音楽と風景の親和性の高さについてきっと多くの人が思い当たることがあると思う。ある風景を見たときふいに頭のなかで昔好きだった音楽が流れ出すことがある。またiPodのシャッフル機能ではじき出された音楽を何気なく聞いているとき急に目の前に過去の風景が立ち上がり現れて、思わず足を止めることもある。そういうことだ。特に思春期の経験として、何も考えずに聴いていた音楽が何も考えずに過ごしていたはずの記憶のなかでその風景のBGMとしてしっかりと息づいている。音楽には風景を呼び起こす作用が備わっている。それは間違いない。そして多くの場合はそれは自分の記憶と連動している。しかし音楽の不思議な力が及ぼす範囲は必ずしも自分の記憶のみが対象とは限らない。ある音楽を聴いたとき、行ったこともないはずのどこかもわからない異国の風景がイメージされることがある。今回紹介する曲はそんな音楽だ。
アメリカのシアトルを本拠地にして活動するインディー・ロック・バンド「グランド・アーカイブス/Grand Archives」。
ニルバーナやサウンドガーデンを抱えていたことで有名なシアトルのレーベル『SUB POP』より2008年にバンド名と同名のアルバムがファーストアルバムとして発売される。全11曲が収録される本作、静かなロック・ポップ調の曲が大半を占めつつも一曲ごとのバラエティーは豊かで最初から最後まで飽きずに聴ける。
モーテルの一室で、夜明けが近づいている
嵐をやり過ごすためシェードを降ろす
音のないテレビだけが光っている
そしてぼくらは毛布を喉の辺りまで引き上げる
光がうえのほうで渦巻いている
外ではカラスたちが目覚めだした頃
モーテルの一室で、夜明けが近づいては去っていく
まったく眠れはしない
そのなかでも8曲目に収録されている『Sleepdriving』は飛び抜けて美しい。徐々にフェードインしてくるギターを追いかけるようにして呟くような歌声が続いてくる。とにかく歌詞のイメージと重なるようにして一貫して冷たい切なさに溢れている。先攻するリードヴォーカルを追いかけるようなコーラスも美しい。曲の中盤にはテンションが一旦下がりボーカルとヴァイオリンの音で緊張感を作り出す。やがてベルの音が加わる。そして歌われる歌詞のイメージと重なるようにして張りつめていた緊張感は解放される。夜があけたのだ。そして曲のはじまりと同じように音楽はゆっくりとフェードアウトしていく。5分少しの音楽なのにそこから喚起されるイメージは驚くほど鮮明だ。ライアン・ゴズリング主演の『ドライブ』を観たとき、そのラストシーンで劇中では全く別の音楽が流れていたのに私の頭の中ではふいにこの曲が流れた。たったひとりで何もかも捨ててどこかへ行きたくなる、そんな曲だ。
ひとりで旅行するとき、しかもバスや列車に乗っているとき、本当にこの曲をよく聴く。ちょっとセンチメンタルが過ぎるきらいもあるけど一人旅なんてものはそもそもセンチメンタルがなければやってられない。これくらいで気分を作るのがちょうどいい。きれいな声と美しいメロディー、きっと日本人に好まれると思う。これから一人で旅行に行かれる方におすすめします。
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