映画『ヤング・アダルト・ニューヨーク』レビュー

『フランシス・ハ』のノア・バームバック監督最新作『ヤング・アダルト・ニューヨーク/While We’re Young』のレビューです。倦怠期を迎えた中年夫婦が風変わりな若者夫婦との交流を通し、やがては自分たちに足りなかったものに気がつくという物語。中年夫婦をベン・スティラーとナオミ・ワッツが、そして若者夫婦を今注目のアダム・ドライバーとアマンダ・サイフリッドが演じる。ユーモアとほろ苦さが合わさった絶品のコメディドラマ。

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『ヤング・アダルト・ニューヨーク/While We’re Young』

全米公開2015年3月27日/日本公開2016年7月/アメリカ映画/97分

監督:ノア・バームバック

脚本・ノア・バームバック

出演:ベン・スティラー、ナオミ・ワッツ、アダム・ドライバー、アマンダ・サイフリッド他

あらすじ(ネタバレなし)

ジョシュ(ベン・スティラー)とコーネリア(ナオミ・ワッツ)は中年夫婦にありがちな倦怠期に突入していた。互いに愛していながらも、何か足りない。ジョシュはドキュメンタリー作家として活躍する一方で新作に手こずっており、コーネリアもまた同年代の友人が子供を授かる中、自分だけ子供に恵まれず疎外感を感じていた。

そんな時、ジョシュが講師を務めるドキュメンタリーの講座に参加していたジェイミー(アダム・ドライバー)とダービー(アマンダ・サイフリッド)の若い夫婦と出会う。若いながらも古風な暮らしを実践する彼らに驚くも、年齢の壁を越えて奇妙な友情関係を育むようになる。

やがてジョシュとジェイミーは一緒に映画を撮ることを企画するも、それを機に両者の間に微妙な亀裂が走ることに。

そしてジョシュは「成功」するための手段をめぐるジェネレーション・ギャップを通して、人生における本当に大切なものの存在に行きあたることになる。

レビュー

『イカとクジラ』や『フランシス・ハ』など「小さな世界で起きた些細な出来事」を特徴的なキャラクターを通して描いているノア・バームバック監督最新作は、ベン・スティラーにナオミ・ワッツ、そして今注目の個性派俳優アダム・ドライバーを迎えての、とても贅沢で、そしてほろ苦い胸の痛みが心地よい、絶品のコメディ映画に仕上がっていた。特に出演陣のコメディセンスが遺憾なく発揮される前半部と、物語上に転がっていたちょっとしたやりとりが一気に意味を帯びるラストは本当に素晴らしかった。

物語は中年のアイデンティティ・クライシスを描いている。ベン・スティラーとナオミ・ワッツ演じる中年夫婦は、仕事や私生活を発端にして同年代の友人たちと少しずつ距離を感じるようになる。そんな時に現れた魅力的で風変わりな若者夫婦との出会いを通して、彼らはこれまでに経験したことのないような文化や楽しみを発見し、そして感化されていく。言い換えればそれは、仕事が上手くいかない、子供がいない、という同世代の友人との隔たりを、仕事に重きを置かず、子供も必要としない若者たちとの交流を通して忘れようとしているだけ。もちろん長続きしない。やがてはちょっとしたホラー映画のような展開へと転がっていくのだが、ノア・バームバック監督はあくまでそれを「小さな世界」での出来事として冷静かつユーモアたっぷりに処理していく。こういった手法はウディ・アレンそっくりだ。

ベン・スティラー演じるドキュメンタリー作家は社会学者ライト・ミルズの「パワー・エリート」論を通して現代アメリカを描こうとする超大作(6時間!)と取り組むもまったく上手くいかず、ドキュメンタリー界の大御所でもある妻の父には「退屈だ」とこき下ろされる。彼の、ドキュメタリーを面白さではなく内容が持つ真実や正義で語ろうとする思惑は見事に粉砕される。一方で、「偶然」の出会いから一緒に映画を撮ることになったアダム・ドライバー演じる若夫婦の旦那は、興味深い「事実」を次々と掘り当て、やがては彼が映画の主導権を握ることになる。

物語の途中までは、いわゆるジェネレーション・ギャップを描いたドタバタコメディなのかとも思えるのだが、実はそのドタバタ自体が物語のテーマと直結しており、やがては「成功」することを巡る世代間での価値の変化を鮮やかに描き出す結果となる。ネタバレに注意して最低限の説明に留まるが、「正義」を声高に叫ぶ前に自分にとっての「正義」を全うすることの重要性が本作の重要なテーマとなっているのだ。例えば自分の家庭の崩壊を黙って見過ごしている人間に、他人の幸せを説教することはできるだろうか。もちろん不可能なわけでが、実世界では同様の事例はいくらでも存在する。犯罪者が嘘つきを非難し、不徳者が不倫を非難する。こういった「ブーメラン」行為はテレビのワイドショーの画面などには常に映り込んでいるも、誰も気がついていない風を装いながら当たり前に見過ごされている。

ともすれば主人公が取り組んでいる映画のように「真実」ではあるが「退屈」な映画になりかねないような前述したテーマも、本作ではコメディラインを強調することで華麗に回避し、安易な説教物語とはまったく違う場所に着地することに成功している。

この成功の半分は脚本の絶妙さだが、残り半分は出演者の演技力に寄っている。ベン・スティラーは『LIFE!』で見せた寓意的な自分探しとは違って、地に足のついた中年男性の混乱と絶望、そしてそこからの回復を上手く演じている。そしてアダム・ドライバーは本作でも素晴らしい演技を披露している。『フランシス・ハ』でもそうだしベルリン映画祭で男優賞を受賞した『ハングリー・ハーツ』でもそうだったが、一本の映画のはじまりと終わりではまったく違った印象を与えることができる稀有な演じ手だ。きっとこの彼のミステリアスで憎めない個性は『スターウォーズ』でも観ることができるのだろう。

敢えて苦言を繰り出すなら、物語の中盤から後半部にかけてストーリーが「もたつく」ようだったのが残念。本編が100分もない映画だったが、少し余計な描写が悪目立ちしてしまった。それもこれも全体として良く出来た映画だから余計に目立つ。別にアマンダ・サイフリッドのせいではないが、彼女の出演部分でそういった箇所が散見できる。

テーマとしては以前ここでも紹介し酷評したサイモン・ペグ主演の『しあわせはどこにある』に通じるものがあるも、その描き方の巧みさでは1R20秒KOされるくらいの差がある。もちろん本作の圧勝である。

特に、年齢を重ね若さを疎ましく、そして羨ましく思うようになってしまった人には深く染み入るような作品だと思う。またしてもベン・スティラー主演作のお気に入りが増えてしまった。

ということで『ホワイル・ウィアー・ヤング(原題)/While We’re Young』のレビューでした。若さとはもう過去のことだが、それは人生においては決して決定的なことではない、ということが心に染みます。さすがにこれは日本公開されるでしょう(お願いします)。ちなみに個人的な話で恐縮ですが本作に登場する「アヤワスカ」の儀式にはペルーで参加したことがあり、その時は僕の目の前にあったペットボトルが突然トランスフォーマーみたいに変形してロボットになって僕のことを追いかけてきました。あれはなんだったんだろう。きっと若さなんだと思います。とにかくおすすめ作品です。以上。

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ヤング・アダルト・ニューヨーク
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