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映画レビュー|『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピットという豪華キャストが結集し、リーマンショックの裏に隠された世紀の大博打を描く『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のレビューです。世界経済をどん底に追いやった傲慢なウォール街を出し抜いた変人たちの大博打。

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『マネー・ショート 華麗なる大逆転/The Big Short』

全米公開2015年12月11日/日本公開2016年3月4日/ドラマ/130分

監督:アダム・マッケイ

脚本:アダム・マッケイ、チャールズ・ランドルフ

原作:マイケル・ルイス著『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』

出演:クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピット、マリサ・トメイほか

作品解説

05年、ニューヨーク。金融トレーダーのマイケルは、住宅ローンを含む金融商品が債務不履行に陥る危険性を銀行家や政府に訴えるが、全く相手にされない。そこで「クレジット・デフォルト・スワップ」という金融取引でウォール街を出し抜く計画を立てる。そして08年、住宅ローンの破綻に端を発する市場崩壊の兆候が表れる。

クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピットという豪華キャストが共演し、リーマンショックの裏側でいち早く経済破綻の危機を予見し、ウォール街を出し抜いた4人の男たちの実話を描く。


レビュー|華麗でも爽快でもない虚しい逆転劇

何も知らないことが問題なのではない。知らないことを知っていると思い込むことが問題なのだ。ーマーク・トウェイン

2008年に世界経済をどん底に陥れた「リーマン・ショック」に関する映画はこれまでも作られている。ざっと思いつくだけでも『マージン・コール』、『インサイド・ジョブ』、『ウォールストリート』、そして『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』というサブプライムショックの被害者を扱ったサスペンスもあり、フィクション、ノンフィクションに関わらず市場崩壊後から時間を空けずに多数の関連映画が作られた。なかには『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』なんていうバカコメディ映画もウォール街のデタラメぶりを題材にした。そして本作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のメガホンを取ったアダム・マッケイはそのバカコメディ映画の監督でもある。

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』はリーマン・ショックという出来事の裏でウォール街を見事に出し抜いた男たちの大博打を描いていた実録エンターテイメント作品であると同時に、ウォール街で持て囃されていた住宅ローン債権が実は「腐った魚を煮込んだ」だけの「イカサマ高級料理」だったことを教えてくれる、最高に分かりやすい解説作品でもある。教師陣はクリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、そしてブラッド・ピット。実際に彼らはスクリーンのこちら側の我々にサブプライムローンの実態がいかにデタラメなのかを語りかける。

本作は三つのグループによるそれぞれの大博打を描いている。日本語の予告編ではわからないが、クリスチャン・ベールの博打と、ライアン・ゴズリングとスティーブ・カレルのグループによる博打、そしてブラッド・ピットが指導役を務めるグループの博打は、それぞれが交わることはない。

それでもきかっけは一人の変人のひらめきだった。あるヘッジファンドのマネージャーを務めるマイケル・バリー(クリスチャン・ベール)は、ウォール街を潤していた住宅ローンを含む債権に重大な危険性が含まれていることに気がつき、CDSという制度を使った逆張りを画策する。変人の奇行と思われたマイケルの戦略は、大方の金融機関からは一笑に伏されるが、同じく若きトレイダーだったジャレッド・ヴェネッド(ライアン・ゴズリング)はマイケルの計画を察知し、当初からサブプライム住宅ローンに懐疑的だったマーク・バーン(スティーブ・カレル)に出資を促す形でマイケルとは別に逆張りを行う。また引退した銀行家のベン・リッカート(ブラッド・ピット)も若い二人のトレーダーたちの指導役として、浮かれきったウォール街の体勢とは逆に、サブプライムローンの破綻に賭ける大勝負に打って出るのだ。

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その大勝負を可能にするのが前述のCDSという制度だ。「クレジット・デフォルト・スワップ」といい、特定の債権が破綻した場合の保険のような役割を担う金融取引のひとつだ。ある企業の債権を買った場合に、その企業が倒産した場合に売り手が焦げ付き分を保証してくれる保険商品で、マイケルはこれに目を付け、債権のCDSだけを購入し、多額の補償を利益として受け取ることを狙った。つまりサブプライムローンはやがて破綻し、市場に流通する債権が紙くずになる方に賭けたのだ。もし破綻しなければその賭け金は無駄金になる。しかもマイケルが狙ったのは格付け会社が価値を保証した「自称」優良債権だった。その分保険料は安く、崩壊した場合の補償額も大きい、言わば大穴、一見すれば健康な人間に必要のない入院保険をかけたも同然だ。しかし健康だと思われていたその人も、実は内臓や骨はすでにボロボロだった。マイケルをはじめ本作に登場する3つのグループはそれぞれの方法で実態を見抜いていた。

しかし本作を見る上でこういった金融に関する知識は全く必要ない。映画を通して知ることができるということもあるが、本作の重要なテーマとして 、ウォール街で働く高級スーツを身にまとった金融マンたちが、驚くほどに自分たちの売っている商品に無知だったということが描かれるためだ。いや、問題は彼らが無知だったことではなく、自分たちが無知であるという事実から目を反らし続けてきたことだった。市場関係者が揃って住宅マーケットの崩壊を信じなかった理由は、単純に彼らは驚くほどに愚かだったためだ。知識がないことが問題ではないのだ。愚かなのが問題なのだ。

そこにあるゴミとあそこにあるゴミは、どちらもゴミに違いないがゴミ屑としての関係性は薄いため、両方のゴミを合わせればもうそれはゴミではない。だから他人に安心を謳って売っても問題ない。連中はこんなバカみたいな方程式を信じ続けていた。本作の冒頭に引用されるマーク・トウェインの格言が単なる人生訓としてだけでなく、本作を通して強烈な批判となるのはそのためだ。

世界中の市場をどん底に追い込んだウォール街の詐欺師たちが大損し、一方で真っ当な感覚と先見性を持った少数が大儲けするとなればさぞかしスカッとする映画だろうとも思えるが実際は喉の奥に刺さった小骨は最後まで抜けない。その理由とはこの映画の奇妙さに由来する。まるで『デッドプール』や『ファニーゲーム』のように、登場人物が観客に向けて唐突に話しかけてくる。コメディタッチが強調される前半はそういった手法が笑えるのだが、後半になって描かれる状況の深刻さが露わになるにつれて彼らの語りかけが全く違った意味を帯びてくる。それは観客全員を現在進行中の事件の目撃者に仕立てる意図があったことに気がつかされるのだ。

確かにウォール街の自覚なき詐欺師たちは大損した。しかしそれはもともと彼らの金ではない。彼らは自分たちの金を失ったのではない。「サブプライム」という言葉が言い表す用に「優良とは言えない」人々、つまりは貧困層や労働者層から騙し取った金を彼らが焦げ付かせただけなのだ。家も仕事も失ったのは、ウォール街のエリート連中ではなくデタラメの住宅ローンに騙された「サブプライム=非優良」な人々なのだ。しかしこの「巨大詐欺事件」で一体誰が責任を取ったのだろうか? 一体誰が刑務所に放り込まれただろう? ゴミ屑が混ざった証券をトリプルAと称して売った銀行や証券会社は自らの不明を恥じて二度と同じ過ちを繰り返さないと誓っただろうか?

全ての答えは本作のラストに明かされる。そして本編を最後まで見届けた後は、観客はもう「知らない」とは言えないのだ。リーマン・ショックが問題の終わりではなく、拝金主義というウィルスは数年の潜伏期間を終えて再び地上に現れようとしていることが示唆される。監督のアダム・マッケイがざわざわ奇妙な演出法をとったのは、我々へに警告であると同時に「あなたはもう知らないとは言えない」という確認でもあった。知らないふりをすることも、知らないことを知っていると偽ることもできない。もうあなたは無知ではないのだ。

今アメリカ経済は復活の兆しを見せている。失業者指数も改善され、金利も引き上げられた。一方でウォール街も以前の活気を取り戻そうとしている。そしてゴールドマン・サックスなどが「ビスポーク・トランシュ・オポチュニティー」と呼ばれる新たな金融商品を売り出している。投資家の注文に応じて「ビスポーク=オーダーメイド」できるものだ。

ん、、待てよ、確かサブプライムローンを破綻に導いたゴミ証券もまた「オーダーメイド」であると謳い、出自不明のクズ債権を寄せ集めたものだったはずだ。

そう、あいつらは何にも懲りていなかったのだ。

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』:

『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』レビュー

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ということで『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のレビューでした。素晴らしい躁鬱映画です。前半はひたすら楽しく明るいのに後半はズーンと鬱状態。この邦題の違和感たるやほとんど詐欺です。全然「華麗なる逆転」劇じゃないので注意してください。しかし内容はトリプルAを保証します。何の実績も信頼はありませんが、トリプルAです。5つ星です。ブラッド・ピットは控えめでクリスチャン・ベールとスティーブ・カレルが事実上の主役と言え、ライアン・ゴズリングはトリックスターという位置付けです。あとなぜか劇中に徳永英明の『最後の言い訳』がかかるのですが、ひとりで笑ってしまいました。メタリカやパンテラやレッド ・ツェッペリンに混じる徳永英明にも注目です。ラスベガスのシーンですのでお見逃しなく。これはトリプルAでオススメです。しかしチケット代の保障はしませんのであしからず。以上。

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マネー・ショート 華麗なる大逆転
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