ジャック・ブラック主演のホラー・コメディ『グースバンプス モンスターと秘密の書』のレビューです。ホラー小説家の書いた本から現実世界に飛び出してきた魑魅魍魎たちを元の世界に戻すための戦いを描く。ジャック・ブラック熟練の顔芸に注目です。
『グースバンプス モンスターと秘密の書/Goosebumps』
全米公開2015年10月16日/日本公開2017年1月7日/ホラー・コメディ/103分
監督:ロブ・レターマン
脚本:ダーレン・レムケ
出演:ジャック・ブラック、ディラン・ミネット、オデイア・ラッシュ、エイミー・ライアンほか
作品解説
全世界でのシリーズ累計発行部数4億部を誇るR.L.スタインの同名ベストセラーホラー小説の映画化。ファンタジー小説の中で活躍していた透明人間やミイラといったモンスターたちが、本の中から飛び出し現実の世界で暴れ回るなか、小説の著者であるR.L.スタイン(ブラック)と同居する謎の少女ハンナ(ラッシュ)、隣家に引っ越してきた少年たちが再び本の世界へ閉じ込めるため、夜の街へ繰り出し戦う姿を描く。
レビュー
本作でジャック・ブラックが演じる小説家の名前はR・L・スタイン。現実世界でR・L・スタインと言えば児童向けホラー・ファンタジー小説の大家として知られ、そして本作の原作者でもある。原作者が自分の作った世界に登場する映画がこの『グースバンプス』。言葉にすると難しげにも聞こえるのだが、実際は原作同様に子供でも楽しめるホラー・ファンタジーに仕上がっていた。
父親を亡くしたばかりの高校生ザックは母親の仕事の関係で引越しすることになる。新しい家の隣には同級生となるハンナと、その偏屈な父親(ジャック・ブラック)が暮らしていた。そんなある日、ザックは隣の家からハンナの悲鳴が聞こえ家に駆け入るも、中には父親しかおらず、気のせいだと主張する。家庭内暴力の疑いを感じたザックは再びハンナの家に忍び込むが、そこで不意に開けた本から雪男が抜け出してきた。
取り乱すハンナとともに雪男に襲われるも間一髪のところでハンナの父親に助けられる。
そこでザックは驚きの真実を告げられる。実はハンナの父親が小説家のR・L・スタインで、彼の想像力が生んだモンスターたちは実際に存在し、特殊な本のなかに封印しているという。ザックが不意に家に押し入ったせいで開けられた本から空想上の生き物たちが街に溢れ出していた。
彼らは再びモンスターたちを本のなかに封印するためにモンスターとの戦いに挑むのだった。
雪男に狼男、ミイラにゾンビにしゃべるブリキのおっさんなど実際にR・L・スタインの文学世界ではお馴染みのモンスターたちが底意地悪く暴れまくる。異世界と現実世界が繋がってしまう話は児童文学ではお馴染みだし、映画としても『ジュマンジ』や『ネバー・エンディング・ストーリー』があるし、ホラー・ファンタジーということでテリー・ギリアムの『バンデットQ』を思い出したりもする。
本作の見どころとは児童文学ではお馴染みの内容ににジャック・ブラックをぶち込んだということだった。加えて『ガリバー旅行記』のロブ・レターマン監督との再タッグ作品ということでセルフパロディを盛り込んだり、R・L・スタインが「子供向けスティーヴン・キング」と言われていることをいじったりとやりたい放題。また一見偏屈だが憎めない優しさを備えたおっさんというジャック・ブラックのイメージにも忠実で、コメディ映画としても安心して見ていられる。
そして本作に出現するモンスターたちはR・L・スタインの本から飛び出したという設定のため、彼の児童書に親しんだ人にはうれしい仕掛けがたくさんある。モンスターの親玉となるブリキのおっさんこと「スラッピー」はR・L・スタインのシリーズ作ではお馴染みの悪役だ。
かくの如き、『グースバンプス』はホラーとしてもファンタジーとしても決して大人向けの作品ではない。捻くれた見方をするとはじまりと終わりが最初からある物語とも言えるほどに、ある種の予定調和のなかで進んで行くのだが、あくまで児童向け文学の映画化という出発点を忘れるべきではないのだろう。
ジャック・ブラック自身が『シャイニング』と違って自分の子供と楽しめるホラー映画、と評するように騒動はきっちりと回収され、最後もなかなか気の利いた終わり方をする。ファンタジーで始まった物語はファンタジーらしく、そしてホラーらしく締められなければならないのだ。そして原作者は手練のホラー作家ということもあり、夢オチという安易な方法にも走らなかったことは好印象だ。
ちゃんとモンスターたちが街を大暴れし、淡い恋があり、そして捻りもあり、最後はしっかりとホラー的に回収して終わる、優等生な作品だ。
『グースバンプス』:
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ということでジャック・ブラック主演『グースバンプス』のレビューでした。アメリカでもそこそこヒットし、批評でも『ガリバー旅行記』のような酷評は見当たらない、なかなか優等生な一作です。やはり物語がしっかりと安定していることで、ジャック・ブラックのギャグや顔芸も冴えています。また本作で悪役となるぶりきのスラッピーの声はジャック・ブラックが当てていたり、ラスト付近では実際のR・L・スタインがカメオ出演していたり、サービスも豊富です。日本で2016年1月公開予定と一時報じられていましたが、日程は白紙となっているようです。怖くないホラー映画をお求めの方や、子供とホラーを見たいという方、そして笑えるホラーを見たいという方にもオススメです。以上。
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