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映画レビュー|『ナイトクローラー』-物語に見出された狂気

ジェイク・ジレンホール主演の犯罪スリラー『ナイトクローラー』のレビューです。スクープこそが至上命題となった映像パパラッチの闇を描いた本作。金と名声のためにどこよりも早く過激な映像を求め、狂気に陥っていく男の姿をジェイク・ジレンホールが熱演。日本公開は2015年8月22日。

Nightcrawler 2014

『ナイトクローラー/Nightcrawler』

全米公開2014年10月31日/日本公開2015年8月22日/アメリカ映画/117分

監督:ダン・ギルロイ

脚本:ダン・ギルロイ

出演:ジェイク・ジレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストン他

あらすじ

一見すると好青年に見えるルー(ジェイク・ジレンホール)は、実は小さな犯罪を繰り返しては日銭を稼ぐ孤独な男だった。

ある夜、道路で事故を起こして救急車に運ばれる女性をカメラマンが執拗に追っているのを見て、ルーは映像パパラッチの真似事を始める。すると見よう見まねで撮った映像がテレビ局に売れ、そして自分の撮った映像がニュース番組で流れるのを見て、彼は深い満足感を得る。

長く孤独な生活を送っていたため、特異な性格を形成したルーだったが、とにかく弁は立った。彼はテレビ局の女性ディレクター(レネ・ルッソ)に近づき、独占的に映像を持ち込むようになる。番組が必要とする過激な映像を撮ろうと、やがてルーは事故現場に自ら手を加えるようになる。

やがて事故や事件の真実よりも、番組で作ったストーリーに魅入られてしまう人々。報道者と犯罪者の境があやふやになるなか、ルーは超えてはいけない一線へと踏み込んでいく。

レビュー

物語<ストーリー>に見出された者の狂気:

報道対象となる事件や悲劇には、そこに人々の意思や関係性が絡んでくる以上、何らかの物語<ストーリー>が必ず存在する。人が殺されること、誰かを殺すこと、そこに爆弾を落とすこと、爆弾を落とされ犠牲となった人々のこと、そこには必ず何らかの物語が存在するし、場合によってはひとつの出来事が無数の物語を秘めていることもある。落とされた原爆はひとつでも広島や長崎には、無数の物語があった。そういうことだ。

一方で物語とは誰かに語られて、はじめて物語となる。事件の当事者に語る者がいない場合、誰かが代わりとなってその物語を語らなければならない。報道とは、ジャーナリズムとは、突き詰めれば、語り手をなくした物語の代弁者なのだ。そして最も重要なことだが、その物語は「真実」でなければならない。ジャーナリズムが往々にして致命的な自己矛盾に陥る背景とは、真実の物語を語らなければならないという本来は非常に難易度の高いハードルが、彼ら自身が設定するところの最低限の倫理とされていることだ。昨今の新聞やテレビや週刊誌の誤報問題とは、メディアが自らの聖域として定めた特殊性が、そもそも現代においては遵守不可能なレベルにまで複雑化してしまったことに尽きる。インターネットなどの新興勢力との競合からこれまで以上に、分かりやすくて、派手で、扇情的な物語をメディアは求めるようになる。そして時にはジャーナリズムの最低限の作法として定められた物語の「真実」が欠け落ちてしまうことにさえ盲目でいられるようになった。

本作『ナイトクローラー』が映画として文句の付け所がないほどに優れていた背景には、前述したようなメディアの現代的な問題点をリアリティの伴った「真実」として描きながらも、映画としての「物語」もスリラー作品として一級品とも言える展開力で描き切ったことにある。ジャーナリズムにとって最低限の作法が「真実の物語」だとするのなら、映画に与えられる最大の賞賛は「真実に限りなく近い物語」とでもなるのだろうか。もちろん本作は映画であって現実を拡大した場面も多くあるだろうが、それでもこの『ナイトクローラー』はまさに「真実に限りなく近い物語」としての説得力と娯楽性を兼ね備えていた。

そしてその達成を映画内で体現したのは間違いなくジェイク・ジレンホールの怪演である。現代の病としての孤独を患った主人公青年の、金と名声への渇望と、客観性を欠いた自己肯定力と、共感性の欠如を、恐ろしいくらいのリアリティで演じきっていた。すでにいくつかの指摘があるが、『タクシー・ドライバー』のロバート・デ・ニーロを彷彿とさせる。感情と表情が決して重ならない病的な怖さとともに、彼の飽くなき向上心を見るに、以前本で読んだ「企業のトップや政治家の多くはサイコパス」という説に説得力を感じさせるほどだった。そして彼のような人間にとってこそジャーナリズムが天職になり得るのだとすると、これはかなり怖い話でもある。

メディアの問題点を過激に描き出しつつも、ノアール風スリラーとしての醍醐味も詰まった本作。その印象的なラストを見るに、現実に、このような狂気でニュースが作られているのかもしれないと思うと、その狂気と我々視聴者の間にはすでに共犯関係が成立しているのかもしれない。

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ということでジェイク・ジレンホール主演、ダン・ギルロイ監督作『ナイトクローラー』のレビューでした。これは大変オススメです。めちゃくちゃ面白かった。ここ数年のジェイク・ジレンホールの演技は凄まじいものがあり、そのひとつとして本作も、彼の演技目当てだけでも見逃せません。ダン・ギルロイも初監督作ということですが、脚本も秀逸で今後に期待できます。ディレクター役のレネ・ルッソの崖っぷち感もよかったです。これは満点映画です。

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