方が先輩なわけで、差別化を図る必要があるのは本来は向こうのほうのはず。

そのため掴み所のない作品となってしまった印象が強い。

ただし決してダメな映画ということでもなく見所も多い。特にエンタープライズ号の破壊シーンでは思わず「第三艦橋大破!!」と叫びたくなるし、船長をやめようとするカークがそれでも自然と艦長席に座ろうとして生まれ持ってのキャプテン・スピリットを発揮するところなどファンにも嬉しくなる。第1作で作品を盛り上げたビースティ・ボーイズの『サボタージュ』の使い方も興奮するし、レトロ vs 最先端の戦いも見所のひとつ。そしてワードローブを開けるとズラリと黄色いユニフォームが並んでいるシーンもお馴染みだ。

でもこう言った細部がファン以外の観客の楽しみに繋がっているのかは怪しい。すでに続編の製作も決定している人気シリーズだけに、新しいファンの発掘というミッションにも挑んで欲しかったというのが本心。

決して「シリーズ最高傑作」という作品ではないことは確かだが、それでもレナード・ニモイ、そしてアントン・イェルチンへの追悼という意味でもおすすめしたい一作。

『スター・トレック BEYOND』:

『スター・トレック BEYOND』のストーリー(ネタバレ)は次のページ

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Review Date
Reviewed Item
スター・トレック BEYOND
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