BEAGLE the movie

映画ジャーナル<ビーグル・ザ・ムービー>

【映画】2011年公開『ベルフラワー』レビュー

30年ぶりとなるシリーズ最新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の公開を記念して、『マッドマックス2』の世界に憧れるダメ男の狂気を描いた『ベルフラワー』のレビューです。映画の内容だけに留まらず、メタ的にも現実と妄想の境界を失った男の悲哀を低予算で描いた本作。孤独で悲惨な現実を乗り越えるために必要なものは、狂気なのだ。

Bellflower

『ベルフラワー/BELLFLOWER』

2011年全米公開/2012年日本公開

監督/脚本:エヴァン・グローデル

出演:イヴァン・グローデル、ジェシー・ワイズマン、タイラー・ドーソンなど

ストーリー

ロスの郊外ベルフラワーに暮らすウッドローとエイデンは幼じみ。二人は子供の頃にテレビで『マッドマックス2』を観て以来、映画に登場する極悪暴走族の帝王ヒューマンガスに心酔していた。大人になった二人は仕事もしないで、『マッドマックス2』の世紀末的世界への憧れから火炎放射機を制作する日々を送っている。

そんなウッドローにもミリーという彼女ができた。飾り気が無く男勝りなミリーと幸せな時間を過ごしていたウッドローだが、ある日、その彼女が浮気している現場を目撃してしまう。激怒したウッドローはそのままバイクで走り去るが、その途中で車と衝突、大怪我を負う。身体中がボロボロになり脳にもダメージを受けたウッドロー。

そこから世界は一気に狂気を帯び始める。

親友のエイデンと二人で火炎放射機でエミーの荷物を焼き払い、エイデンは浮気相手をブチのめす。

「ヒューマンガスになれ」

孤独で惨めな現実から逃れるため、ウッドローは現実と妄想の狭間の中で、全てを燃やし尽くす。

レビュー

ある映画を紹介するとき、僕もよく使う表現だが、「観る人を選ぶ映画」というフレーズをよく目にする。デヴィッド・リンチや、最近ではニコラス・ウィンディング・レフンの作品のレビューにはほとんど常套句とさえなっている。僕も然りだ。しかしその場合の多くは過激な描写や難解な背景や構成に由来することが多い。つまり気だるい日曜日の昼下がりにちょっと気分を変えたくて軽い気持ちで観る映画ではないという意味だ。映画を見ている間くらいは退屈な日常から遠く離れ、華やかでロマンティックで血湧き肉躍るような非現実の夢のなかで過ごしたい、というのが一般的な映画鑑賞の姿勢であるのなら、間違ってもリンチの『ロスト・ハイウェイ』を観るべきではない。

では本作はどうだろう。

本作『ベルフラワー』も「観る人を選ぶ映画」である。しかしその理由は作品内の作法にあるのではない。本作はたった200万円程度の超低予算で作られた作品で、フィンチャーのような大掛かりな撮影方法や映画的修辞法を採用できるはずもなく、監督・脚本・主演を務めるエヴァン・グローデルの実体験を基にした個人的な映画である。乱暴に要約すれば、孤独にくすぶっている男の失恋の痛みと狂気を描いた作品だ。

主人公のウッドローとその友人エイデンは『マッドマックス2』の世界に憧れ、このロクでもない人生から一発逆転のために世界が崩壊する日をただ待ち続けている。そしてその日が訪れた暁には、用意しておいた改造車と火炎放射機を使って世界を牛耳り、これまで自分たちを蔑ろにしてきた世界に復讐するつもりでいる。しかし映画の序盤はインディーズの青春映画風で、そういった背景が現実感を伴った狂気としては描かれておらず、奇抜さに憧れる若者の反社会的態度のひとつとして軽く描かれているに過ぎない。

しかしウッドローの手痛い失恋からはそのトーンが一気に変化する。遊びだったはずの改造車や火炎照射器が、彼の怒りや絶望や破壊願望といったウッドローを襲った激情の比喩として生まれ変わる。自主映画でありがちな奇をてらった色目の映像や手持ちカメラのブレも、ウッドローが妄想表現と重なるように変わっていく。『マッドマックス2』との関連においても、主人公のメル・ギブソン演じるマックスではなく、怪人ヒューマンガスに憧れていたという設定もただの奇抜狙いとは思えなくなる。

映画の終盤からは現実と妄想が入り混じるだけでなく、時間も行ったり来たりを繰り返す。でもそれはデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』に見られる観客に解釈を挑むような難解さとは明らかに異質で、多くの人が経験したことのある失恋時の心理状況そのものだ。ちなみに本作のタイトルは実在するロスの通りの名前で、それは『マルホランド・ドライブ』も同じなためイヴァン・グローデルは本作の編集時にリンチ作品を意識したのかもしれないが、中身は似て非なるものとなっている。

信頼していた誰かに裏切られた経験があったり、上手くいかない毎日を誰かのせいにしたことがある人にとって『マッドマックス2』に憧れる主人公を観て笑うことはできない。本作は確かに「観る人を選ぶ映画」だし、楽しい映画でもない。しかし決して難しい映画でもない。本作が選ぶ「観る人」について映画の冒頭で言及されている。

「想像してみろ。世界の終わりが始まる。誰も準備なんかしていなくて世界は大混乱に陥る。そこに火を吐き出す暴走車が登場し、世界を支配する。それに乗るのは俺だ」

もしあなたがこういった事態を想像したことがないと言うならこんな映画はクソほどの価値もないのだろう。でももしあなたがこの言葉のどこかに共感し、そう願った経験があるのなら是非とも見て欲しい。この映画が選ぶ「観る人」とはそういう過去を持つ人だけだ。

NewImage

ということで『マッドマックス 怒りのデス・ロード』公開記念として、『マッドマックス2』と深い関連がある『ベルフラワー』のレビューでした。個人的には大好きな一作です。ちなみに本作はエヴァン・グローデルの実際の失恋を契機に作られた自主制作映画で、ミリー役のジェシー・ワイズマンはエヴァン・グローテルを振ったまさにその人なのです。そして本作に登場するインターセプター似のメデューサ号や火炎放射機も監督であるエヴァン・グローデル自作の一品。作品としては独立したものですが、やはり『マッドマックス2』とセットで見たいです。というか『マッドマックス2』の世界観やヒューマンガスの怪人ぶりを知らないと、本作の狂気がうまく伝わらないように思えます。物語の終え方に関しては色々と批判もあるでしょうが、それもまた狂気の為せる業かと思います。『マッドマックス』とセットでオススメです。

[ad#ad-pc]

コメント

*
*
* (公開されません)

Return Top