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映画『ヒトラーの忘れもの』レビュー

第二次大戦後、デンマークの海岸に埋められた無数の地雷の除去に動員される敗戦国ドイツの少年兵たち。侵略国ドイツへの憎悪を抱きつつ少年らを指揮するデンマーク人軍曹と、帰国の夢を抱きながら死と隣り合わせの作業に従事する少年たちの絶望的な交流。憎しみと良心の危うい関係のなかに生まれる脆い友情を描く傑作。主演のローラン・モラーとルイス・ホフマンが第28回東京国際映画祭主演男優賞を受賞。

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『ヒトラーの忘れもの(東京国際映画祭上映時タイトル「地雷と少年兵」)』

日本公開2016年12月/ドラマ映画/デンマーク・ドイツ/106分

監督:マーチン・ピータ・サンフリト

脚本:マーチン・ピータ・サンフリト

出演:ローラン・モラー、ルイス・ホフマン、ミケル・ボー・フォロスゴー他

あらすじ

終戦直後、デンマークの海岸沿いに埋められた無数の地雷の撤去作業に、敗残ドイツ軍の少年兵が動員される。憎きナチ兵ではあるが、戦闘を知らない無垢な少年たちを前に、指揮官の心情は揺れる。憎しみの中、人間に良心は存在するか? 残酷なサスペンスの中で展開する感動のドラマ。

参照:2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=17

レビュー

戦後70年、社会のほとんどがその未体験者で占められるようになると、議論の多くは如何にその事実の風化を止めるのか、に向けられることになる。日本でも、そして海外でも第二次大戦を舞台とする映画のほとんどは「忘れられようとする事実」を描くことになる。しかし本作『ヒトラーの忘れもの』は「忘れられようとする事実」を描く映画ではなく、「忘れられていた事実」を描いたものになっていた。

第二次大戦後、ヨーロッパの多くを占領していたナチスドイツは敗戦国となり世界中からの憎悪を向けられることになる。北欧のデンマークもまたドイツ軍に占領された過去を持ち、その際に海岸沿いには無数の地雷がナチスによって埋められていた。そしてその地雷除去のために動員されたのが捕虜となっていたドイツの少年兵たち。戦争末期、ドイツではまだ年端のいかない少年までもが戦場に駆り出されていた。

本作は上記のような史実に基づている。戦争の記憶が生々しく残る時代にあっては当事国であるドイツ、そしてデンマークどちらにとっても語りたくない史実だった。

デンマークの寒々しい海岸線に残された無数の地雷。それらの除去のために送られた十数名のドイツ少年兵。そして彼らを監視するデンマーク人軍曹。物語のほとんどはこれだけの要素で語られる。5年にわたるドイツからの占領を経験する軍曹は、その怒りと憎しみは少年兵に当然のようにぶつける。少年兵たちも祖国の罪を理解しているようで、ドイツへ帰国することだけを夢見て、極めて危険な地雷除去作業に当たっていく。そしてどこまでも続きそうな海岸線。

第二次大戦中でデンマークの海外に埋められた地雷の数は2,000,000個に及び、その処理で900人が死んだという。そのため本作でも素手で作業する少年たちの命が地雷によって容赦なく奪われていく。それはひたすら少年たちを消耗させた結果のロシアンルーレットに近い。食事や休憩もろくに与えられない環境の中、集中力を欠いていった少年たちから順番に、祖国の罪を死という結果で背負わされるのだ。

物語はドイツ少年兵のなかでリーダー的な少年と、彼らを管理し命令するデンマーク人軍曹の物悲しい関係が縦軸となって観客の感情を激しく揺さぶる。ドイツによって大切な存在を奪われた軍曹はその罪を少年たちに課すも、共同生活のなかで彼の憎しみもまた激しく揺さぶられる。祖国の罪を背負わされた少年たちに向かう憎悪のなかで、彼らの少年としての無邪気さや優しさに触れることで軍曹の感情は少しずつ変化していき、やがては友情とも呼べるような関係は出来上がる。しかし死を目前とした少年と、彼らを死へと向かわせる軍曹の間に生まれた関係とは、もちろん危うい。なぜならその関係とは、その友情とは、どこまでいっても国家間の歴史と憎しみを土台として作られたもので、風向き次第ではどうにでも変わってしまう。

このような戦争を背景とした敵味方を超えた関係とはこれまでも多くの戦争映画で描かれてきている。例えば近年ではブラッド・ピット主演の『フューリー』や、遡れば『戦場にかける橋』などでも描かれている。しかしそれらはあくまでも戦争という極限状態のなか国家や任務という後天的なものが取り払われることで現れた人間的な感情を優先した結果だったが、本作はあくまで戦後の話だ。戦争が終わったことで出現する一方的な憎悪と暴力のなかで、僅かに芽生えた良心と信頼。果たしてその個人的な感情は戦後の社会を覆う一方的な憎悪に対抗できるのだろうか?

本作のラストはその問いに対するひとつの答えとなっている。あくまで史実をベースとしたフィクションということで、描かれる状況の悲惨さの出口としてはどこか現実離れしているかもしれない。それでも戦後の憎しみの出口としては、おそらくこれしかないという終わり方でもある。出口は用意されたものではなく、当事者たちが命を削ってでも見つけなければならない。それは戦勝国、敗戦国の立場に関わらず、憎しみに関わった者たちが背負わなければならない責任なのだろう。

少年兵を演じるのが新人俳優ということや、実際に地雷除去が行われた場所で撮影されたということで物語のリアリティーも非常に高い。

戦争の後に残された地雷と憎悪。地雷は取り払えばそれで終わりかもしれないが、憎悪は簡単には取り除けない。その事実は戦後70年たった現在の日本に生きる我々に突きつけてくる本作は、紛れもない傑作だった。

『ヒトラーの忘れもの』:

17

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ということで『地雷と少年兵』のレビューでした。東京国際映画祭では主演男優賞を軍曹役と少年役のふたりが受賞しましたが、作品関連で受賞を逃したことは意外に感じました。まあ、いい映画には賞なんて必要ないとも言えますが、本作をコンペに引っ張り出しただけでも東京国際映画祭の意義は十分あります。テーマだけでなく演出面でもサスペンスフルなドキドキに満ち、そして戦争とは常にバッドエンドであることもしっかりと描ききっていました。また儚い青春映画としても涙を誘います。これはマストな一作。おすすめです。また下部に本作のマーチン・ピータ・サンフリト監督関連作も紹介しておきます。以上。

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