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映画レビュー|『ペーパータウン』-奇跡に溢れた世界からの卒業

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世界中でヒットを記録した『きっと、星のせいじない。』の原作者ジョン・グリーンの映画化作品第二弾となる『ペーパータウン』のレビューです。主演は『きっと、星のせいじない。』にも出演していたナット・ウルフ、そしてモデルのカーラ・デルヴィーニュ。シャイで内気な高校生が、仲間たちと卒業を前に人生をかけた旅に出る青春映画。

『ペーパータウン/Paper Towns』

全米公開2015年7月24日/日本公開未定/アメリカ映画/107分

監督:ジェイク・シュライアー

原作:ジョン・グリーン『さよならを待つふたりのために』

脚本:スコット・ノイスタッター、マイケル・H・ウェバー

出演:ナット・ウルフ、カーラ・デルヴィーニュ、ハルストン・セージ、オースティン・エイブラムス他

あらすじ

卒業まであとわずか.さえない毎日をおくる高校生,クエンティンのもとに,ある晩突然,隣の家の同級生,マーゴがやってくる.マーゴは抜群の行動力と突飛な発想力で,周りから一目も二目もおかれる,学校のアイドル的存在.二人は幼なじみで同じ学校に行っているとはいえ,住む世界が違いすぎて,ここ数年は話すこともしていない.いぶかるクエンティンに,マーゴは,朝までに手伝ってほしいことがある,と持ちかける…….

参照:www.iwanami.co.jp/moreinfo/1164020/top.html

レビュー

奇跡のない世界に向かう彼らの旅:

ペーパータウン(paper towns)とは文字通り紙で作られたハリボテの町を意味すると同時に、地図上にだけ存在する町のことも意味する。「地図上にだけ存在する町」というとファンタジーに聞こえるが、実際に地図に記載があっても実際には存在しない「町」は本当に存在する。不思議な修辞だが、存在しない「町」は存在する。ニューヨークの北に「存在」するとされるアグロエ(AGLOE)という町も実際には存在しない。これは地図会社が高い制作費をかけて作った地図が違法に流用されることを防ぐため、あえて架空の町を地図に書き足したものだ。そうすれば違法にコピーした地図を完売した会社を問答無用で訴えられる。

「ハリボテの町ペーパータウン」そして「地図上にしかない町ペーパータウン」。

主人公クエンテンィンは見るからに冴えなくて、卒業パーティのプロムに誘う女の子もいない内気でシャイな高校生。一方でクエンティンの真向かいに暮らすマーゴは学校きっての人気者。もちろん男にもモテるし、大胆でエキセントリックな一面から彼女は学校のカリスマだった。幼い頃は仲良く遊んでいた二人だが高校にもなるとあいさつもしない。しかしある夜、子どもの頃そうしたようにマーゴはクエンティンの部屋の窓を叩いた。そしてクエンティンはマーゴに促されるまま、彼女を騙していた元彼や友人にいたずらをしかける。ルールや常識に忠実だったクエンティンはこの時マーゴから「道を外れる」ことの開放感を教わる。そしてこれを機に二人の関係は進展するかと思われるも、翌日、マーゴは何も言わずに失踪してしまう。そしてクエンティンは友人らとともにマーゴを探す旅にでるのだ。

本作と同じ原作者の作品として先行しスタッフの多くも重なる『きっと、星のせいじゃない。』同様に、どこか80年代から90年代初頭にかけて良作が豊富だった(同じくらいパクリもあったが)頃の青春映画を彷彿とさせる。(『きっと、星のせいじゃない。』に主演したアンセル・エルゴートもカメオ出演している)。高校卒業を舞台にした青春映画は数あれど本作『ペーパータウン』では、例えばキャメロン・クロウ監督デビュー作『セイ・エニシング』や最近の映画では『童貞ウォーズ』などに見られた、主人公たちが高校卒業(子どもから大人)という見えない境界線をまさに越えようとする瞬間を描いている。また劇中ではホイットマンの詩が重要になることからも『今を生きる』にも通じる。

主人公クエンティンにとってマーゴは永遠の憧れ。いつも遠くから彼女を眺めているだけ。スタイルが良くて男勝りのサバサバした性格に、時折見せる突拍子もない行動から彼女は特別な存在だった。それは決してクエンティンだけの想いではない。彼以外の多くの生徒も、クエンティンのような恋心とは違っても、マーゴを特別な存在として扱った。彼女の両親も、マーゴを持て余しては自分たちとは違う存在として扱う。しかしマーゴからすでばこのような気分に向けられる特別な視線は「鎖」にしか感じられなかった。自分に正直でいればエキセントリックと呼ばれる。正直であれと言われる社会にあって正直に生きれば異端視させる矛盾。彼女は外からは決して伺えないような空白を抱えていた。まるで自分が高い壁で覆われたハリボテの町に暮らしているようで、そこに暮らす限り自分もまた紙の人にならざるを得ない。物語の発端とは、そんな彼女の決心からもたらされる。そして彼女の決心に巻き込まれた人々もまた、実は彼女と同じ悩みを抱えていることを知る。

簡単に言ってしまえば本作は、平凡であるがゆえに誰もが経験したことのある、「自分らしい自分とは何か」というモチーフを土台としている。もちろんそれは青春映画の基本フォーマットであり、誰もがその心理状況を経験してことがあるが故に、ちょっとした仕掛けでも強引に感じてしまうことがあったり、普遍的テーマを扱うだけに時代設定以外は先行作品と変わりがない、という齟齬の出やすいジャンルでもある。本作でも展開や設定の強引さは目につく。例えばマーゴと同じく学校のマドンナである女の子が、周りの友人が自分の容姿ばかり褒め称えることに抗議することがあるのだが、それにしては彼女のファッションが童貞殺しの超絶セクシーであるため説得力がない。あんな格好で学校に来られて「見るな」というのはヒドイ。完璧に調節された隙のない作品とは言えない作品だが、それでも舞台が高校卒業の不安定な時期だけに物語そのものに違和感を感じることはない。

地図にも現実にも存在する「本当の 町」とはどこにあるのか?

地図にも載っていて友人や家族も暮らしているペーパータウン。地図に載っているだけでそこには誰も住んでいないペーパータウン。この同じ言葉から引き出される二つの意味の違いが、本作の登場人物の心模様をうまく隔てており、また本編では俯瞰ショットが象徴的に使われることで、内と外とのバランスが一変する青春期の彼らの視線をうまく演出している。しかし青春期の不安定さはうまく描きながらも、物語としてはどうしても深みに欠けるのも事実。間違いや挫折を正解として許容できてしまうその時代特有の甘美さだけに寄り添った印象も強い。

それでもこの映画を評価したいのは、しっかりと青春映画に徹したためだ。全年齢推奨みたいな眠いことは言わずに、10代後半の若者にのみ向けて真面目に映画を作るということは、実はなかなか難しい。日本に限らずティーン向け青春映画は多く作られているが、ほとんどがありえない「奇跡」を描くことに終始している。しかしこれが大きな間違いであることを本作ははっきりと指摘している。「奇跡」は起きないものと実感することで「奇跡」のない世界で生きることを決心する、その覚悟こそが「大人」になることだというジョン・グリーンの主張は映画化作品でもしっかりと受け継がれている。

確かに世界は「奇跡」で溢れている。きっとクエンティンがマーゴと出会ったのも彼からすれば奇跡なのだが、いつまでもその奇跡の残骸のなかでは生きられない。そして物語の最後、クエンティンはマーゴを探す旅を通して、奇跡の結末を知ることになる。

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ということで『ペーパータウン』のレビューでした。『きっと、星のせいじない。』とは監督が変わりポップな演出がなくなった分、80年代青春映画のテイストが強調されています。『ブレイクファースト・クラブ』や『セント・エルモス・ファイヤー』などが好きな方も是非。あとカーラ・デルヴィーニュの存在感はなんか異質でした。日本公開は未定のようですが、卒業シーズンに劇場で公開してもらいたいものです。おすすめです。以上。

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ペーパータウン
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