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映画ジャーナル<ビーグル・ザ・ムービー>

VR体験記1「PSVRは映画ファンにとっての福音なのか?」

Pacific Rim

2016年10月13日の午後、我が家にPSVRが到着した

そもそもゲーマーではなくPS4すら持っていなかった僕がPSVRを購入した理由とは、その機能の一部として付いていた「シネマティック・モード」に惹かれたから。聞く所では、そのヘッドマウントを被ることで約2.5メートル先に巨大仮想スクリーンが現れるという。

なんか、すごそう。

2016年6月頃にあるイベントでロバート・ゼメキス監督作『ザ・ウォーク』をPSVRで視聴させてもらう機会があり、なかなかの衝撃を受けた。「映像体験」としては、例えばIMAXシアターでの臨場感や、Blu-rayを4Kディスプレイで観た時の美麗さにはまだまだ遠く及ばないながらも、「劇場体験」の代替としてはホームシアター用プロジェクターや60インチほどのテレビ画面よりもずっと「劇場」らしさを感じられることができた。

おかげでPSVRを手に入れてからというもの、我が家の映画環境は様変わりした。もちろんまだ手にしてから日が浅いせいもあり手探りの状態が続いているが、PSVRに対する考え方も日々刻々と変わっている。感動することもあれば、残念に思うこともある。そういったことを「VR体験記」という形でお伝えしたい。

映画コラム「VR体験記」第一回 「PSVRは映画ファンにとっての福音なのか?」

まず簡単にPSVRの紹介。

PSVRとは仮想空間のなかで起こる出来事をそれと同じ視座で体験できるというバーチャル・リアリティの機器なのだが、主だった機能であるVRモード以外でPSVRを使用する際に使われるのがシネマティック・モード。簡単に言えば、バーチャルな巨大平面スクリーンのこと。

画面サイズは3段階あり、117インチ相当の「小」、163インチ相当の「中」、226インチ相当の「大」で、それぞれ映像を見ることができる。

3D機能はない

左右の目に対応するOLEDディズプレイはそれぞれ960×1080で、両目では1920×1080となり、一応はHD画質ということになる。

3D映像を楽しみたい、そしてHD以上の画質しか受け付けない、という方にはPSVRでの映画鑑賞は向いていない。

まあ、スペック表をいくら眺めていても実感は掴めない。試してみなければ。

そうこうしている間にPSVRが到着した。

本体となるヘッドセットは案外軽い。それ以外のコードやプロセッサーユニットなど同胞物が多く最初は戸惑うも、コードにはそれぞれナンバーが振られており、シンプルな説明書を参考にしながら10分ほどでPS4やPSカメラと接続できた。

そこからヘッドマウントを被って、初期設定を行う。

それも10分ほどで終わると、ここからPSVR体験の開始。はやる気持ちを抑え、まずはPSVRの主要機能であるVRゲームを体験することに。

ブルース・ウェインにはなれなくて、、、

僕のPSVR初体験はVR専用ゲーム『バットマン:アーカム VR』となった。始まってすぐにその没入感の凄まじさに驚愕し、あっという間に放心状態となった。

どうやら僕はブルース・ウェインだったらしい。

これまでも何度かそんな気がしていたのだが、ゲームをはじめてすぐに自信が確信に変わった。そうだ、僕はバットマンだったんだ。ガジェットを眺めたり、あたりをキョロキョロしているだけで楽しかった。

これがいつまでも続くと思っていた。

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しかしブルース・ウェインになりきった代償として、地下の秘密基地に降りていくシーンでジェットコースターに乗っているような感覚を味わい盛大にVR酔いをしてしまった。

だからジェットコースターは嫌なんだ。

遊園地でわざわざ金を払ってまで怖い思いをしたがる気持ちが理解できないし、PSVRに関してはそれとは桁違いの金をつぎ込んでいるのだから酔っている場合ではない。しかもこれからバットマンとして事件解決に挑もうとした矢先だ。酔ってる場合なんかじゃない。

後にこの「VR酔い」には設定上の改善法があることを知るのだが、その時はやっぱり顎が割れていないとバットマンにはなれないのか、と結構絶望的な気分になった。

冗談抜きで本当にクラクラしてきて、冷たい水を一気飲みして正気を保った。そう、僕はブルース・ウェインじゃない。

それでバットマンになることを諦めて、本丸の映画鑑賞に乗り出す。

最初の映画体験は『マッドマックス/怒りのデス・ロード』

PSVRで初体験する映画については色々と悩んだのだが、手元にBlu-rayがあって、PSVRで視聴可能な動画配信サービスとも比較できるため大好きな『マッドマックス/怒りのデス・ロード』を選んだ。

Synopsis 3

Blu-rayから試してみる。まずは推奨されている「中」スクリーンを選ぶ。もちろん劇場と全く同じということではないが、仮想巨大スクリーンとしては十分の迫力。

しかし本編が始まると、ピントの感覚が掴めていなかったのと、VR酔いの残りのせいで、かなり強い違和感を感じた。

ピントが甘いと中央部はしっかり見えても、端の部分ではぼやけるという状況が生まれ、同じスクリーンを眺めながら箇所によって視覚的遠近が生まれてしまい、目がかなり疲れる。この傾向はスクリーンが大きくなるほどに強くなり、字幕を見る際は注意が必要だ。そもそも高解像度のスクリーンではないため文字を読むのが苦手のPSVRだが、映像上ではピントが合っていると思ってもスクリーン右側や下部に浮かぶ文字が滲んでしまうと、あっという間に目が疲れてしまう。

ピントを確実に合わせるためにもPSVRの「設定」から瞳孔間距離を測るのと、スクリーンの縦横がしっかり地面と平行垂直になっていることを確かめた方がいい。こうすることでシネマティック・モードだけでなくVRゲームでも酔いを軽減できた。シネマティック・モード仕様時ではピントの甘さやスクリーンの微妙な歪みはボディブローのように後から効いてくる危険性があると感じたが、実生活でボディブローを打たれたことがないのでどれほど危険なのかまではわからない。ただスクリーンの外側は黒く潰れているので、歪みは注意すればすぐにわかる。

こうしてマックス気分でウェイストランドを彷徨っていたのだが、アクションが激しくなるとスクリーンの大きさが逆に足かせとなってきた。このへんが「2.5メートル先に現れる仮想スクリーン」の弱点だろう。激しい展開のなかでは同じ視点からではすべてを把握できなくなり、自然とスクリーン上を目で追いかけてしまい疲れる。しかもピントに対する不信感が残っており、さらに疲れる。

あまり「疲れる、疲れる」というと一気に老けこんでいくようで自重したいのだが、疲れるのだから仕方ない。

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こうして「中」スクリーンをやめて「小」スクリーンに移行した。

すると目の疲れも大幅に軽減された。個人的には「小」スクリーンを推奨したい。これでも十分迫力がある。「中」では目前いっぱいにスクリーンが現れるような感覚で字幕を視界の端に置いて自然と読むことが難しい。そのせいかスクリーンが頭の動きに合わせて動いてしまうような感覚があり、気になる。「大」に至っては見切れてるんじゃないかというほどにデカい。なんでもデカければいいというものではなく、量より質を求めるのが大人というものだ。

PSVRとVODサービスこそが福音、、、なのかもしれない!

こうしてマックスが渋くシャーリーズ・セロンの前から立ち去っていく頃には「そう、これだよ、これ」と映画館で観た時の感動を思い出していた。本当はNetflixで配信されている『マッドマックス/怒りのデス・ロード』と比較してみたかったのだが、想像以上に疲れた。また疲れたとか言ってしまったが、この疲労感はテレビモニターでの映画鑑賞では感じることのないもので、やはり映画館のそれに近い。

初日の映画鑑賞で僕が感じたのは、PSVRで観る映画というのはテレビモニターと映画館のちょうど中間くらいにあるもの、ということだった。テレビで観るよりもずっと迫力があるがそこまでカジュアルでもない。一方で映画館ほどの迫力も感じないがそこまでの緊張感もない。トイレに行っている間に誰かが死んでいることもなければお菓子だってボリボリ食べられる、お一人様仕様のホームシアターとしては期待に十分に答えてくれる機器となっている。

比較対象としてホームシアター用プロジェクターが挙げられるだろうが「スクリーン以外は何も見えない」というPSVRの没入感は得難いものがある。プロジェクターだとどうしても雑誌や携帯をいじってしまいがちな意志の弱い僕だが、これならクソ映画でも最後まで見通せそうだ。

そして同時に感じた可能性というのが、NetflixやHuluやアマゾンビデオといったVODとの相性だった。ほぼ毎日一本映画を観る生活をしていると、ここ最近はVODでの映画鑑賞の比率が一気に高まっている。

あまり大きな声では言えないことかもしれないが、僕の場合は海外のVODサービスとも契約している。そのため映画によっては日本公開よりも早く鑑賞できる環境があるのだが、やはり自宅の小さいモニターではワクワク感もない。それがPSVRを手にしたことで一変する可能性を感じた。

そのへんは「VR体験記2」で触れてみたい。

ということでいい加減まとめると、今更だが、迫力がすごい。

一方で画質は荒い。気になって仕方ないというほどでもないが、最初にピント合わせに手こずったせいで、余計にその荒さが気になってしまった。もちろん映画に没頭すれば忘れてしまうほどのものだが、現時点でPSVRとテレビモニターでの映画鑑賞を比較すれば、両方に長所がある。

期待された全部門でのPSVR>テレビモニターという圧勝結果とは言えない。

例えば気になった映画の細部を見直そうという作業では「PSVR<テレビモニター」ということになるだろうし、初回の映画鑑賞ということではその迫力を重視して「PSVR>テレビモニター」ということになるだろう。

今後、アップデートなどによってシステムが改良される余地も残されているため、欠点も改善される可能性もある。予約競争となったPSVRだが、ほとんど映画鑑賞のためだけに買ったせいで投資額に見合うだけの満足感が得られるのか心配でもあったが、現時点では転売の意志はない

しかしまだ元が取れたとは思ってない。これからも使い倒そうと思うで、その都度感想を「VR体験記」として書いていきたい。

そんな訳できっと次回に続く。

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