カズオ・イシグロ原作のベストセラーを綾瀬はるか主演でドラマ化する『わたしを離さないで』の第7話のレビューです。シリーズも最終章を迎え、「今」を舞台にした3人の 複雑な想いが交錯する。終着が見えたためかようやくストーリーに安定感と目的が生まれていて見応えがあった。
『わたしを離さないで』
出演:綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみ、ほか
原作:「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
脚本:森下佳子
音楽:やまだ豊
プロデュース: 渡瀬暁彦 飯田和孝
演出:吉田健 山本剛義 平川雄一朗
製作著作:TBS:「わたしを離さないで」公式サイト
第7話 あらすじ
さまざまな思いを抱えながらも、美和(水川あさみ)の介護人として働き続ける恭子(綾瀬はるか)。友彦(三浦春馬)から介護人のリクエストがきたことに気付きつつも、気持ちの整理がつかず、いまだ決めきれずにいた。
そんな中、恭子は回復センターの職員から、美和の次の提供に際しての資料を受けとる。提供の告知は介護人の務めであるため、意を決して資料の中身を見ると、そこには“3種同時提供”の文字が。
実質的に即時解体と同義であるその決定を前に恭子は必死に詰め寄るが、職員はもう決まったことなのでと取り合ってくれず、途方に暮れる恭子。
一方、美和は自分の最後の望みとして、友彦を連れて3人で陽光に行きたいと言い出す。
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第7話レビュー
オープニング、美和の介護人となっている恭子が、友彦からも介護人となってほしいという依頼を受けていることが明かされる。これまでの 6話ではオープニングで「今」の一部を描きつつ、その後のメインエピソードで過去から「今」を追いかけていく形式だったが、第7話となる本エピソードからは物語の舞台は完全に「今」だけを描くことになる。前話まで描かれていた過去の話が一気に飛ばされることでエピソードの省略を図ったのかと勘ぐってしまうほどに、最終章の始まりとなる本話では唐突にこれまでの形式が無視される。
恭子は美和の介護人であることに苛立ちを覚えながらも、そんな時に美和の次の提供が「3種同時提供」という実質的な「解体」つまり美和の死を意味する手術となることを知らされる。介護人の重要な役目として恭子は美和にその事実を知る現場に立ち会うことになる。
その瞬間を恭子は素直に驚く。怒り狂うと思っていた美和だが、彼女は恭子の想像した美和とは違い冷静に事実を受け入れた。そして残された生の時間を直視した美和は、最後に恭子と友彦の3人ですでに廃校となっている陽光学苑を訪れることを希望する。最後に美和は恭子と一緒に友彦に会いたいと言う。
美和の願いに対し、すでに提供を開始していた友彦から返事が帰ってくる。そこには友彦が書いた絵が同封されていた。
そして友彦に会いに向かう道すがら、恭子は美和の本心を初めて知る。なぜこれまで美和が恭子に嫌がらせをしてきたのか、なぜ恭子を一方的に支配しようとしてきたのか、、、。恭子も美和に初めて本心を吐露する。
こうして久しぶりに集まった3人は一緒に過ごした陽光学苑を目指す。
「とても美しいものを見た気がした」というナレーションでエンディングを迎える第7話は、最終章のはじまりだけあって脇目を振らずに終わりに向かっていく気配に満たされていた。特に前話で見られたような方向の定まらない物語展開はなく、主要3人がそれぞれ違う想いを抱きながらも同じ場所に向かおうとする強い意志が描かれている。
シリーズの前半で執拗に描いてきた恭子と美和の複雑な感情のもつれが、その象徴だった友彦からのプレゼントのCDのエピソードとともに解消されるという意味でも、物語の終わりを強く印象付ける。おそらく残りのエピソードでは恭子と友彦、そして美和を含めた3人の関係が、陽光学苑時代に描かれた「マダム」や「美術」といった存在の意味や意図を通して描かれることになるだろう。細部やプロットがどこに向かうのかわからずに散らかった印象だった第2章とは違い、これまでの謎の回収という明確な目標があるために本エピソードはこれまでの全7話のなかでも物語としての完成度は一番高い。本話のような安定感がシリーズの前半部で描けなかったことが悔やまれるほどだ。
それでも第6話から第7話への移行には唐突さを覚える。低視聴率のためのエピソードの間引きが行われたのかと勘ぐってしまうほどに、「過去」があっけなく「今」に追いついてしまっている。原作や映画版でも「過去」と「今」が混じり合う構成になっており、ドラマ版でもその構造を取り入れ、回を追うごとに「過去」が「今」を追いかけるという形式が採用されたのだが、前話の最後に描かれた恭子の出奔から、美和の介護人としての働く恭子の「今」をどのように繋いでいくのか気になるところだ。本当はその部分には最低でも1話が挟みたかったのではないだろうか。そうすれば本エピソードで描かれた恭子と美和の不思議な和解がもっと活きたはずだ。
「最終」や「最後」という言葉が次回予告で惜しげもなく流されるなかで、第7話は良質なエピソードとなっていた。前話では恭子の親友だった真美の自殺によって死の予感は描かれるも、提供による「解体」という彼ら本来の死の目的がはじめて目前に知らされる。そんななかで明らかになった美和の本性とは、これまでの表立って彼女が振り撒いてきた毒や迷惑とは無縁の、避けられない死から目を逸らさずに向き合おうとする強さに満ちていた。
主要キャラクターのなかで最初に本心を晒したのは美和だった。もちろんそれは彼女の死の予感と直結している訳だが、彼女の本心が残されたわずなか時間(彼女の人生においても、ドラマの残りにおいても)にどのような作用を周りにもたらすのか期待したい。
第7話のテンションと安定感でこのまま最終話まで行ければ、決して失敗作ということにはならないと思う。来週に期待。
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