BEAGLE the movie

映画ジャーナル<ビーグル・ザ・ムービー>

日本の映画事情に絶望するあなたへ、「ムービーツーリズム」のススメ。

今、ムービーツーリズムの理由(というかここがメイン)

今回、この記事を執筆するにあたり色々と調べると、多くの作品で日本公開日が世界で最も遅く設定されていることに気づかされました。全米で大ヒットした作品でさえ半年遅れも珍しくなく、劇場公開されないケースも多々あります。

では、一体なぜ日本でこんなことが起きてしまうのか?

原因の根本を色々と探ることは可能でしょうし、多くの映画ファンの怒りの矛先が向けられる映画会社にもきっと言い分はあることでしょう。しかし一つはっきりしているのは、日本の映画事情は明らかに冷静なバランスを欠いているということです。世界中で大ヒットを記録した2012年の『アベンジャーズ』も日本では35億円程度です。『踊る大捜査線』よりも『海猿』よりも『バイオハザードV』よりも低い数字しか残せていないのです。映画の好みはそれぞれとは言え、その傾向はあまりに特殊すぎます。その理由を日本人の特異な感性に求める向きもありますが、やはり構造的な問題があるように思えます。

冒頭でも述べたように、現在の日本映画産業は明らかに健全さを欠いています。テレビとタイアップし、広告費の呪縛から解放されたドラマのような「映画」が日本では限られたスクリーンを長く独占し、それに対抗できるのは巨額の制作費がつぎ込まれたハリウッド大作だけです。それでも『アベンジャーズ』は『海猿』にダブルスコアを付けられるのです。あの手この手で作品関連の露出を増やせば一定の興行収益を確保でき、制作費が回収されるという内向きなビジネスモデルが確立された結果、邦画が過剰に製作される時代になりました。

ここでは自国の映画が多く作られる事態を非難しているのではなく、映画の中身とは全く無関係に恣意的にねじ曲げられたビジネスモデルに立脚する形で安易な企画が通り、それが作品化された結果、海外の良質な映画がスクリーンからはじき出されるという状況に苛立っているのです。ミニシアターが減っていくなか、もう日本では中小規模の映画で人気俳優が出演していなければアカデミー賞で話題にならない限り、ほとんど相手にされません。一方で自国映画の数的豊富さは比類なき水準まで高まっており、その事実のみを拠り所にして「日本の映画産業は健全」とか言うのは阿呆の極みです。今の日本の映画産業とは、消費者が観たい映画を公開することでは成り立っていないのです。これは緩やかな文化破壊とも同義です。

日本がハリウッド映画の公開日が世界で最も遅い国になってしまったことも、その弊害のひとつでしかありません。公開日が遅いからという理由だけで日本の映画事情を非難しているのではありません。それは昔から変わっていません。いくらかの人々は同意してくれるものと思いますが、なぜ世界中で日本だけがここまで公開が遅れるのか理由が上手く理解できないのです。字幕はマレーシアでもシンガポールでも韓国でも付いています。プロの声優を使えば吹き替えに何ヶ月も要する訳がありません。このように現在の日本の映画産業とは映画に関心を深めれば深めるほどに絶望的になってしまうという悲劇的な構造で成り立っています。知れば知るほどに分からなくなり、改善を期待すればするほどに打ちのめされるという機能不全の現実です。

現在の日本の残念な映画事情を生み出した原因や理由をどれだけ得意げに列挙しようとも、現状への反論や弁護には一切なりません。必要なのは対応策です。もちろん「ムービーツーリズム」なんて考えが理想的なアイデアだとは思ってないです。でも私はコレで随分と気楽になれたのです。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』が「愛を知るー全人類に捧げぐ。」作品ということを知っても笑って終われます。『チャッピー』が日本仕様に編集されようとも別にいいです。観たい映画がある場合は自分から動かなければならない時代になったのだと思います。特にインターネットで簡単に海外の情報が仕入れられるようになった現代では尚更のことです。

最後に2015年のGWにムービツーリズム最適の国マレーシアで公開されている映画の一部を紹介します。こうして比較してみると、私がこれまで長々と何が言いたかったのかご理解いただけると思います。

GW比較表

これは上映作品のほんの一部ですが本記事に文脈に沿って日本公開未定作品ばかりを恣意的ピックアップしたのではありません。あえて日本でも公開される可能性がある作品を選んだ結果がこれです。

ということでもう終りです。長い記事でしたがここまで読まれた方で関心があれば「ムービーツーリズム」を実践してみてください。言葉も不自由な街でタイムテーブルと睨めっこして一作でも多くの映画を見ようと異国を歩き回る。ちょっとした映画祭気分が味わえますよ。不満を抱えたままで現状に生きるか、それとも不満解消のために新たなスタイルを取り入れるか、決断の時はイマです(たぶん)。日本での生活は捨てがたいが、日本での映画事情にはもう我慢ならない。そんな方は是非とも「ムービーツーリズム」を導入ください。結構ハマりますよ。

ちなみに「GW=ゴールデンウィーク」とは戦後に映画会社の大映が日本人を映画館に呼び寄せるために生まれた和製英語です。その由来に立ち返り、今年のゴールデンウィークは映画館に行ってみませんか、、、海外の。

それから本記事をご覧になられた旅行代理店の皆さんは是非とも「ムービーツーリズム」で旅行企画を立ち上げてください。その際は搭乗員兼解説員として是非ともお声がけを。

では、よい映画体験を。

注:この記事内で使われている表は転載自由ですが、内容の誤謬から生じたいかなる損失、損害の類に関して一切関知できませんことご理解ください。

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COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 6 )
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  1. ムービーツーリズム……実践はしたことないですが、昔、「トランスフォーマー」の初実写化作品を香港で見たことがあって、その時、英語セリフ+中国語字幕の違和感の無さと、当時オープンして間もないシネコンの普通料金の座席の快適さ(靴を脱いで座面に立膝で見ても十分な広さ!!)に驚いたことがあります。
    それまでも日本公開のあまりの遅さに、いっそアメリカまで見に行ってしまおうか……と地団駄踏んだことはありました。
    その後、残念ながら海外で映画を見る機会は得られていませんが、今回の記事を拝見して、マレーシアは個人的に興味があることもあり、ちょっとその気になってきました(笑)。
    久しぶりの海外旅行、仕事やらなにんやらの都合で昔ほど気軽に行けなくなってるけど、頑張ってみようかなあ。

    • 中国語字幕なら確かに違和感なさそうですね。
      香港やマレーシアならLCCをうまく使えば、週末旅行も可能だと思います。
      あと値段も日本に比べるとやっぱり安いですしね。
      マレーシアは料理もおいしいんでオススメです。

  2. こんにちは。
    毎日このブログをのぞかせていただいてますが、とてもこの記事には共感させられました。

    最近興味があり、この「日本映画界の現状」ということをかなり深く調べているのですが、この記事にもあった通り、掘れば掘るほど絶望的な現状が出てきて、最早手の打ちようがないほど酷いのだなと強く感じています。
    私が疑問に思い始めたのは『きっと星のせいじゃない』がきっかけでしたが、それ以上に酷いものがたくさん出てきて本当に絶望しています。

    ムービーツーリング、面白そうですね。
    やったことはありませんが、字幕なしで見るのに慣れるということには私も同意します(どうしても予告は字幕なしで見ることが多くなってしまうので)。
    やっぱりアメリカがいいのかなと思っていましたが、案外アジアがいいんですね。
    チャンスがあればやってみようと思います。

    • shimahamaさん、コメントありがとうございます。
      こういう内容に共感をしていただくというのは、本当は悲しいことなんですけどね。
      結局は、宣伝費に収益のほとんどを持って行かれ、制作会社も配給会社も劇場もどこも儲からない仕組みが悪いことはわかるんですが、それは僕ら観客には全く関係のない話なんで、どうしようもない訳です。
      『きっと、星のせいじゃない。』も公開遅かったですし、同じ原作者の『ペーパータウン』もアメリカでは7月公開ですが日本はどうなるんでしょうか。
      ハリウッド映画を見るためならやっぱりアメリカが一番ですが、アジアも本国よりも早く公開されたりして観やすい環境にありますので、是非お試しください。

  3. ムービーツーリズム、素晴らしいアイディアで、記事の内容も共感できることが多くありました。
    自分は現在海外で暮らしているのですが、日本にいた時は公開が一回り遅かったところが、海外にいると素早く観れることに気づき、改めて日本が後進国なんだなと感じました。また、海外にいて一番の楽しみといえば、日本未公開作品、または日本でDVDスルーになってしまうような作品、例えばメリッサ マッカーシーの出演する映画などが巨大スクリーンで観れるのは、一種の贅沢を味わうような得した気分になれます。また、日本語字幕なしで見る効果というのは、字幕を目で追わなくてすむので、最高の気分で映画に没頭できます。また、英語もだんだんとわかるようになり、一石二鳥です。
    今の日本の映画業界を見て、疑問に思ったのが公開時期の遅さとは別に、あの新作DVDの宣伝にくる芸能人やアイドルの映画とはまったく関係のない話をするところ、映画を侮辱しているのではないかと思う時があります。また、ハリウッド大作のジャパンプレミアに同行している芸能人も、この映画の大ファンですなんて言いますが、本当に映画を理解してるの?と思うような節が多く見つかります。さらには日本のシネコンの上映作品をよく調べるのですが、確かに日本作品が多くなっているのが最近の特徴だなと思いました。海外映画の上映が少なくなっているのです。ましてや日本映画といえ、陳腐な恋愛映画や漫画原作の映画が上映されまくっているところを見ると、日本映画の将来がないように感じます。日本に帰国中に、シネコンで映画を見る機会があったのですが、多くの女性が関ジャニのエイトレンジャー2の立て看板に群がっていて、海外映画には見向きもしない場面を見て、日本人の特殊性から公開時期が遅れてしまうのか、などと考えてしまいます。
    最後に、今月はサンディエゴでコミコンが行われているので、話題作の情報を待ちながら映画を楽しんでいきたいと思います。

    • movieboyさん、コメントありがとうございます。
      おっしゃる通り、単純に観たい映画が日本でみれないということに加え、そういう状況が続くと日本映画はどんどん地盤沈下していきそうで、嫌になります。
      映画ファンと一般の人々とがかなりかけ離れていて、コミコンのような盛り上がりが日本では全然一般にはなりませんよね。

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