俳優としても活躍するネイト・パーカーが監督・主演した『The Birth of a Nation』が2016年のサンダンス映画祭でグランプリと観客賞の二冠を達成。アメリカ映画初の長編映画で人種差別的描写が批判されるD・W・グリフィス監督作『國民の創生』と同じタイトルの挑戦的作品。
『The Birth of a Nation』がサンダンス映画祭を席巻!
ロバート・レッドフォードが主催し若い映画人の発掘場としても有名なサンダンス映画祭は、これまでクエンティン・タランティーノやジム・ジャームッシュといった人材を輩出しており、近年では作品の見本市としても注目されている。そして2016年1月21日からユタ州パークシティで開催されている今年のサンダンス映画祭で、最も話題になった作品と言えばネイト・パーカーが監督・主演した『The Birth of a Nation』だった。
2013年のライアン・クーグラー監督作『フルートベール駅で』、2014年のデミアン・チャゼル監督作『セッション』そして2015年の『Me and Earl and the Dying Girl』に続く4年連続のグランプリと観客賞のW受賞作品となった『The Birth of a Nation』 だが、奴隷革命ドラマという内容以上に、その配給権を巡って各社が激しい争奪戦を繰り広げたことが話題を呼び、結果フォックス・サーチライトがサンダンス映画祭史上最高額の1750万ドルで落札に成功した。
21世紀の『國民の創生』!?
『The Birth of a Nation』というタイトルの映画といえばD・W・グリフィス監督による1915年公開の無声映画『國民の創生』をまず思い浮かべる。それまではショート映画のみだったアメリカにあって最初に製作された長編映画であり、南北戦争後のアメリカの歴史的歩みを北部と南部のふたつの家族に起きる出来事を通して描き出す壮大な叙事詩として、20世紀映画の「マスト」な一作といえる。
一方で『國民の創生』で描かれる人種差別は眼を覆うほどに酷い。描かれる歴史的事実としての黒人の悲劇が辛くて酷いのではなく、KKKを英雄的組織として黒人を野蛮で暴力的な生き物として描いている、その作品の視点が酷い。映画史的には撮影技法を含めて長編映画の基礎文法とも評される画期的な作品であることは間違いないのに、その後は時代ごとにオリジナルからの改変が加えられるようになり、結果として映画史的な価値をその内容が損なうという結果になっていく。
そして2016年のサンダンス映画祭に出品された100年前の『國民の創生』と同じタイトルが付けられている『The Birth of a Nation』は1831年にヴァージニアで実際に起きた黒人神父の先導で行われた黒人解放運動「ナット・ターナーの反乱」を描いている。
そして皮肉なことに『The Birth of a Nation』のサンダンス映画祭のW受賞は、今年のアカデミー賞に黒人がノミネートされなかったことで未だにハリウッドは100年前の『國民の創生』の影響下にある思われても仕方のない現状への、異議申し立てのように感じられるのだ。
「Oscar So White」にも影響するか?
2016年のアカデミー賞は「Oscar So White/オスカーは真っ白だ」というボイコット運動に象徴されるように、それが差別かどうかは兎も角としても、アメリカという国が持つアイデンティティの多様性に対してほとんど無自覚であることを露わにしてしまったことは間違いない。一方でアメリカという国のアイデンティティとしての多様性とその公平性に意識的と言えるサンダンス映画祭は『The Birth of a Nation』を最大級で評価することでアカデミー賞とは全く違う評価軸を示した。
この結果をアカデミー会員がどう見るだろうか。
そして『The Birth of a Nation』を史上最高額で落札したのが2013年には『それでも夜は明ける』を、2014年には『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を配給しアカデミー賞を受賞したフォックス・サーチライトということで来年のアカデミー賞は『The Birth of a Nation』を無視することができないと思える。
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『The Birth of a Nation』とは
『The Birth of a Nation』とはリーアム・ニーソン主演の『フライト・ゲーム』や『セインツ -約束の果て-』などに出演し俳優として活躍するネイト・パーカーが監督・脚本・主演を担当し、1000万ドルほどの製作費も自分で集め、7年という時間をかけて完成までこぎつけた作品。
撮影期間も満足に確保できなかった作品ながらもサンダンス映画祭でプレミア上映されるや、各方面から絶賛の声が寄せられ、その配給権の獲得を巡ってはワインスタイン・カンパニーやソニー、そしてNetflixも参入して夜通しで入札競争が行われ、最終的にはフォックス・サーチライトが史上最高額の1750万ドルで落札に成功したのだが、Netflixはそれ大きく上回る金額を提示していたとも言われており、配給の実績を尊重した結果といえそうだ。
主人公ナット・ターナーは元黒人奴隷。1831年にバージニア州サザンプトン群で白人支配に対して武装蜂起を開始した人物。ナット・ターナーの反乱と呼ばれるこの出来事はたった48時間ほどで鎮圧され、ナット・ターナーも逃亡後に逮捕され処刑されるのだが、この反乱を有名にしたのはその過激さからだった。
反乱を準備していたナット・ターナーは1831年2月に発生した金環日食を神からの啓示と解釈し、その年の8月に蜂起を決行。入念に練られた計画のもと「女子供も含めたすべての白人を殺害せよ」という号令のもとで50名ほどの仲間たちと反乱を開始し、最終的に50名を超える白人たちを殺害した。銃を使用せずに農具やナイフを使った反乱の死者数としては異常なまで多く、その過激さは想像を絶する。
もちろん本作には黒人が白人を襲撃するシーンがあるはずだ。その過激さの意味とはクエンティン・タランティーノの『ジャンゴ』や「ブラックスプロイテーション」とはいくぶん違っているはずだ。
この事件をきっかけに白人たちの黒人への恐怖感は広がっていき、南部では奴隷黒人たちの管理を引き締める結果となる。『それでも夜は明ける』は1941年が舞台ということで、このナット・ターナー事件とは全く無関係ではない。そしてこのナット・ターナーの反乱をきっかけとする白人の黒人への恐怖心とパラノイアが1915年の『國民の創生』での差別描写へと繋がっていく。
こういった経緯からだけでもこの『The Birth of a Nation』がいかに挑戦的な作品なのかうかがい知ることができる。
一般公開時期はまだ決まっていないが、来年の賞レースに影響を与えることは間違いないと思われる。これは2016年の「マスト」な一作と断言して間違いないでしょう。
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