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映画レビュー|『幸せをつかむ歌』メリル・ストリープ主演

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メリル・ストリープ主演『幸せをつかむ歌』のレビューです。ロック歌手となるために家族を捨てた女性が娘の離婚をきっかけに再び家族の絆を取り戻そうとする奮闘を描く。メリル・ストリープが歌うロックの数々にも注目。『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミが監督。

『幸せをつかむ歌 / Ricki and the Flash』

全米公開2015年8月7日/日本公開2016年3月5日/ドラマ/101分

監督:ジョナサン・デミ

脚本:ディアブロ・コーディ

出演:メリル・ストリープ、ケヴィン・クライン、エイミー・ガマー、リック・スプリングフィールド、セバスチャン・スタン、ほか


レビュー

メリル・ストリープが女性ロックシンガーを演じる『幸せをつかむ歌』を観ていて思ったのは、老人のためのエンターテーメント映画というジャンルがどうやらマーケットとして確立されつつあるようだという漠とした驚きだった。エンターテイメントの中心とは若者を中心とした流行に支えられていることは変わらないのかもしれないが、その対象者が「若者だった昔を思い出す」老人たちにまで確実に広がっていると実感したのだ。日本でも北野武監督の『龍三と七人の子分たち』があったし、アル・パチーノ主演の『Dearダニー 君へのうた』なども「老人の老人のための老人による」映画だった。そして本作ではメリル・ストリープ(66歳)までもが老人としての青春の可能性を肯定しようと老体に鞭打ってロックすることになる。

『幸せをつかむ歌』の内容はエンターテイメントそのものだ。

家族を捨ててまでロック歌手になるという夢を追い求めたリッキー(メリル・ストリープ)は今でも場末のバーで演奏しつつも、昼間はスーパーのレジ打ちとして生活している。それでも彼女はロックンローラーとしてのポリシーを曲げず、髪の毛は編み込み、黒のレザージャケットを手放さない。

そんなある日、別れた元夫から電話がかかり、娘のジュリー(エイミー・ガマー)が離婚して落ち込んでいることを告げられ慰めに来るように依頼される。20年ぶりに過去に捨てた家族と再会したリッキーだったが、ジュリーは自殺未遂をするまでに精神的に傷ついており、他の二人の息子たちも母親としてのリッキーに好意を抱くことはなかった。

ぎすぎすした家族の再会のなかでも徐々にリッキーに心を許し始める娘のジュリーだったが、自分の夢のために子供たちを捨てた母親への違和感は消えることはなかった。それでもリッキーは傷ついた娘を励ますために奮闘を続ける。

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対象年齢を厳密に設定したエンターテイメントとは、そのターゲットの外側の人間からすると全く興奮しないどころか、逆に気恥ずかしくなったりすることがある。子供向けアニメが大人から観るとくだらなく思えることもあるだろうが、それ以上に過去に自分が夢中になった漫画や映画を見返すと「こんな夢物語に夢中になっていたのか、昔の俺は」と気恥ずかしくなることがある。そして『幸せをつかむ歌』を観ている最中から感じた気恥ずかしさもまた、いつか自分が老人になった時にはこんな夢物語に感動したりするのだろうか、という一抹の不安から生まれたものだろう。

青春映画とは若者特有の過ちや失敗や悲劇を、肯定的に描くことでそのターゲットである若者たちを劇場におびき寄せようとする魂胆がある。今のあなたが苦しんでいたとしてもそれは未来のあなたにとって必要な成長の糧なのだ、というメッセージだ。そして本作はその青春という年齢制限を大幅に釣り上げた作品で、過去の過ちや不幸に悩む老人に向けて、大丈夫まだやり直せる、というひたむきなまでのメッセージを送り込んでいる。

本作の主人公リッキーはロック歌手になるという夢のために家族を捨てた女性だ。メリル・ストリープは実年齢は66歳だが、本作では50代中頃から60代くらいまでの女性を想定している。老人というには早すぎる年齢かもしれないが、青春映画の主人公として夢を追いかけ、家族の大切さを知り、そして恋愛だってバリバリするには些か老いているというのが率直な感想なのだが、リッキーはその全てに今でも貪欲な女性なのだ。

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リッキーは母親としての自分の無力さを物語を通して実感することになる。しかしその視点はあくまで彼女の個人主義に基づいたもので、アル・パチーノ主演の『Dearダニー 君へのうた』に見られたような老人が反省することで家族とやり直すという内容ではなく、「悪いとは思っているけど、 この生き方は変えられません」という頑なな自己肯定によって貫かれている。正直、実際にこんな母親はキツイの一言なのだが、それもあくまで子供から見た想いであって重要なのはその人の趣向であり、生き方というのは例え家族だろうは世間だろうが周りの視線によってコロコロ変えるべきものではないということなのだろう。

言うなれば女性のための『スクール・オブ・ロック』、もしくは女性版『ハングリー・ハート』(ブルース・スプリングスティーン)みたいな作品だった。

映画として真面目に観る分にはコテコテ過ぎて話にならない。ラストの大団円シーンはほんとうに観ていて恥ずかしくて仕方なかった。結婚式とかで親や親戚や上司が勢い余ってはしゃいでいる姿を見るのに近い、気恥ずかしさだ。

それでもメリル・ストリープの歌声はさすがの一言だし、彼女のバンドのリードギターで恋のお相手でもあるリック・スプリングフィールドは本職だけあって説得力が違う。本作の最大の魅力とはバンド演奏にある。ロックなメリル・ストリープがU2を歌ったりするのだ。またリッキーの娘を演じるのはメリル・ストリープの実の娘でもあるエイミー・ガマーということにも注目。そして息子役で「ウィンター・ソルジャー」ことセバスチャン・スタンも出演している。監督には『羊たちの沈黙』でアカデミー賞を総なめしたハリウッドを代表する一発屋監督ことジョナサン・デミ。この統一感があるようでなさそうなキャスティングからも内容の深度が推測できるだろう。

自分の若さを試す目的としてはオススメできる映画なのかもしれない。

『幸せをつかむ歌』:

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幸せをつかむ歌
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