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映画レビュー|『クリムゾン・ピーク』ギレルモ・デル・トロ監督作

ギレルモ・デル・トロ監督最新作の『クリムゾン・ピーク』のレビューです。屋敷に住み着いた幽霊たちに導かれるようにして謎めいた秘密へと近づいていくゴシックホラー。幽霊が確実に存在する屋敷で繰り広げられる甘美で壮麗なる恐怖の物語。

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『クリムゾン・ピーク/Crimson Peak』

全米公開2015年10月15日/日本公開2016年1月8日/ホラー/119分

監督:ギレルモ・デル・トロ

脚本:マシュー・ロビンズ、ギレルモ・デル・トロ

出演:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステイン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナムほか

あらすじ

10歳のとき、死んだ母の幽霊と遭遇したイーディス(ミア・ワシコウスカ)。それ以来、彼女は亡霊を目にするようになる。トーマス(トム・ヒドルストン)と運命的な出会いを果たした彼女は、自分の父親が謎めいた死を遂げたのを機に彼と結婚。赤粘土の影響で雪が赤くなることからクリムゾン・ピークと呼ばれる山頂に立つ豪邸に、トーマスの姉ルシール(ジェシカ・チャステイン)と共に移り住むことに。三人での生活にも慣れてきたころ、体を真紅に染めた亡霊たちがイーディスの前に現れ奇妙な警告をする。

引用:www.cinematoday.jp/movie/T0016537

レビュー|幽霊は、います。

「幽霊は存在する」というナレーションではじまるギレルモ・デル・トロ最新作『クリムゾン・ピーク』は物語の序盤で主人公の口から語られる「幽霊がメタファーの物語」という説明にあるように、幽霊が幽霊としての意図を持って住み着いている屋敷を舞台にしたホラーだ。ただし単純に観客を怖がらせることを目的としたホラー作品とも違い、ホラーという要素が当たり前に存在する世界を描いている。

主人公イーディスは実業家の娘として育つも、10歳のころに死んだ母親の幽霊と遭遇し「クリムゾン・ピークには用心しなさい」という警告を受けて以来、度々この世ならざる者を目にすることになった。そしてその経験を生かして幽霊が登場する小説を執筆している。そんな折、彼女はイーディスの父親の会社にイギリスから投資交渉に来ていた青年トーマスと出会うと、二人は瞬く間に恋に落ちる。やがてイーディスの父の酷い死を契機に、彼女はトーマスとその妹が暮らすイギリスの屋敷へと移り住むことになるが、そこは赤土が雪を赤く染める小高い丘に建っていたことから「クリムゾン・ピーク」と呼ばれていた。

この世ならざる者たちが住むや屋敷「クリムゾン・ピーク」を舞台に、花嫁となったイーディスと屋敷の主人で夫のトーマス、そして妹のルシールの過去と現在、嘘と現実が入り乱れ、屋敷に住み着きイーディスを執拗につきまとう幽霊の意図が、やがて兄妹の秘密へと通じていく。

謎多き美しい兄妹と寂れた大邸宅、そしてそこに迷い込んだひとりの女性。これらはホラー映画の要素としては珍しいものではないし、実際ストーリーそのものに特筆すべきものもない。本作は「ゴシック・ホラー」と評されているが、実際にはホラー成分はかなり薄めで、ゴシック要素が多目に配分されている。

Crimson-Peak-Tom-Hiddleston-Jessica-Chastain

まず屋敷内の映像の美しさに息を飲む。退廃や死の予感が、落ち葉一つや風が揺らすカーテンの一つ一つで丁寧に描写されており、まるで映画そのものが細部にまで病的な執着を見せるゴシック建築のようだ。異教的でグロテスクなまでの屋敷では、当たり前のように血が流され、それを養分や怨念として何者かが蠢いている。もうそこにこの世ならざる者が住み着いていたとしても何もおかしくない。本作は観客にそう思わせることを目的としたホラー映画であり、幽霊が確かにそこに存在することを認めさせることから物語は進んで行く。映画そのものが謎の屋敷であり、謎の屋敷で起きる日常を映した作品がこの『クリムゾン・ピーク』とも言える。

ホラー映画と謎の屋敷の相性は、今更いうまでもなく、最高にいい。それはお互いが構造的に似通っているためだ。ホラー映画も謎の屋敷も、誰かに恐怖を与えるという目的において、現実的な物理の原則を無視することが許されている。私にが見える何かがあなたには見えず、過去と現在の境界が曖昧になり、本来は意志のない物体が人間と同じように動きだす。こういった現実にはあり得ないはずの出来事も、ホラー映画や謎の屋敷においては恐怖の論理として許容される。

そういった恐怖の論理のなかでも最も一般的なのが「幽霊/ゴースト」と言える。死んだ者が、恨みやある種の意図を持って現世にとどまり続ける存在。それは物語の序盤にイーディスが語るように何かのメタファーであると同時に、恐怖の論理に基いたホラー映画においては確実に存在するものでもあり、不思議に蠢く屋敷の謎の根幹でもある。

一方で、繰り返しとなるが本作は観客を怖がらせることを主目的とした、いわゆる「ホラー映画」ではない。厳密には「ホラー映画=謎の屋敷」を舞台にした悲しい物語であり、「幽霊/ゴースト」もまた主人公を怖がらせるためではなく、悲しい物語の根幹に置かれている。また主人公のイーディスは幽霊を見ることができ、その存在を疑っていないことからも本作は自覚的なホラー映画と言えるのかもしれない。『エルム街の悪夢』や『キャビン』のような怖がったり驚く観客を見越した上での自覚性ではなく、主人公そのものがホラー的世界に半ば自覚的なのだ。かといって彼女は自覚的ゆえに幽霊退治をするわけではない。その経験をもとに小説を執筆しているだけだ。

この入り組んだ世界観はきっと、監督ギレルモ・デル・トロのトラウマが基礎になっている。祖母から虐待ギリギリのカトリック「教育」を受けて育った彼の少年期の想像力がカトリック的教育の緩衝地帯としてのゴシック世界に惹きつけられた経緯は『デビルズ・バックボーン』や『パンズ・ラビリンス』に如実に反映されているが、本作にはそういった作品がなかなか理解されないことや、金銭によって価値付けされる環境への監督自身のフラストレーションが込められている。幽霊やこの世ならざる者たちとただ対立するのではなく、自分の人生とリンクする存在として自覚する本作の主人公とは、性別も体型も全く違うが、ギレルモ・デル・トロ本人なのかもしれない。

本編では黒と赤をベースにした色調で繰り返し血のイメージが強調される。そして恐ろしい異形の者たちも現れる。物語はおぞましく、ラストには血みどろの連続となる。それでも本作は驚くほど怖くない。怖くすることに失敗しているのではなく、怖いと思われている事柄も、その背景や意図を理解し経験しさえすれば全く違って見えてくることを実証した作品だと言える。本当に怖いものとは幽霊ではなく、その幽霊を作り出す何かなのだろう。

『クリムゾン・ピーク』:

crimson peak 2 legendary picture

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ということでギレルモ・デル・トロ監督最新作『クリムゾン・ピーク』のレビューでした。映像がメチャクチャ綺麗です。これだけのために劇場に行く価値が十分あります。特に赤と黒のコントラストがラスト一気に噴出する様は見事でした。また『パシフィック・リム』のパイロットと数学者のコンビも見られますし、トム・ヒドルストンがケツ丸出しになります。作品としては『デビルズ・バックボーン』の系譜にある一作で、『パンズ・ラビリンス』のようなファンタジー感は皆無となっています。こういう本格的なゴシックホラーを見ると、ギレルモ監督で『フランケンシュタインの花嫁』を観たくなります。でも本作でギレルモはユニバーサルと年齢制限で揉めたので難しいのでしょうか。そんな感じで、当たり前ですが、オススメです。以上。

Summary
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Reviewed Item
クリムゾン・ピーク
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