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キアヌ・リーブス主演『ノック・ノック』レビュー

Knock knock

キアヌ・リーブス主演、イーライ・ロス監督作『ノック・ノック』のレビューです。キアヌが突然現れたセクシー美女二人に訳も分からずいたぶられるサイコ・ホラーで、1977年のカルト映画『メイク・アップ』の事実上のリメイク作。

『ノック・ノック/Knock Knock』

全米公開2015年10月9日/日本公開2016年6月11日/ホラー/99分

監督:イーライ・ロス

脚本:イーライ・ロス、ギレルモ・アモエド、ニコラス・ロペス

出演:キアヌ・リーブス、アナ・デ・アルマス、ロレンツァ・イッツォほか


レビュー

カルト映画特集では必ずと言っていいほど紹介される1977年の『メイクアップ』は、その意表を付くラストの大どんでん返しが有名で、内容に関してはなかなか話題にならない。実際に今DVDで『メイクアップ』を見返す人のほとんどはラストに何かが起こることを鑑賞前から知っている場合がほとんどだろう。

そしてホラー映画の旗手イーライ・ロスが監督した『ノック・ノック』はクレジットには紹介されなくても『メイクアップ』のリメイク作であることは明らかだ。内容がそのままだし、イーライ・ロス自身もこれはリメイクと広言している。ただ『メイクアップ』の権利を保有する会社が倒産していたため、公式には伏せられているだけだ。

先にも述べたように内容は『メイクアップ』とほとんど変わらない。

キアヌ・リーブス演じる主人公は妻や子供たちと幸せに暮らす社会的にも成功した男。ある嵐の夜、「ファーザーズ・デイ(父の日)」の休日に家族が泊りがけで外出するも怪我のために家で留守番することなった主人公のもとにずぶ濡れになった美女二人が訪れる。パーティ会場を探すも道に迷ってしまったというのだ。

愛想もよかったふたりを家に招き入れ、濡れた服が乾く間、雨宿りすることを認める。しかし男は家族と離れたという気の緩みもあって、そのふたりの美女と関係を持ってしまう。

そして翌日、眼が覚めると女たちは変貌していた。聞き分けのよかった昨晩とは違い、粗野で下品でわがままし放題の彼女を持て余した男は警察に通報しようとするも、彼女たちは自分は未成年だといって逆に脅しをかけてくる。ふたりの未成年と関係を持ったと分かれば全てを失うと察した男は、徐々にふたりの女たちに乗っ取られていき、やがて事態は恐怖のどん底へと向かっていく。

Knock Knock still

物語の筋もオリジナルとほとんど同じで違うのはエンディングくらい。キアヌ・リーブスが主演していると言っても、女の片方はイーライ・ロスの奥さんであり物語のほとんどが家のなかで進行するため、映画としてはかなりコンパクトな印象だ。それでもただの『メイクアップ』の焼き回しとは違い、本作にはイーライ・ロスの嫌らしさがしっかりと詰まっていた。

『グリーン・インフェルノ』でも『ホステル』でもイーライ・ロスの描く恐怖空間とは、一見すると現実と繋がっているように見えても、実はそれはただの勘違いであって、本当は完全に断絶した場所を舞台にしている。イーライ・ロスの手にかかれば、アマゾンの奥地も、ヨーロッパの安宿も、そして自宅でさえも、ある瞬間から恐怖空間に様変わりする。安全なんてただの世迷言になる。

被害者は大抵の場合、いわゆる世間知らずの「ぼんぼん」だ。世間の負の側面を見ることなく育った彼らは、世界に対して漠然とした好意を抱いている。「話せばわかる」という理想を前提にして世界を理解しているし、人々や社会の基本的善性を疑うこともない。そんな善い人間の私がまさが被害者になるはずなんてない、という根拠なき確信をイーライ・ロスは跡形もなく粉砕する。世界なんてこうも簡単に壊れてしまうということを描いている。

『グリーン・インフェルノ』で血祭りに上げられる意識の高い学生たちはまさにその典型だし、『ホステル』に登場するバックパッカーたちも同様だ。彼らは自分たちが信じて疑わない世界こそが実体だと思っているが、本当にそうなの? 「話せばわかる」人々しか本当にいないの? 意味も理解も必要なく人を殺すことを躊躇わない人々は本当にいないの? というかあなたは本当に善い人間なの?

こういった意地悪な疑問がイーライ・ロスの作品の根底には常に流れる。善き人間が良き人生を歩めるなんて嘘っぱちだ。そんなもんは大人たちが都合よく世界を管理するためのスローガンで、善き人間こそが被害者となってしまうということがこの世界の本質であることが本作でも描かれる。

そのような悲喜劇の原因とは「あなたを理解している」という偽善性にある。『グリーン・インフェルノ』ではその偽善性が異なる文化間で表現され、本作では世代間で如実に現れることになる。

主人公はなぜ自分が見ず知らずの美女ふたりにいたぶられなければならないのか、最後まで理解できない。自分は彼女たちに親切にしただけで、無理強いなどは何ひとつしていない。それなのになぜこんな目に合わなければならないのか。彼女たちは筋金入りのサイコパスなのか。

確かに本作には暴走する美女たちの理由は語られない。一見すると理由なき凶行にも思える。しかし繰り返し強調される主人公一家の贅沢でハイセンスな暮らしぶりは、言いようのない嫌悪感を想起させるのも事実だ。これ見よがしに飾られたアート作品をめちゃくちゃにしたい。何不自由ない家庭を崩壊させてやりたい。こういった破壊欲求は分かりやすいルサンチマンとも違った衝動として確実に存在するし、「そんなの感じたことありません」と断言できてしまう人間こそイーライ・ロスが血祭りにあげたいと願う偽善者なのだろう。

そういった意味において本作は『ファニーゲーム』のような圧倒的に不条理な恐怖とは違い、マイケル・ダグラス主演の『危険な情事』を思わせるような内容となっている。

美女たちが主人公をいたぶる理由はきっとどこかにある。ただそれを理解できないだけなのだ。

とまあ、そうは言っても粗はしっかりと『メイクアップ』から受け継いでいる。あんなセクシーな美女が未成年なんて信じられるわけがない。いたぶられる主人公の八方塞がり感には無理があり、その気になれば簡単に逃げ出せそうなものだ。そして何より『メイクアップ』にあったラストの「はっ!?」という瞬間は用意されていないのも残念。

それでもバスタブで「ハッピー・ファザーズデイ!」と可愛がられるキアヌの骨抜き具合は素晴らしい。こんな風にいたぶられるのは案外彼の本望だったとも思えなくはないし、大方の男の願望でもあるから何とも底意地の悪い映画なのだ。

『ノック・ノック/Knock Knock』: 

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Lado oscuro del deseo estreno Mexico critica resena 3

ということで『ノック・ノック/Knock Knock』のレビューでした。イーライ・ロスの作品としてはかなり抑え気味です。安心してください、グロはないですよ。その代わりエロはあります。ただやっぱりイーライ・ロスの映画としては物足りないというか、もっと爆発して欲しかったというか、ラストはあれでいいのか、という問題があります。『メイクアップ』はカルト映画でも、本作は普通のサイコ映画でした。理由もなく美女にいたぶられたいという方は是非とも御覧ください。オススメです。以上

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ノック・ノック
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