『X-ファイル』新シリーズ第5話のレビューです。ISISによるホームグロウンテロを思わせる凄惨な自爆テロから始まるも、途中からはコメディタッチの演出へと変わっていき、昔のモルダーとスカリーを彷彿とさせる捜査官コンビも登場する、最終回へのフラグに満ちた一作。
『X-ファイル 2016』エピソード5 「バビロン/Babylon」
全米公開2016年2月15日/日本放映2016年夏/オカルト/44分
監督:クリス・カーター
脚本:クリス・カーター
出演:デイヴィッド・ドゥカヴニー、ジリアン・アンダーソン、ミッチ・ピレッジ、ほか
レビュー
全6話のミニシリーズとして復活した『X-ファイル』もとうとう第5話。第1話に続いてシリーズの中心人物であるクリス・カーターが脚本・監督した本エピソードは、イスラム教徒の衝撃的な自爆テロからはじまる。
場所はテキサス。イスラム教徒の青年が祈りを終えてから友人を車で迎えにいく。そしてその友人とともに街中にあるアートギャラリーに向かう。店に入った途端に大爆発がおき、火だるまになった人々の悲鳴があたりに響き渡る。
この事件をテレビで見ていたモルダーとスカリーのもとを2人の若いFBIエージェントがやってくる。男女の二人組で青年の方はミラーと名乗り、女性の方はアインシュタインと名乗った。二人はモルダーとスカリーと同じようにコンビを組んでおり、今回の爆発事件を担当している。
実行犯の一人はまだ生きていた。脳に激しい損傷を負い、植物人間となりながらも生命維持装置に繋がれまだ生きていた。そして同様のテロ事件が起こる可能性から、モルダーたちは何とかその犯人と意思疎通を図る術はないものかと思案していた。
<ここからエピソードのネタバレ部分>
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本エピソードは第3話より抑えたトーンだがコメディであり、同時にラストとなる次回が凄惨なものになるのではないかと疑ってしまうほどに、ハートウォーミングなエンディングとなっている。
一方でストーリーの本筋部分はかなり強引な展開となっている。
次のテロを防ぐために植物人間と化した実行犯との会話を試みるモルダーとスカリーだが、モルダーの方はマジックマッシュルームを摂取して意識下レベルで実行犯と接触しようと試み、スカリーは脳波の測定という科学的なアプローチを行う。
そして結局はマジックマッシュルームを病室で摂取したモルダーが自分の潜在意識のなかで実行犯の出会い、彼の口から漏れたキーワードを根拠にテロリストの拠点を暴く、という内容になっている。事件解決の方法としては、現実的にも物語的にも褒められたものではない。特にオープニングの凄惨な爆破シーンや、イスラム教徒によるテロという現実問題とそれに潜む差別や偏見という二次的問題を匂わせておきながらも、物語の解決方法がコメディタッチで描かれることには違和感を感じ得ない。第1話でも感じたアメリカの保守的な偏見がここでもうっすらと見えてしまう。
それでも最終回前のエピソードとしては、まさかこのまま夢心地のハッピーエンドで終わるわけがないだろうという「フラグ」がしっかりと立っており、次回につなぐリリーフ回としてはよくできていた。
これまでのシリーズでも度々登場したモルダーとスカリーの分身として登場する若いFBIエージェントを通して、二人の信頼感や繋がりが強固であることが描かれている。それを象徴するのがラストにかかる二つの曲だ。
事件が解決した後、これまで意見の相違が多かったふたりの若いエージェントが互いの違いを乗り越えながらも絆を確かめるシーンではロン・セクススミスの『Secret Heart』が流れる。この曲はそのタイトル通り、秘めた思いをなかなか伝えられない苦しみを歌った曲で、「隠していたいという想いは実は早く知ってほしい想いでもある」ことが歌われている。
一方でその後にモルダーとスカリーが軽口をたたき合うラストのシーンではザ・ルミニアーズの『Ho Hey』が流れる。この曲は孤独のなかで過去を悔やみながらも大切なことに気がつく心情を歌っており、幸せそうに手を取り合い歩き出す二人が空撮で徐々に小さくなっていく姿に重ねることで、最終回を暗示するようだ。
本エピソードでは、なかなか分かり合えない異質な存在同士が折り合いをつけていく過程を描いており、タイトルの『バビロン』とは「バベルの塔」の神話を想起させつつも、テロリストたちが潜伏していたホテルの名前が「バビロン」であることは悪魔の住処としての大淫婦バビロンも彷彿とさせる。しかしこういった言葉遊びが強引な印象が強く、イスラム教徒云々のプロットは丸ごといらなかったのではないかと感じた。色々と意味を書き込もうとした結果、散らかった印象を受ける。
とは言っても40分程度のドラマとしてはしっかりと成立させるのはさすがだ。微笑ましくハートウォーミングなエピソードであるだけに最終回がどれほどシリアスになるのか期待せずにはいられないのだ。
『X-ファイル 2016』エピソード5 「バビロン」:
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