ニコラス・ケイジとイライジャ・ウッド共演のクライムサスペンス『ダーディー・コップ』のレビューです。ラスベガスで退屈な日々を送るふたりの警察官がマフィア関係の大金の存在を知り、強奪することを計画する。共演はジェリー・ルイス。
『ダーディー・コップ/The Trust』
全米公開2016年4月14日/日本公開2016年8月20日/クライム/93分
監督:アレックス・ブリュワー、ベン・ブリュワー
脚本:アダム・ハーシュ、ベン・ブリュワー
出演:ニコラス・ケイジ、イライジャ・ウッド、スカイ・フェレイラ、ジェリー・ルイス
レビュー
定期的に確変を起こしてくれるニコラス・ケイジと、オタク気質で有名なイライジャ・ウッド共演のケイパー映画というだけで意味もなく嬉しくなるのに、オープニングでいきなりおっぱいとマリファナまで登場する『ダーティー・コップ』は、ブラックで偏狭なコメディとしてなかなか楽しめる作品に仕上がっていた。
ニコラス・ケイジ演じるのはジム・ストーン。ラスベガス警察の証拠物担当の警官で、仕事は真面目だが何を考えているのかわからない不気味な男。
そしてジムの部下でいつもマリファナを吸ってばかりいる警官デイヴィッドを演じるのは愛すべきフロド・バギンズことイライジャ・ウッド。彼女が猫を置いて出て行ったばかりで、やさぐれている。
そんなある日、ブタ箱にぶちこまれていたチンピラの保釈金を異常に高いことを見つけたジムは、その金の出所を突き止めて強奪する計画を思いつき、部下で唯一の友人でもあったデイヴィッドを誘い込む。
ニコラス・ケイジ演じるジムはヒットガールに恵まれなかったビッグダディという感じで、ニコニコと不気味に笑いながらも過激な行動も平気で行ってしまうリアルな基地外。ニコラス・ケイジが近年得意とする、一見ボサッとしながらも真顔で黙々と人殺しやらに手に染める本当に怖いタイプの男で、彼の偏執が本作にブラックな笑いを持ち込みながらも、そこから暗転するきかっけにもなる。
一方、イライジャ・ウッド演じるデイヴィッドは、マリファナ吸ったりタバコをふかしたりティアドロップのサングラスをしたりと強面警官を気取ってはいるものの、本当は気が小さい。言い換えればフロド・バギンズとは正反対のような性格で、『ロード・オブ・ザ・リング』以降、彼が好んで演じるタイプの男でもある。
この二人のコンビがマフィアの金を強奪するため結託するのだが、その性格の違いから徐々に溝が深まっていく。
本作で監督デビューしたアレックス・ブリュワーとベン・ブリュワーのコンビはジャスティン・ビーバーの『Where Are U Now』のMV監督だけあって、テンポよく物語の本題である大金強奪計画に取り掛かってくれる。おかげで物語の中盤までは飽きることもなく、ブラックな笑いもあってなかなか楽しめる。一方で同様の映画『オーシャンズ11』や『グランド・イリュージョン』、古くはピーター・イエーツ監督作『ホット・ロック』などケイパーものの醍醐味である、自分たちの特技や仲間たちの性格の違いさえの、ミッションに一点集中するような魅力はない。
そのせいか実際に計画を実行する頃になると突然モタモタしはじめる。
緊張を維持するための仕掛けがいくつか登場するのだが、そもそも本作はアップビートなケイパーものではなく、クライム・サスペンスなため、問題をクリアすることでのカタルシスはなく、逆に泥沼にはまっていく過程が描かれることになる。この頃には序盤にあった変人二人が「一発かましてやろうぜ!」というノリはなくなり、暗〜い仲間割れの予感しかなくなってしまう。
かといってノワール風破滅型ケイパーものの傑作『アスファルト・ジャングル』(1950)のような、破滅の醍醐味みたいなものもない。それもそのはず本作の主人公二人は「普通」の警官なのだ。特別な個人能力もなく、あるのは警官であることの特権だけだ。もちろんこういったケイパーものとしての弱点を監督は十分に理解していることは本作のオチを見ればよく分かるのだが、理解しているからといって作品が面白くなるわけでもない。
つまり警官であるという特権だけで自分たちをケイパーものの登場人物になり得ると勘違いしてしまった悲しき男たちの物語こそが本作『ダーティー・コップ』と言える。このツイストそのものは興味深いのだが、一本の映画としてみれば特筆すべきものでもない。
それでもニコラス・ケイジの存在感はやはり素晴らしいし、イライジャ・ウッドの小物ぶりも好感が持てる。そして何より一時間半でしっかりと幕を閉じてくれることはできるだけ評価したい。それにしても『日本で一番悪い奴ら』といい、警察官というのはどの世界でもロクな奴がいないですね(映画の話です。)
ダーティー・コップ:
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