2014年10月24日に東京国際映画祭の特別プログラムとして『ジョン・ラセターが語るクール・ジャパン』と題された講演が行われました。『トイ・ストーリー』や『アナと雪の女王』など様々な大ヒットアニメに関わってきたジョン・ラセターが、日本文化への想い、そして宮崎駿からの影響などを60分に渡って語った講演の第3部最終編です。
・その参、『となりのトトロ』への愛、そして日本文化からの影響。
ーーーー『トトロ』への愛についてーーーー
ジョン・ラセター:宮崎さんと鈴木さんは素晴らしい友人で、彼らは僕にネコバスをプレゼントしれくれたりもしたよ。もちろんこれは僕がハンティングしたわけでも殺したわけでもないよ。オフィスに置いてるからいつも眺めているんだ。
僕にとって最も特別な宮崎アニメはきっと『となりのトトロ』だと思う。『トトロ』には特別な、観客に強く訴えかける力があって、多大な影響を受けることになった。ここにひとつのシークエンスがある。映画史に残るような素晴らしい瞬間の連続だ。
ーーーースクリーンには『となりのトトロ』の雨のバス停のシーンーーーー
これは僕にとって本当に宝物のようなシークエンスだ。このシーンは僕だけはなく多くの映画制作者に影響を与え続けているよ。この映画で宮崎さんは沈黙を祝福しているようだ。このシークエンスにおいては、何も大袈裟には描こうとしていないのに、すべてのショットに心を打たれるんだ。ハリウッドの手法とは全く逆で、時間をかけて淡々と描く。とにかく時間をかけるんだ。そしてそれは本当に美しく、静謐な時間となるんだ。
同時に彼は登場キャラの個性をはっきりと浮かび上がらせることもできる。細部を見分けることで、それぞれの個性をはっきりと描くんだ。この映画のなかで僕が一番好きなポイントは、ふたりの姉妹なんだ。彼女たちは全く違う個性を持っていていることを、ひとつのシーンで描いてみせている。これはもちろんアニメなんだけど、観客にはこれが本当の話で、真実なんだと思わせてくれる。こういった瞬間があらゆるシーンに感じられるんだ。変わった生き物さえもシンプルに描き、大した存在として描かない。そうすることで個性が深くなり、観客に訴えかけるようになる。特に傘が開くシーンなんて僕は大好きなんだ。トトロはそれが何か分からないんだけど、とにかく言われるままに試してみる。そのシーンは本当に素晴らしくチャーミングだ。
そして水の描き方も画期的だった。エアブラシで書いているだろうけど、そうは感じさせない。そしてこの水の描き方はもちろん『ポニョ』にも活かされることになる。
僕が宮崎作品で最も愛する部分は彼の“マジック”なんだ。彼の映画を観ていると、これまで考えもしなかったことと出会うことになる。これが宮崎アニメの神髄なんだ。例えばネコバスが最初に現れた時、一体どうすれば中に入れるんだろう、大体猫がバスってどういうことだろう、と思ったけど、シーンが進んでいくうちに、そうだよこれがネコバスだよ、って思うことになる。
そしてこれは以前にも言及したことだけど彼のアクションシーンも素晴らしいよ。特に『天空の城ラピュタ』における要塞でのシータを巡る攻防のシーンは何度も見返して、僕の映画にも活かされている。
ーーーー日本文化からの影響ーーーーー
日本に来ると色々と写真を撮るんだ。いつも日本は僕にインスピレーションを与えてくれる。僕の弟はデザイナーで日本のデザインを勉強していたんだけど、彼曰く、日本のデザインの特徴とはもうこれ以上無駄を省けないということろまで研ぎすまされていることだという。そして日本では現代(モダン)と過去(トラディショナル)が同居している。写真を見返していて気がついたんだけど、何気ない風景にもそれら二つの要素は自然に存在しているんだ。ロスアンジェルスには旧跡と呼べるようなものはない。でも日本では過去と現在が隣り合わせに存在している。最先端のビルの横に、美しいお寺があったりする。
こういった日本的感覚は僕にも強い影響を与えているんだ。僕はCGアニメーションを作っているけど、同時に今では古くなった過去のアニメの存在を忘れてはいない。現在と過去は繋がっている関係であることは、僕にはしっくりとくるんだ。一歩踏み入れたそこには無駄を省いた美しいデザインがあり、それこそが新しいテクノロジーの礎なんだ。これはピクサーの哲学なんだけど、決して過去の遺産を忘れないということ。
ーーーー『カーズ2』に観る日本の影響、そして最新作『ベイマックス』ーーーー
『カーズ』に登場するキャラがどれだけ日本から影響を受けたのか観てみよう。『カーズ』における東京を舞台にしたシーンは、日本で僕が撮ったたくさんの写真が基になっている。
ーーーースクリーンには『カーズ2』での東京のシーンーーーー
カーズ2に出てくる車のなかには宮崎さんの『カリオストロの城』に出てくる車を基にしたものもあるんだ。
そして新しい映画がこの東京国際映画祭のオープニング作品としてプレミア上映されたばかりだけど、その『ベイマックス』という作品の舞台はサンフランシスコと東京を合体させた<サンフランソーキョー>という街なんだ。特に古いものと新しいものが同居しているところが本当に気にいっているよ。これからお見せするのは本作に登場するロボット、ベイマックスが初めてサンフランソーキョーの街を飛行するシーンだ。是非、観てください。
ーーーーー『ベイマックス』の未公開フッテージ映像が流されるーーーー
これで僕の講演は終わりです。最後に一言。こんな僕を作ってくれた日本にありがとう。ドウモアリガトウゴザイマス。
ーーーー終わりーーーー
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この講演は第27回東京国際映画祭の特別プログラムとして2014年11月24日に開催されたものです。
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