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映画レビュー|『レヴェナント: 蘇えりし者』レオナルド・ディカプリオ主演アカデミー賞受賞作

アカデミー賞受賞経験のあるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作、レオナルド・デゥカプリオ主演作『レヴェナント: 蘇えりし者』のレビューです。自分を見殺しにし、そして息子を殺した者への壮絶な復讐劇。共演はトム・ハーディ。

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『レヴェナント: 蘇えりし者/The Revenant』

全米公公開2016年1月8日/日本公開2016年4月22日/ドラマ/156分

監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ

脚本:マーク・L・スミス、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

原作:マイケル・パンク『蘇った亡霊:ある復讐の物語』

出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドーナル・グリーソン、ウィル・ポールターほか

音楽:坂本龍一、アルヴァ・ノト

作品解説

レオナルド・ディカプリオとアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が初タッグを組み、実話に基づくマイケル・パンクの小説を原作に、荒野にひとり取り残されたハンターの壮絶なサバイバルを描いたドラマ。主演のディカプリオとは「インセプション」でも共演したトム・ハーディが主人公の仇敵として出演し、音楽を坂本龍一が担当。撮影監督を「バードマン」に続きエマニュエル・ルベツキが務め、屋外の自然光のみでの撮影を敢行した。狩猟中に熊に襲われ、瀕死の重傷を負ったハンターのヒュー・グラス。狩猟チームメンバーのジョン・フィッツジェラルドは、そんなグラスを足手まといだと置き去りにしたばかりか、反抗したグラスの息子も容赦なく殺してしまう。グラスは、フィッツジェラルドへの復讐心だけを糧に、厳しい大自然の中を生き延びていく。

引用:eiga.com/movie/82912/

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レビュー

撮影監督エマニュエル・ルベツキの代名詞とも言える長回し風撮影は、前作『バードマン』で技術的な挑戦の最果てまで行き着いた。何せ120分間をカットが途切れることない長回し風に演出して見せたのだから、もうこれ以上何を「長回し」したところで驚かない。と、そう思っていた。

しかし本作『レヴェナント: 蘇えりし者』オープニングの戦闘シーンでの長回し、そしてその後に訪れるディカプリオと熊と壮絶な戦いでの長回しと、相変わらず息をするタイミングを失うほどに肩に力が入る。撮影監督のエマニュエル・ルベツキが得意とするマジックのような長回しは、例えばアルフォンソ・キャアロン監督との2006年のタッグ作『トゥモロー・ワールド』のクライマックスでは激しい銃撃戦のど真ん中に放り出されたような臨場感を生み出す一方で、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督とのタッグでは長回しによる息つく暇のなさがそのまま登場人物たちの切迫さと重なることになる。

そして本作では長回し撮影だけでなく、神々しいまでに美しい雪深い大自然の景色のひとつひとつが、その下で繰り広げられる復讐の連鎖に関わる者達の心象風景とちょうど重なることになった。

舞台は19世紀前半のルイジアナ。毛皮ハンターの一行は、当時フランスからアメリカが買い取った土地で狩りをしていたが、そこには昔から住む先住民たちがおり、彼らはその襲撃に怯えていた。そしてある日、彼らは先住民の襲撃を受け、生き残ったわずかなハンターだけで川を下り脱出を試みる。

そのハンターたちのなかにディカプリオ演じるヒュー・グラスと、彼と先住民の女との間に生まれた混血の息子ホークもいた。しかし単独行動をしていたグラスは突然に森のなかから現れた巨大な熊に襲われてしまう。何とか手持ちのナイフで熊を殺すも、グラスは重症を負う。雪深いルイジアナの冬にあって重症のグラスを伴っての逃避行は危険すぎ、リーダーは息子のホークと他2名のハンターを残して、先を急いだ。

グラスとともに残ったハンターのひとりでトム・ハーディ演じる粗野なフィッツジェラルドは、リーダーの命令を無視し、グラスが死ぬのを待たずに放棄しようとした結果、抵抗するホークを小競り合いの末に殺してしまう。朦朧とする意識のなかで一部始終を感じ取っていたグラスは、重症のまま大自然のなかに取り残されるも、燃えるような復讐心を糧に自らで立ち上がり、フィッツジェラルドの跡を追うのだった。

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物語は二つの復讐劇を内包している。

ひとつは主人公グラスの復讐。息子を殺した悪漢フィッツジェラルドを地の果てまで追い詰めるという個人としての復讐劇。

もうひとつは先住民による白人達への大きな復讐劇だ。グラスはフィッツジェラルドを追いかけながらも、同時に先住民達からも追われ、そしてフィッツジェラルドはその両方から追われることになる。

物語の中心となる軸はディカプリオ演じる個人の復讐劇だが、物語全体に漂う虚無的なトーンは先住民たちの復讐心によって作られている。タイトルになっている「レヴェナント/Revenant」とは死の淵から蘇った人を指すと同時に亡霊も意味する。もちろんディカプリオ演じる役柄を言い表した言葉ではあるが、死を肉体の終わりと考え魂の主体性を重んじる先住民たちの思想も強く反映している。

2時間半という上映時間にあって、激しいアクションシーンは主に最初と終わりだけに限られ、中盤は死の淵から舞い戻ったグラスが燃やす復讐心と、白人たちによって蹂躙された先住民たちの復讐心が交互に語られ、それは同じ「復讐」という言葉で説明されたとしてもその言葉が指す中身には大きな違いがあることも描かれている。そういったテーマに関わる部分をセリフで説明するパートはひとつもなく、ひたすら映像表現のみで描写しているのだ。

坂本龍一が担当した音楽も劇中で交わされるセリフの少なさ同様に寡黙で、音楽によって感情を高ぶらせるのではなく、感情を高ぶらせる映像を支える形で音楽が作用している。

このように確かに素晴らしい映画だった。類稀な演出力を持った監督と、革新的な撮影監督、そしてレオナルド・ディカプリオとトム・ハーディという素晴らしい俳優たちが合わされば、それは素晴らしい映画になる。一方でこういった素晴らしいタレントたちが集まった結果、作品の個性が不鮮明になったことも事実だろう。

また美術監督にジャック・フィスクが携わっていることも関係しているだろうが、特に中盤からはテレンス・マリックの映画を見ているような錯覚にもなった。その点においてアレハンドロ・G・イニャリトゥという名前と直結した『バードマン』と比べると物足りなさが残ってしまう。

それでも長い上映時間もあっという間に終わっていくほどに緊張感が緩まない。革新があり、素晴らしい演技合戦があり、そして先住民を巡るポリティカル・コレクトネスまで備えている本作。出来過ぎなほどの完成した作品と言える。

『レヴェナント: 蘇えりし者』:

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ということで『レヴェナント: 蘇えりし者』のレビューでした。これはディカプリオの念願のオスカーも間違いなしでしょうか。もしこれで獲れなかったらアカデミー会員から嫌われているのではなく、完全に無視されていると思っていいでしょう(嫌われているのはみんな知っている)。そして助演猛獣賞をレオ様を生きたままムシャムシャする熊さんに送りたいです。音がグロいっす。あー、三毛別羆事件とかこんな感じだったのかな、と思うと寒気がします。熊、怖し。しかもワンカット映像でそれを見せられますので臨場感が半端ないです。それだけ見るためでも価値ある作品かと。でも率直な意見としては賞レース狙いの感じがしたことも事実です。でもオススメです。以上。

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レヴェナント: 蘇えりし者
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