50年代SF映画傑作選⑩『縮みゆく人間』(1957)レビュー

CGとデジタル全盛の今だからこそ押さえておきたいクラシックSF映画を勝手に紹介する50年代SF映画傑作選。今回はSF作家リチャード・マシスンの同名原作を彼自身が脚本家として参加し製作された『縮みゆく人間』のご紹介。放射能を浴びたことで徐々に縮んでいく男の悲哀を通して、生きることの意味を問いかける作品。人生の全てはその存在に委ねられていることを訴える、テーマ、脚本ともに特出した傑作SFドラマ。

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『縮みゆく人間/The Incredible Shrinking Man』

1957年公開/アメリカ映画

監督:ジャック・アーノルド

脚本:リチャード・マシソン、リチャード・アラン・シモンズ

原作:リチャード・マシソン『縮みゆく人間』

出演:グラント・ウィリアムズ、ランディ・スチュワート、エープリル・ケントなど

ストーリー

美しい妻を持つスコットは休暇をボートで楽しんでいた時、突然発生した霧に包まれる。その後、スコットの身長は徐々に低くなり、体重も減っていく。この不思議な現象に悩んだ彼は病院を訪れると、 検査の結果、彼は確実にそして徐々に縮んでいることが確認された。別の専門病院で診てもらった結果、彼がボート上で包まれた霧は放射性物質であり、その後に散布された殺虫剤との相乗効果によって彼の身体は縮んでいくことが判明する。

そしてスコットは瞬く間に小人のように小さくなってしまう。仕事を失う一方でメディアで取り上げられ見世物のようになってしまうことで彼の自尊心はずたずたに切り裂かれてしまう。彼は兄弟の勧めもあって自分の身に降りかかった不幸を書き留めるようになる。それでも妻の支えのなかで生活していたスコットの元に縮小を止める物質が見つかったことが知らされる。そして投与の結果、彼の縮小は止まるも、元の大きさに戻るわけではなかった。

1メートルにも満たない身長となったスコットは家を飛び出して、夜道をさまよう。そしてある喫茶店で彼は小人の美女クラリスと出会う。見世物小屋の一員として生きる彼女と出会ったことで、生きる意味を見出したスコットだったが、縮小を止めていた薬の効果が切れてしまい、彼はクラリスよりもさらに小さくなってしまった。

自暴自棄となったスコットの精神は歪んでく。彼は自分の運命と向き合うことができずにいた。

 

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レビュー

本作『縮みゆく人間』の原作は2013年に新訳で復刊され、映画評論家の町山智浩氏が巻末解説を担当しているため映画ファンにも広く知られることとなった。その解説(映画評論家町山智浩アメリカ日記)のなかでも語られている通り、本作のテーマは深遠で力強い。特に人生に行き詰まった経験のある人、もしくは現在行き詰まっている人にとっては、主人公スコットの境遇はただのSF的設定を超えた、説得力のあるメタファーとして作用することだろう。

本編はたった80分であり、物語の舞台もほとんどが一軒の家のなかでしかない。しかし本作からスケール不足という印象は全く受けない。逆に小さな舞台でありながらも、これほどまでに根源的な人間の価値を描いて見せた映画は他に知らない。人間が小さくなるという設定では1966年の『ミクロの決死圏』やジョー・ダンテ監督の『インナースペース』などがあるが、本作はそういった「ガリバー」的なギミックとして主人公が小さくなるのではない。小さくなることに目的もなければ価値もない。スコットは止まることなく縮小する運命で、やがてそれは原子レベルまで到達することが明かされるのだ。そうなってしまっては物語にはならないし救いの用意もできっこない。

体が突如小さくなりはじめたスコットはその運命をひたすら呪うだけの存在でしかない。物語の中盤で彼が出会う小人のクラリスは小さいながらも逞しく生き、彼を励ましてくれる大切な存在にも関わらず、彼女より自分の身長が小さくなった途端にスコットは走って逃げ去る。そこからわかるようにスコットはいつも他人との比較においてでしか自分の価値を見出せない男なのだ。小さくなった自分を笑う人々に憎悪を覚えながらも、自分もまたクラリスの存在意義を「自分よりも小さい」ことにしか見出していない身勝手な男だ。この時点まで彼は人間の価値を数値的しか計れておらず、その意味で彼自身を苦しめているのは他ならぬスコットなのだ。誰かに頼り、救いを求めることを当たり前の行為として納得している情けない男だ。

しかし物語の中盤を過ぎ、自分ひとりで生きていかなければならない状況に追い込まれた時から、彼の心象は少しずつ変化していく。とにかく生き延びることに必死になる。そこに比較すべき存在はもうない。彼を支えているのは妻の助けでもなければ、雲をつかむような新薬の誕生という希望でもなく、自分が人間であるという尊厳それだけである。それは大小の問題ではなく、有無の問題であり、ゼロかイチかの違いである。

物語の終わり、彼の独白は一気に哲学的な境地に達する。数センチになった彼が見上げた夜空は、あの頃の夜空と全く同じだった。スコットは自分が存在することのちっぽけさを実感すると同時にこの宇宙全体がそのちっぽけさの集合であることも知る。その時、彼の絶望は希望へとつながり、原子は宇宙へと回収されていく。そして価値や意味とは、決して存在を優先しないことも知るのだ。存在する限り、彼には彼なりの意味と価値が生じる。まさに実存的な物語だ。

50年代SF傑作選として紹介してきた作品のなかでも本作は異色である。SF的設定が社会の鏡として使用されることが多かったなかで本作は社会よりずっと根源的な人間の価値を巡る問いかけを行っている。荒唐無稽のSF映画と甘く見ているととんでもないしっぺ返しをくらうことになるだろう、紛れもない傑作。ぜひご観賞あれ。

Dvd inc

ということで1957年公開『縮みゆく人間/The Incredible Shrinking Man』のレビューでした。本作は『イット・ケイム・フロム・アウター・スペース(1953)』のジャック・アーノルド監督作ですが、それとはまた違った素晴らしい作品です。この監督は他にも『アマゾンの半魚人』とか『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』という作品も撮っているSF映画界の巨匠なのですが、ただのパニックSFに終わらせない手腕は見事。実は本作は原作を読んだのちに最近初めて鑑賞したのですが、原作者が脚本に関わっているだけあってその魅力を損ねることなく映像化しています。また本作は原作者マシスンとその息子が共同で脚本を執筆しリメイクすることがMGMより発表されましたが、その後マシスン本人が亡くなったため、続報が途絶えています。正直、これを超えるのは難しいかなと思います。特に何をやっても上手くいかなくて途方に暮れている方は是非とも鑑賞してみてください。おすすめです。

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