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映画ジャーナル<ビーグル・ザ・ムービー>

【映画】『ノット・クワイト・ハリウッド(原題)』レビュー

30年ぶりとなるシリーズ最新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の公開を記念して、『マッドマックス』に代表される70,80年代のオーストラリア映画の底抜けに明るい異常な舞台裏を描いたドキュメンタリー『ノット・クワイト・ハリウッド/Not Quite Hollywood: The Wild, Untold Story of Ozploitation!』のレビューです。爆発あり、スラッシュあり、オッパイあり、そんなオーストラリア映画の無軌道ぶりをタランティーノやジョージ・ミラーら多数の証言で振り返った作品。

Not quite hollywood CAROUSEL

『ノット・クワイト・ハリウッド/Not Quite Hollywood: The Wild, Untold Story of Ozploitation!』

2008年公開オーストラリア映画/2010年1月24日&31日東京MX放映『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』

監督:マーク・ハートリー

インタビューウィー:クエンティン・タランティーノ、デニス・ホッパー、ロジャー・ウォード、ジョン・ウォーターズ、ジェームズ・ワン、ジョージ・ミラーなど多数。

あらすじ

『マッドマックス』などに代表される1970年代から80年代にかけてオーストラリアで巻き起こった「オズプロイテーション」と呼ばれる映画革命<ニュー・ウェーブ>を当時の製作陣や出演者、そしてそこから多大な影響を受けたクエンティン・タランティーノなどのインタビューを基に再考するドキュメンタリー作品。

70年に導入されたレーティングを逆手にとってR指定で過激な作品が作られていく。まずはコメディとエロから始まり、そこからホラーやスプラッター、アクションと、同時代のハリウッド作品から拝借したアイデアを過激に拡大していく「オズプロイテーション」は当時のオーストラリア事情を背景に、特異に進化していく。

セックス、ホラー、アクションという三つの要素を軸に、当時の、安全基準など全く無視な映画製作の舞台裏を明らかにしていく。

レビュー

本作はドキュメンタリー映画だが、難しいことは一ミリもなく、とても楽しい作品だった。ジョー・ボブ・ブリッグスというB級映画専門の評論家は、その作品の評価を「死体の数」、「おっぱいの数」、「血しぶきの回数」などで数値化することに成功(?)しているのだが、その基準を本作に当てはめればきっと満点となる。前半はゲロとオッパイと生首と血しぶきの連続で、後半は爆発とバイクスタントと人間炎と暴力(ジミー・ウォング)の乱れ打ちである。

映画の前半部では一応、なぜオーストラリア映画が過激な方向に舵を取っていくことになったのか、その理由が当時の社会ムーブメントやレーディング問題から説明してくれているのだが、正直そんなことはどうでもいい。本作が素晴らしいのは、一応は「オズプロイテーション」の背景を説明しようとする意図は見せながらも、やっていることは「オズプロイテーション」歴代傑作の紹介だ。

映画の前半にはエロ系コメディやコメディ系エロ作品、ホラー作品などジャンル映画にかなり詳しい人物ではないと知らないような作品だが、それでいてめちゃくちゃ面白そうな映画を多数紹介してくれている。そして『マッドマックス』の絡みで言えば、後半のアクション映画紹介パートに移ってからは一気にテンションも跳ね上げる。

特に香港のアクションスターだったジミー・ウォングをオーストラリアに招聘して作られた『スカイ・ハイ』の顛末は最高に笑える。当時のスタッフたちを「あいつとはもう仕事したくない」と震え上がらせたジミー・ウォングは、演技ではなく実際に殴る蹴るを食らわしていたそうで、童顔な当時の顔つきとのギャップからかなり怖い。炎にまみれるという危険なスタント中の相手役にも容赦なく鉄拳を食らわせるジミー・ウォングは、怖いものを知らずのオーストラリア映画スタッフをも震え上がらせたという意味で最強と言える。走ってくるバイクめがけてジミー・ウォングが飛び蹴りするシーンもマジでやばい。

そして『マッドマックス』に関してはジョージ・ミラー監督をはじめとして当時の関係者たちが懐かしむように「命の危険も伴うような撮影だったよ」と嬉しそうに語りながら、特に橋の上でのクラッシュシーンでバイクのタイヤが頭に激突しそれを巡って死亡説まで出た噂を、「誰も死んではいないよ。でも大怪我はしたよな」とあっけらかんと明かしてくれている。

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本作は同窓会映画としてももちろん興味深いが、そこにタランティーノや『ワイルド・スピード7』の監督ジェームズ・ワンが加わることで、ハリウッドの真似事から出発したオズプロイテーションが、今のハリウッド映画に影響を与える側に回っていることも興味深い。『キル・ビル』や『SAW/ソー』にそれを見ることができる。

とにかくこの映画、めちゃくちゃ面白い。エドガー・ライト監督は「これまでで最高のドキュメンタリー」と絶賛した理由も頷けるほどだ。そして思うのはオズプロイテーションと同じくらいクレイジーだったはずの当時の日本映画界を誰か掘り下げてくれないだろうか。春日太一氏の書籍が面白いように、きっと本作に負けないくらいのとんでもない逸話が飛び出しそうな気がする。

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ということで『マッドマックス 怒りのデス・ロード』応援企画としまして、『マッドマックス』が作られた当時のオーストラリア映画界のハイテンションぶりを伝えたドキュメンタリー『ノット・クワイト・ハリウッド』のレビューでした。本作は2010年に『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』という番組で日本でも放送されていたそうで、ご覧になった方もいるかと思います。こんな作品を放送してくれるなんて素晴らしい番組ですね。でも日本放映時はどこまでオッパイと生首が映されたのでしょうか。

とにかく最高に面白いドキュメンタリーで、ことあるごとに登場するタランティーノがいつも以上に楽しそうで何よりです。『マッドマックス』と併せてみればより美味しくなること間違いなしです。

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