ドキュメンタリー映画『カルテル・ランド』レビュー

キャスリン・ビグロー監督が製作総指揮を務める、メキシコ麻薬戦争を題材にしたドキュメンタリー映画『カルテル・ランド』のレビューです。麻薬カルテルと戦うために結成された自警団が本来の目的から離れ徐々に暴力に加担していく姿をあぶり出す。正義の本当の姿とは?

CARTEL LAND

『カルテル・ランド/Cartel Land』

全米公開2015年7月3日/日本公開2016年5月7日/ドキュメンタリー/100分

監督:マシュー・ハイネマン


レビュー

オープニング、銃で武装し顔を隠した男たちが荒野の闇夜のなかでバケツのなかの薬品の中身を器用に移し替える。アメリカ人から教わったという方法で、やがては容器一杯の結晶が出来上がる。こうやってメキシコとアメリカの国境で作られたドラッグは車へと運ばれアリゾナへと密輸されていく。

本作『カルテル・ランド』はドキュメンタリー映画で、映されている映像は実際に起きているありのままだ。

メキシコで激化の一途をたどる麻薬戦争はすでにアメリカ国境まで達している。2015年の『ボーダーライン』に描かれるように、メキシコで作られた麻薬の消費地がアメリカである以上、その戦いは「メキシコ麻薬戦争」という表現では足りないほどにアメリカを侵食している。

本作は場所も目的も違うメキシコとアメリカの自警団の戦いを並列に扱いながら、やがては両者が負の連鎖の象徴として精神的に繋がっていく姿が克明に描かれている。描かれている、というより記録されている。

「ビジランティ/自警団」という言葉はアメリカ人にとって特別な響きを持つ。特にアメリカ西部にとっては開拓時代に政府の権限が及ばない中で、自分たちの権利や財産を自らで守ってきたという彼らの誇りの象徴であり、アイデンティティそのものでもある。一向に進まない銃規制や、2013年に起きた自警団員による黒人少年射殺事件とその後の判決など、我々日本人になかなか理解できない出来事の背景には、アメリカの歴史と深く結びついてきた「ビジランティ/自警団」の存在とその精神が挙げられる。

自警団(じけいだん、英:Vigilante)とは、権利の侵害が強く想定される場などにおいて、司法手続によらず自らの実力行使をもって自己および共同体の権利を維持確保するために結成される組織(私設軍隊・民兵)、およびそれを模した防犯組織。 引用:Wikipedia

一方でメキシコのミチョアカン州では、麻薬カルテル「テンプル騎士団」による抗争と暴力によって一般市民が殺害される事件が多発し、市民は恐怖に震えていた。そんななか医者のホセ・ミレレスは銃で武装した自警団を立ち上げる。この運動はやがって多数の市民の支持を得て、麻薬カルテルや関係者を逆に追い詰めていく。しかし法を無視した治安行動を繰り返す自警団は、同じく麻薬カルテルと戦う軍や警察とも敵対していく。

同じ頃、メキシコ国境のアリゾナでは麻薬の密輸や密入国が野放しになっている現状に憤るアメリカ人ティム・フォーリーも自警団を結成し銃で武装し国境の警備を開始していた。

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本作はメキシコ麻薬戦争を描いているが主題そのものは「メキシコ麻薬戦争の現状」にあるのではなく、暴力が生み出す負の連鎖を終わらそうとすることで権力化した集団が、いつの間にかその暴力の連鎖に加わっているという矛盾をセンセーショナルに描き出すことにある。その点で2013年アレックス・ギブニー監督作でウィキリークスの内幕を描いた『ストーリー・オブ・ウィキリークス~正義と犯罪の狭間』を彷彿とさせるし、同時に現在世界でも日本でも起きている「自警的」もしくは「カウンター的」なアレコレの暴走を思い浮かべてしまう。

負の連鎖とは円(=サークル)を想起させ、自らの尻尾を食べる蛇(ウロボロス)のようにその存在は矛盾と永遠性によって成り立っている。矛盾しているのに、その連鎖には終わりはない。そういった矛盾がまた存在の永遠性に繋がっていくというスパイラルが、実際にメキシコとアメリカ国境をウロボロスの頭と尻尾として存在していることが描かれる。

本作の大部分はメキシコのミチョアカン州での麻薬カルテルから住民を守る為に結成された自警団を描いている。一人の医者によって結成された武装集団はやがて権力化していき、法という概念を無視してまでも組織の存続の為に軍や政府とさえ対立していく。理想だけでは組織をまとめることができず、末端では構成員によって略奪や暴力が横行していくのだが、組織のリーダーの正義から開始したという自負が、自警団の暴走に拍車をかけていく。彼は自分が作った自警団が今では麻薬組織同様に一般市民の恐怖や心配の対象であるとは思い至らない。なぜなら彼の目的は暴力の連鎖を止めること。自分たちはその負の連鎖の外側にいると信じて疑っていない。

一方で別の筋として、アリゾナのアメリカ国境ではメキシコからの密入国者を取り締まる自警団もある。元ヤク中の退役軍人がリーダーを務める組織で、合衆国憲法が認める自衛のための武装を拡大解釈した彼らは軍人と変わりない格好で、密入国者を捕らえる。彼らの動機もまた、正義であり愛国であり、自らの権利や財産の保護にあった。

麻薬カルテルと戦うメキシコの自警団、そして麻薬カルテルの密輸と戦うアメリカの自警団、彼らは場所や目的は違っていても精神的に深く結びついている。

しかし映画を観ていると明らかに重点はメキシコ側に置かれており、荒野をパトロールばかりしているアメリカ側の自警団の描写は、日常的に銃撃戦に参加し一般市民は無慈悲な殺害の恐怖に怯えるメキシコ側と比べると、段違いに印象に薄い。これならメキシコでの出来事のみにフォーカスした方がすっきりすると思えるのだが、実際には前述したように両者は最初から精神的に繋がっていることが明らかになる。その意図や構成はドキュメンタリーの迫力とも相成って、どんな説法よりも説得力がある。

実は本作には二つの自警団以外にも別の筋が描かれている。それは実際に麻薬を密輸している連中だ。理想と正義に燃えて武装化する自警団を尻目に、彼らはこう断言する。

「この連鎖は終わらない。終わるはずがない」と。

敵を見失い、自らも暴力の連載に加わっていることに気がつかない当事者たちの滑稽さを描くという点では『 カルテル・ランド』は優れたドキュメンタリーと言える。一方でメキシコ側での描写において一般市民の意思がほとんど描かれないため、実態としての彼ら自警団の立場が判然としない。軍や政府と対立していたことは分かっても、自警団としての彼らは市民からどのように受け入れられていたのかがはっきりと描かれないため、作品のテーマを優先させるような編集があった可能性も否定できない。もちろん作品である以上は致し方ないことだが、あまりに上手すぎるエンディングなど、テーマのために作品の出口が作られているような違和感を感じたのも事実だった。

それでも銃撃戦の迫力やスリリングな展開はドキュメンタリーの枠を超えて力強い一作だった。

『カルテル・ランド』:

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ということで『カルテル・ランド』のレビューでした。一応断っておくと、メキシコ麻薬戦争の悲惨を伝えるようなカットが幾つかかるし、リンチシーンや拷問を想起させるような音声なども登場しますのでご注意ください。それでも迫力はすごかったです。映像もかなり作り込まれています。それでも途中からは監督の意図がはっきりと映像に映されるようになり、その点がすこし気になりました。映像は迫力満点なのだからもう少し引いた視線で描いてもよかったかなと思いました。それでもドンパチはめちゃくちゃリアルです。オススメです。以上。

Watch the trailer for the sundance award winning doc cartel land 115 1433434803

 

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カルテル・ランド
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