アリシア・ヴィキャンデル主演『戦場からのラブレター』レビュー

Testament of Youth Poster

『戦場からのラブレター/TESTAMENT of YOUTH』

全英公開2015年1月16日/日本公開未定/イギリス/129分

監督:ジェームズ・ケント

脚本:ジュリエット・トウィンディ

出演:アリシア・ヴィキャンデル、キット・ハリントン、タロン・エガートン、コリン・モーガン他

あらすじ(ネタバレなし)

イギリスの上流家庭で育ったヴェラ(アリシア・ヴィキャンデル)は両親の反対を押し切って、オックスフォードにあるカレッジへの入学を決める。

そして第一次世界大戦が勃発すると、ヴェラの弟のエドワード(タロン・エガートン)や婚約を誓ったロナルド(キット・ハリントン)たちは次々と「ノブレス・オブリージュ」に従って戦場へと志願していく。

そしてヴェラもまた戦争に無関心でいられるはずもなく、救護隊の一員に志願し戦場へと赴く。

戦争の現実に戸惑いながらも強くあろうとするヴェラだが、戦争は容赦なく彼女の未来を踏みにじっていく。

レビュー

戦争に青春を捧げた若者たちの遺言:

『エクス・マキナ』やガイ ・リッチー監督の『コードネーム U.N.C.L.E.』にも出演し今話題の女優アリシア・ヴィキャンデルの他にも、『キングスマン』のタロン・エガートンや『ゲーム・オブ・スローン』のキット・ハリントンなど、ヨーロッパ出身の注目若手俳優らが出演した本作は、過去に作られた戦争ドラマの傑作と比較しても決して劣ることのない感動的な物語に仕上がっていた。

舞台は20世紀初頭のイギリス。上流家庭に生まれたヴァラは弟のエドワードやその友人らと美しい自然のなかで幸せに暮らしていた。彼女は保守的な女性観に反発するようにして、オックスフォードのカレッジに入学し、将来は作家になることを夢見ている。活発で勝気ながらも、女性として振る舞いにも自覚的な女性。物語はそんな彼女の視点を通して描かれる。

ほどなくして勃発した第一次世界大戦。上流家庭に育ったヴェラの弟とその友人らは、当たり前のようにして自ら前線へと赴く。英国貴族のなかには今なお強く残る「高貴さには義務が生じる(ノブレス・オブリージュ)」という考えの基、まだ20歳にも満たない青年らが「男になるため」に戦場へ向かっていく。そしてヴェラもまたエドワードの兵役に難色を示す父親を説得してまで弟の名誉を重んじた。戦争という現実を人生の試練として彼らは受け入れていたのだ。

映画の序盤は美しいイギリスの風景のなかで、美しい若者たちが将来を語らい友情を育んでいる。もちろん物語はそこから悲惨の一途をたどる。本作はヴァラが経験するそんな戦争の凄惨な現実を通して、最終的に彼女がその戦争から「自立」する過程が、わずかな感情の機微を含めて、非常に丁寧に描かれている。2時間を超える映画であり、展開の多くは予想された事態でありながらも本作に退屈を覚えることがなかったのは、やはりアリシア・ヴィキャンデルを筆頭に若手俳優たちの素晴らしい演技の賜物だろう。また心配事など何もない序盤の牧歌的な風景と死体が転がり手足がもぎられる戦場の風景が、まるで延長線上にあるようにして連続的描かれており、戦争という静かに致死的に迫り来る恐怖を確実に捉えていることにも成功している。

本作はイギリスの平和主義者で作家のヴェラ・ブリテンの回想記を基に作られており、原作もイギリスなどで長く読まれているという。つまり実話にかなり近い物語ということになる。そして実際のヴェラ・ブリテンが当時のイギリス社会にあって進歩的な考えを持っていたことからも、旧来の「戦争と男」という考えに反発するようにヴェラはただ兵士の帰りを待つだけの「女」であることを拒否し、自分もまた看護師として兵士のサポートに参加する。この時点までヴェラはまだ戦争というものを知らない。彼女を戦争に向かわせた動機とは、彼女自身の進歩性に由来する。これまでの英国的女性像に反発するヴェラは、女性もまた戦場に赴くことで、過去の慣習を乗り越えられると考えていたのだろう。だから彼女は弟が戦争に志願することにも賛成する。戦争そのものには反対せず、戦争がもたらす意義さえも信じている。ヴェラが弟の戦場志願に反対する父を説得するときに言う「彼を男にしてあげて」という言葉がそれを物語っている。

しかしもちろん現実はかくの如きとはいかない。男になるまえに男を殺すのが戦場だった。看護師として参加することになったヴェラが病院で見たのは、立派な男たちの姿ではなく、腕や足をもがれ子供のように泣き叫ぶ男たちの姿だった。戦争は男を一人前にするものではなく、男だけでなく人間そのものを台無しにするものだという真実にやがてヴェラは気がつく。彼女が敵国への反感以上に戦争そのものへの嫌悪を隠さなくなるのは、戦地に赴いた女性として当然の反応だった。

戦争と女性は隔絶されているように見えて、実は非常に密接に付き合わされてきた経緯がある。それは歴史的にも明らかで、アメリカで女性参政権を認めることになった所謂「スーザン・アンソニー修正」が議会を通過したのは第一次大戦後のことだし、さらにフェミニズム運動や女性解放運動の機運が高まる1960年代から70年代にかけてはベトナム戦争の時代だった。そして日本で政治上の男女平等が達成されるのは第二次大戦に負けて、占領軍が出した改革司令に従ったためだ。戦争により女性の社会的立場は揺れ動かされてきたのだ。

ヴェラもまた戦争に揺れ動かされた一人だった。自分の浅はかさがやがて取り返しのつかない事態を生んでしまうという彼女の苦悩もまた、安易に戦争の意義を男性的試練と考える「男になりたい男たち」の絶望的な将来を暗示しているようだった。

本作のラスト、戦争に参加することのない中年連中の戯言を前にしてヴェラが叫ぶ戦争の無意味さは観るものの心を撃つ。戦争を経験した者の語る「戦争」には耳を傾けよう。しかし戦場から遠い安全な部屋に暮らす者たちの語る「戦争」については聴く価値はない。ヴェラの反戦思想が自身の強烈な自己反省からもたらされたことを考えると、戦争への自己反省を忘れたときにこそ、その国は戦争へ向かっていくのかもしれない。ましてや「ノブレス・オブリージュ」が機能していない日本が仮に戦争に突入した場合、戦争を知らない連中の命令で死んでいくのは確実に社会的弱者となるだろう。そして戦争は権力者にとっては安全な外交手段の一つとなってしまう。

戦争が意義ある試練となり得るという男性的な考えこそが、ひいては国家を危機に陥れることを本作は警告している。ウヨク系おじさんたちのオナドルと成り下がっている日本の一部の女性政治家たちは本作を観て何を思うだろう。きっと何にも感じないのだろう。

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ということで『戦場からのラブレター/TESTAMENT of YOUTH』のレビューでした。前から話題になっていたので気になっていたのですが、ちょっと重そうな内容を嫌って今の今まで放っておいたのですが、観てみたらこれが立派な映画でした。確かによくある戦争ドラマであることは違いないのですが、とにかくBBCの仕事は細部まで丁寧です。そして若手俳優たちの瑞々しさと、そこからの落差にこそ戦争の姿があるのかもしれないと思ったりもしてみました。まあ、とにかく戦争なんてするもんじゃないです。するにしても金持ちから順に戦場に送るくらいの憲法ができないと、私のような正義の貧乏は命がいくらあってもたりません。速攻で地雷とか踏みそうですから。この微妙な時期にこそお勧めしたい映画ですが、日本公開はどうなんでしょうね。期待しましょう。以上。

 

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