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ニコラス・ケイジ主演『パシフィック・ウォー』レビュー

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ニコラス・ケイジ主演『パシフィック・ウォー』のレビューです。太平洋戦争末期、原爆の輸送という極秘任務に当たった巡洋艦インディアナポリス号が辿った悲劇を描く。戦争、サバイバル、サメ、ホラー、法廷、友情、ドキュメンタリーと様々な要素が飲み込んだ物語。

『パシフィック・ウォー』

日本公開2017年1月7日/ドラマ/129分

監督:マリオ・バン・ピーブルズ

出演:ニコラス・ケイジ、ジェームズ・レマー、トム・サイズモア、トーマス・ジェーン、マット・ランター、竹内豊

レビュー

太平戦争末期に発生した未曾有の沈没事故「インディアナポリス号の悲劇」をニコラス・ケイジ主演で映画化した本作。映画ファンには『ジョーズ』のなかでロバート・ショー演じる地元のサメ狩りの達人が船の中で語る 、サメに多数の乗組員が食い殺された出来事と説明したほうが早いかもしれない。

1945年7月中旬、巡洋艦インディアナポリスは米軍最高機密の物資を運ぶため、護衛艦なしでサイパンの近くにあるテニアン島に向けて乗り組員1200名を乗せてサンフランシスコを出港する。任務の重要性から、その船に広島、長崎で投下予定だった原爆用部品が詰められていることは伏せられていた。

途中で日本海軍の魚雷攻撃に遭遇するも回避に成功し、7月26日に目的地だったテニアン島に到着。任務を遂行後、次なる目的地であるグアムのレイテ島に向けて出港した。

7月30日、航行中だったインディアナポリス号は橋本以行少佐を艦長とする日本海軍の人間魚雷回天特別攻撃隊、潜水艦伊58に発見され、被弾。1200名を乗せた巡洋艦は12分後に沈没する。およそ300名の乗組員は艦上で死亡するも、残りの900名は海洋上に漂流することになった。

秘密任務であったことが災いし救助は遅れる。撃沈から5日後に哨戒機によって発見された時に救助された生存者はたった300名ほどだった。海に投げ出された900名の乗組員のうち、600名は体温低下、食料不足、幻覚からの自死、そしてサメの襲撃によって命を落とした。

その惨劇からの生存者でもあり、悲運の艦長でもあるチャールズ・B・マクベイ3世を演じるのがニコラス・ケイジだった。

戦争 ・恋愛・沈没・サバイバル・ホラー・法廷・友情・ドキュメンタリー・サメ映画

約120分の劇中、物語が展開するたびに作品のジャンルが休むことなく変わり続ける。

戦争映画としての戦闘シーンもあれば、恋愛や友情といった関係性がクローズアップされるシーンもあり、『タイタニック』ばりの沈没シーンからのサバイバル展開と、サメ襲来、そして救助後も物語は終わることなく、艦長を襲うトラウマという名のホラーと法廷劇が描かれ、最後には敵味方関係なく戦ったものだけに理解できる友情が登場し、ドキュメンタリーのようなタッチのままやっと幕が下される。

類するような作品がなかなか思いつかないほどに、変わった映画だった。近年のニコラス・ケイジが主戦場とするようなオカルトチックな作品とは全く違って、真面目に変な映画だった。とにかく掴みどころがない。

映画の冒頭は戦争映画にありがちな兵士たちの青春模様を背景にニコラス・ケイジ演じる艦長の人間性も描かれる。こういった描写は物語終盤に用意されているメインディッシュを盛り上げるための、いわば「前菜」だ。それがおいしいかまずいかは作品の評価に直接影響しないが、演出上はとても重要なパートになる、物語の導線であり、発端であり、入り口だ。本来なら作品全体の雰囲気や方向性がそれとなく示唆されるはず。

しかし次にシーンが変わり、戦闘からの沈没、そして漂流というサバイバルパートになると、船の沈没とともに「前菜」も海の藻屑となったかのように全く別の作品にリセットされる。『パール・ハーバー』から『タイタニック』になり『白鯨との戦い』から『ジョーズ』になり、そこからまた色々あって、舞台は戦後になりみんなが陸に上がってもまだ『U-571』を引きずっていたりする。

まるで各パートごとに別々の脚本家を用意したかのように統一感がない一方で、艦長ニコラス・ケイジはずっと苦虫を噛み潰したような顔を続ける。

それでも真面目な映画

本来ならこの手のヘンテコな映画は揚げ足を取りながら笑い飛ばす方がいいのだろう。本作は間違いなく奇妙だし、バランスも極端に悪く、お世辞にも褒められた作品ではない。

しかしニコラス・ケイジ演じるマクベイ艦長を待っていた戦後の運命を知ることで、そんな態度を取ることを控えたくもなる。

本作はとてもヘンテコであるのだが、史実に沿った映画でもある。『パール・ハーバー』から『タイタニック』になり『白鯨との戦い』から『ジョーズ』になるという流れは一本の映画としては確かに異様な構成なのだが、もしかするとそれがインディアナポリス号の悲劇の本質だったのかもしれない、という憶測が(きっと思い過ごしなのだろうが)脳裏をよぎる。

インディアナポリス号が辿った悲劇の凄惨さを知りたければ、本作よりも『ジョーズ』を観ることをお勧めする。実際に戦後、軍法会議によって一度は有罪とされたマクベイ艦長の名誉回復が達成されたのは『ジョーズ』を観たことでインディアナポリス号の悲劇に関心を持った少年の行動からだった。インディアナポリス号の生存者という設定のロバート・ショー演じる漁師が暗い船内で、怪談話を聞かせるように語る体験談はそれはそれは恐ろしい。

しかしインディアナポリス号の悲劇にはサメだけではなく、続きがあった。どれほど本作が奇妙で歪で、どうしようもない映画だとしても、そのことについて知りたいと思うのなら『ジョーズ』だけでは足りない。

ニコラス・ケイジに聞いてみるしかないのだ。

ちなみに本作で故ポール・ウォーカーの弟が俳優として本格デビューを果たしたらしいが、正直そんなことどうでもいいと思えるほどに、ヘンテコな映画だった。

『パシフィック・ウォー』:

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パシフィック・ウォー
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