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映画『DOPE ドープ!!』レビュー

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ファレル・ウィリアムズが音楽を担当し、A$APロッキーなどのラッパーたちも出演している『DOPE ドープ!!』のレビューです。ロスの危険地帯イングルウッドを舞台に、オタクな高校生たちがヤバい事件に巻き込まれてしまう大騒動を描いたコメディ。とにかく最高の一言です。

『DOPE ドープ!!/Dope』

全米公開2015年6月19日/日本公開2016年7月30日/コメディ/103分

監督:リック・ファムイーワ

脚本:レイチェル・モリソン

出演:シャメイク・ムーア、トニー・レボロリ、カーシー・クレモンズ、キンバリー・エリスほか


レビュー

ロサンゼルスを観光する場合、映画や音楽が好きならばちょっと覗きたくなる「コンプトン」や「イングルウッド」といった地区は、軽い気持ちでふたりと立ち寄ると命の保証もないヤバい地域だ。ヒップホップカルチャーの中心地であると同時にギャングの抗争やドラッグ汚染など日常的にドンパチがどこかで起きている。

そして2015年にはこのふたつのヤバい地区を舞台にしたヤバい映画が公開された。ひとつはすでに日本でも公開され話題となった『ストレイト・アウタ・コンプトン』、そして「イングルウッド」を舞台にしたヤバい映画こそ本作『DOPE ドープ!!』だ。

「イングルウッド」と言えば1992年のロス暴動の激戦地としても有名で今でもロサンゼルス屈指の危険地帯として知られている。そんな場所に生まれ育ったマルコムは黒人らしく90年代のヒップホップシーンが大好きな一方で、いわゆるギャング系のイカツイ男子ではなくオタクな高校生。学校での成績も優秀で、ハーバード入学を志望している。

マルコムには一緒に「オレオ」というバンドを結成しているふたりの親友がいる。ベース担当でインド系のジブ、そしてドラム担当のディギー。ディギーは見た目は男だが実はレズビアンな女の子。だから男には興味がなく、マルコムやジブと同じで女好き、という不思議なメンバー。授業が終わると3人でバンド練習し、学校へはチャリンコで登下校する。

それでもここは「イングルウッド」。学校にはヤバそうないじめっ子もちゃんといて、マルコムのエアジョーダンも速攻でカツアゲされる。靴なしで帰宅中、マルコムは街でたむろするドラッグディーラーの兄ちゃんに声をかけられる。音楽の話で妙に意気投合してしまったマルコムは、その兄ちゃんから近所に暮らす超ベッピンなお姉ちゃんをパーティに誘ってくるようにパシリにされる。その女性はナキアと言い、実はマルコムの憧れの人でもあった。勇気を出してナキアの家に行くと、彼女は勉強中。そしてマルコムは要件を伝えるとナキアはボソッと「あなたが行くなら行ってもいいわ」と意味深発言。

これまでイケてない高校生だったマルコムは「イングルウッド」の黒人らしく仲間を引き連れて意気揚々とパーティ会場に乗り込むも、やっぱりそこは「イングルウッド」。パーティの最中に銃撃戦が発生し、転んだナキアを救出したながらも着の身着のままで脱出するのだが、翌日マルコムは自分のカバンを開けてみると、さあ大変、なぜかそこにはびっしりの麻薬と銃が詰まっていた。しかもその日はマルコムのハーバード入学のための面接日。

そんな訳で、ここから本当の悲喜劇はスタートするのだった。

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この映画はヤバい。もうメチャクチャにヤバかった。

アメリカ全土に広がる対立要件の全てを凝縮したような場所「イングルウッド」を舞台に、人種や属性、世代や性別や階級、そういった分かりやすい判断基準を前にして、「俺の肌が何色で、どこ出身で、性別がどっちかなんて知ったところで、俺がどんな人間かなんて何一つ分からないぜ。そんなことよりも俺がどんな音楽を聴いて、どんな友人を持って、どんな風にこのイングルウッドで生き抜いてきたのか、そっちの方が大切なんだよ」ということを訴える、ひとりの高校生の「エッセイ」だった。

アメリカの大学入試というのは日本のように客観的に数値化できる共通試験を「いっせーのーで、はい!」と競わせるものではなく、高校での成績、その大学にとって信頼できる人からの推薦状、そして自分という人間をアピールする目的で書かれたエッセイで合否が決まる。その点においてマルコムはハーバードに行くには厳しいと言わざるを得ない。高校での成績はいいかもしれないが、彼は「イングルウッド」出身なのだ。本編で校長が言うように、ハーバードに行きたがるような奴は存在しないのが「イングルウッド」であり、それは言い換えればハーバードに行きたいような奴では生き残れないのは「イングルウッド」でもある。しかもマルコムが高校に提出したエッセイは「コンプトン出身のアイス・キューブが音楽シーンに与えた影響について」であって、全然自分について語っていない。そういう話は「イングルウッド」のギャングには通用してもハーバード大学にとってはチンプンカンプンなのだ。

よく日本の受験と比較してアメリカのそれは柔軟で素晴らしいという言説を見かけるが、そんなもんはあくまで日本との「比較」の話で、それが人をふるい落とすシステムである以上は反感や欠点や批判も当然あって、「イングルウッド」出身のマルコムにとってはひとつの壁でしかない。しかもビバリーヒルズのボンボンたちとは違って、周りにはその壁に挑む仲間もいなければ登りきった先輩もいない高い壁だ。

そんな前例も比較も無意味な環境のなかで、マルコムは自分という存在の価値をどのようにして伝えていくのか?

自分の存在をどうすれば最大限に発揮できるのか?

マルコムは「イングルウッド」だからこその事件に巻き込まれるのだが、その問題を自分たちで解決しようとする悪戦苦闘が、そのまま問いの答えとなってるのが本作が最高にヤバい、英語で言うところの「ドープ/Dope」な理由だ。映画そのものがひとりの少年の可能性を表現した「エッセイ」になっており、重要なこととして、それは最高に面白く、魅力的だったのだ。

特にマルコムが事件に巻き込まれてからのスラップスティックな展開は本当にヤバい。「イングルウッド」のリアルなヤバさもしっかりと描いているから一歩間違えばヒヤヒヤするだけのスリリングな展開になってもおかしくないのだが、そこをしっかりとコメディとして押しとどめているのは、登場人物たちのキャラがちゃんと立っているからだろう。

マルコムを演じた主演のシャメイク・ムーアをはじめとして、レズで男勝りなドラマーを演じたトニー・レボロリ、そしてインド系なのにちょっと黒人の血も入っているベーシストを演じたカーシー・クレモンズのこの3人の関係はずっと観ていたいほどに魅力的だった。そしてヒロインを演じる「ワイブス」のひとりゾーイ・クラヴィッツを差し置いて、完全にぶっ飛んだ役で出演しているシャネル・イマンを観るだけでも本作はお釣りが来るほどに価値がある。俺たちの「ヴィクトリアズ・シークレット」のエンジェルが、あんなこともこんなこともしているのだ!すごいのだ。

本作はファレル・ウィリアムズが担当する音楽もかっこいい最高にヤバい映画なのだが、なぜか日本では一向に紹介されない。もしかすると日本人の潜在的な倫理コードを気にしているのかもしれないが、そういった偏見や先入観を「てこ」にして生き残っていく少年少女のサバイバル映画でもあるのながら、さっさとDVDでもいいから発売すべきだ。

これ、めちゃくちゃお気に入りです。

『DOPE ドープ!!』:

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ということで『DOPE ドープ!!』のレビューでした。『ストレイト・アウタ・コンプトン』にヤられた人はこれもお忘れなく。内容やトーンは全然違うけど、「ヤバい」を合言葉にすれば共通する作品です。日本では本作のようなテーマの映画を撮ろうとすると『パッチギ』(2ではないですよ)になるのでしょうが、そこは京都と「イングルウッド」の違いでしょうか、こっちは最初から最後までとことん笑えます。本来は笑えないものでもしっかりと笑わせてくれます。なんでいつまでたっても日本で紹介されないのですかね。メチャクチャ面白いですので、機会があれば是非ともお試しあれ。以上。

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DOPE ドープ!!
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