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映画ジャーナル<ビーグル・ザ・ムービー>

【映画】ジョニー・デップ主演『トランセンデンス』レビュー 

ジョニー・デップ主演、ウォーリー・フィスター監督によるSF映画『トランセンデンス』のレビューです。海外サイトでは酷評の嵐となっている本作ですが、何とも「アンチクライマックス」な内容でした。日本公開は2014年6月28日。

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・ストーリー

人工知能の研究に携わるウィル(ジョニー・デップ)とイブリン(レベッカ・ホール)は、自律可能な知覚コンピューターの誕生によって、世界を変える「トランセンデンス/超越」と呼ばれる未来を目指していた。

そして人工知能に関するティーチングに参加したウィルは、反テクノロジーの過激派がおこした同時多発テロの犠牲となり、凶弾に倒れる。一命を取り留めたかに思えたウィルだったが、銃弾には放射性物質が塗りこまれており、ウィルは徐々に死へと向かうことになる。

夫の死という避けがたい事態に抗しようと、イブリンはウィルの脳情報を量子コンピューターに取り込むことで、ウィルの意識をコンピュター上で再現できるように、友人のマックスの力を借りて試みる。やがてウィルは死んでしまい、彼の遺灰は湖に撒かれることになるものの、ウィルの意識をコンピューター上に展開することには成功する。だが、ここでマックスは一つの重大な疑問に気がつく。「あれは本当にウィルなのか?」

ウィル本人にしか知り得ない記憶がデータとしてコンピューターから発せられるも、その意識が本当にウィル本人なのかマックスには信じきれなかった。このままデータとしてのウィルを運用することに反対するマックスはイブリンから追い出されるも、その直後、彼は反テクノロジーの過激派に捕まってしまう。人工知能の抹殺を目指すテロリストらはイブリンの居場所を急襲するも、人工知能と化したウィルの手助けによって、イブリンは追手から逃れる。

そして世界中のネットワークを管理下に置いた人工知能ウィルは、イブリンに指示する形で砂漠の真ん中に研究施設の建築を開始し、ウィルは恐ろしい速度で自律進化を遂げて、文字通り世界を変える技術革新を達成していく。

世界を変えるために、人工知能のウィルは「神」の領域へと突き進んでいく。

・感想

この映画を見終わった直後の感想は、「ルックスもスタイルも最高なのに、物事の考え方が致命的にダメで薄っぺらい中身」の映画だな、というものだった。監督のウォーリー・フィスターはクリストファー・ノーランの映画で長く撮影監督を務めており、今回が満を持しての監督デビューだったのが、ノーランの悪い部分を拡大継承してしまった結果となった。ノーラン作品の肝が「意味が深すぎて作品の底が見ないのか、それとも底なんてそもそもないのか」が分からないというものであるなら、本作は「作品の底をなるべく分かりやすく見せてあげようとしたら、そもそも底なんてなかった」映画である。つまり薄っぺらいのだ。

ここ10年ほどのSFサスペンスではクローンや人工知能などの生命倫理にまつわるプロットは一種のトレンドでもあった。そしてこの映画も結局は、神の領域に近づき過ぎた人類が修復不可能な罰を受ける、というお話に終わっている。そんなものを説教臭く語られるくらいなら聖書にある『バベルの塔』の物語でも読んでいる方がマシだ。しかも純な愛の物語まで組み込もうとするものだから、印象がぶれまくる。確かに映像は美しく、特に映画前半部の風呂敷を広げる過程はよく描いている。しかしそこから物語が進んでいき、未回収だった問題がクライマックスの一点に収束していく過程が、あまりにお粗末過ぎる。盛り上がりもへったくれもない。

まず本作の物語構造は非常に単純で、表面的な正義と悪が、ある臨界を迎えた時に立場が逆転するというもの。正義や悪を合わせ鏡のように描くのはいいが、その過程があまりに乱雑で、特に反テクノロジーの過激派の物語内での扱い方は問題がある。

そしてこの映画の最大の問題はテーマがはっきりしていないこと。人工知能が人類の知性を超越してしまう『マトリックス』的な近未来への警鐘のようであり、有機体と無機物との境界がなくなってしまう生命倫理の問題のようでもあり、結局はエコロジー思想がテーマのようでもある。おそらくはそれら全てを一つの物語のなかで語ろうとする意図があったのだろうが、物語全体でそれらのテーマを一元的に捕らえようとせずに、「ここではマトリックス」、「ここではエコロジー」とプロットごとにテーマを振り分けているから、連続性がなく、気が散る。というか何が言いたいのかよく分からない。

SF的なルックスはさすがに新鮮であるが、それは監督の技量というよりは単純にVFXワーカーたちの技量だろう。ジョニー・デップが主役と言うことで彼を自覚なき暴走者のままにして物語を閉じることが出来なかったのかもしれないが、それにしても結末もひどい。

ということで期待していた分、がっかり感もハンパない作品でしたが、出演者は一流どころが勢揃いしているし、物語の前半ではかなり期待感を感じさせます。ジョニー・デップにだったらどんな迷惑をかけられても平気という方にはおススメです。

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