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映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』レビュー

Mon loi

カンヌ国際映画祭ではエマニュエル・ベルコが女優賞を受賞し、セザール賞主要8部門にノミネートされたマイウェン監督作品『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』のレビューです。10年間に及んだ愛憎の日々を描く、リアルな愛の物語。共演は『ジェイソン・ボーン』『ブラックスワン』のヴァンサン・カッセル。

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』

監督:マイウェン

脚本:マイウェン、エチエンヌ・コマール

出演:エマニュエル・ベルコ、ヴァンサン・カッセル、ルイ・ガレル、イジルド・ル・ベスコ

レビュー

スキー中の事故で足に大怪我を負ったトニーは、リハビリセンターに入院しトレーニングに励みながら、元夫ジョルジオとの愛憎入り乱れる嵐のような日々を思い出している。

かつての夜、運命的な出会いを果たした二人は、幸せな日々を信じ続けたまま妊娠、結婚まで突き進む。

トニーは離婚歴のある弁護士だったが、夫となるジョルジオは金持ちのプレイボーイ。急激に惹かれ合う二人には、その違いこそが相手の魅力でもあった。

ところが結婚するや、ジョルジオの昔の彼女に関する問題が表面化し、二人の熱は急速に冷めていく。

トニーが出産し親になったことで改善の兆しも見えたが、結局はトニーの精神はすこしずつ擦り減っていた。

愛しているけど約束はしない

日本人にとってフランス人の生態は、ほとんど理解不能だ。

「これ以上働く気はないが、もっと金をもらう気はある」「ポイ捨ては良くないが、私はする」「車は危ないが、信号に指図されるつもりはない」とか、こんな冗談みたいな台詞をフランス人は真顔で言うし、ねじ込んでくる。日本にいるとほとんど伝わってこないが、エールフランスのストライキなんてほとんどこのレベルの不満から季節ごとの年中行事みたいに恒例化しているのだ。しかも連中のストには事前連絡なんてないから、思いつきでエールフランスしか飛んでないような太平洋の島やアフリカの僻地に行くとストライキで帰れません、と言う最悪の事態がままある。と言うか私はある。

乗客の予約や予定なんてものは、職員の待遇改善に比べれば大したことではない。

こういった言説は日本社会では絶対に通用しない。しかしフランス人は「この言説は社会的に許されるのか」という問いよりも、人間としての欲求を社会的権利としてまず通す。「これ以上働く気はないが、もっと金をもらう気はある」という考えが通用しないのは社会の問題であって、その考えを個人が抱くことは自然である、と考える。

こういった彼らの自由な発想は映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』で描かれる「愛しているけど、約束しない」という愛の造形にも影響しているのだろう。

本作はリハビリ中の女性が10年に及んだ愛憎の日々を振り返るパターンの作品で、フランス版『ブルーバレンタイン』と言える。しかし序盤から中盤へと至る構成はほとんど同じでありながら、鑑賞後の感覚はかなり違った作品にもなった。その違いの原因とは、やはり本作がフランス産だからということなのだろう。

さよならだけが人生か

弁護士のトニーと遊び人ジョルジオとの「違い」が鮮明になった頃、平穏を求めるトニーに「心電図」を用いてジョルジオが説得を試みるシーンが印象的だった。曰く、線を引いたような平穏な日々は心臓の停止を意味し、急上昇と急降下を繰り返す放物線の連続こそが心臓が動いている証拠なのだという。妊娠と出産というストレスに加えて、ジェットコースターのような日々は耐えられないというトニーの切なる願いは、ジョルジオの誰も反論できないような絶妙な比喩によってかき消されてしまう。

「違い」が魅力に思えた日々が消え去り、その「違い」によって傷つけられていく二人。

そんな二人のリアルな日々を『ブレーバレンタイン』は痛みと後悔を滲ませながら描く一方、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』はそれも人生の一部であり特別なものではないと割り切ることで人間の「業」としてどこにでもある物語として回収している。そう言った解釈が許されるのも、人生では建前ではなく自分の欲求に素直であるべきという同意をフランス人が得ているからだろう。

つまり永遠なんてどこにもなく、人は必ず別れるものという当たり前の話をしているだけだ。

劇中でこれ見よがしに描かれる結婚式での愛の誓いなどは、まさに建前の象徴だ。永遠の愛など誰に誓えるだろうか。誓えるのは嘘つきと詐欺師くらいなもので、愛というのは普通の人をこうも変えてしまいものだとよくわかる。

本作の監督マイウェンは若くしてリュック・ベッソンに見出され、10代で結婚と出産を経験するも、ベッソンはミラ・ジョボに走り破局した経験を持っている。その際にはショックを受けて激太りしてしまったというが、監督の実体験はエマニュエル・ベルコが演じる「違い」に傷ついたトニーに反映されているのだろう。

どうしても『ブレーバレンタイン』と比べると、遠いフランスの出来事のようで実感がぼやけてしまうが、エマニュエル・ベルコとヴァンサン・カッセルの素晴らしい演技のおかげで冗長な展開でも退屈は感じない。それよりも過去と現在の二人のジョルジオを演じたヴァンサン・カッセルの現在の方が、お父さんそっくりになっていてびっくりする。

そしてそのヴァンサン・カッセルの信用ならない魅力こそが、見方によって意味合いがガラリと変わりそうなラストシーンへの布石となっている。

映画のラスト、トニーはジョルジオを見つめる。

その視線は一体何を意味するのだろう。

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』:

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モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由
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