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マーク・ラファロ主演『それでも、やっぱりパパが好き!』レビュー

マーク・ラファロ主演の『それでも、やっぱりパパが好き!/Infinitely Polar Bear』のレビューです。双極性障害を患う父親と娘二人の共同生活のドタバタを通して描かれる等身大の愛情に満ちた、監督マヤ・フォーブスの実体験をもとにしたコメディ。共演はゾーイ・サルダナ。

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『それでも、やっぱりパパが好き!/Infinitely Polar Bear』

全米公開2015年6月19日/日本公開未定/コメディ/90分

監督:マヤ・フォーブス

脚本:マヤ・フォーブス、

出演:マーク・ラファロ、ゾーイ・サルダナ、イモージェン・ウォロダースキー、アシュリー・アウフデルハイデほか


レビュー

ショーン・ペンが7歳の知能しか持たない父親を演じた『アイ・アム・サム』がどれだけ感動的な物語だったとしても、作り物という印象は決して消えない。物語が作り物なのは当たり前としても、物語から押し付けられる感動が作り物であるなら、わざわざ金を払って映画を見ておきながらも有難くもない土産物をもらったようでバツが悪い。しかも子供の苦労が描かれるのなら尚のことだ。「あの可哀想な子供があれだけ頑張っているんですから、アナタ、感動しますよね、ね、ね」と、映画がPTAの副会長みたいに見えたら救いもない。子供の苦労を描く場合、作り手はそうならないように注意しなければならないし、それ以前に安易な感動作品に仕上げようとする意図はそもそも持つべきではない。

2014年の『フォックスキャッチャー』でのアカデミー賞主演男優賞に続いて、2015年も『スポットライト 世紀のスクープ』で助演男優賞にもノミネートされたマーク・ラファロ主演の『それでも、やっぱりパパが好き!/Infinitely Polar Bear』は、双極性障害を抱えた「普通」ではない父親に振り回される二人の娘の物語だ。原題を直訳すると「無限大のシロクマ」と意味不明だが、「Polar Bear/シロクマ」が双極性障害を意味する「Bi-Polar」に掛かっていることからも想像できるように、障害を感動として持ち上げるのではなくコメディとして受け入れる作品となっている。

舞台は1970年代、この頃はまだ双極性障害の社会的理解が進んでおらず、マーク・ラファロ演じるキャム・スチュワートはエキセントリックな言動が災いしてか仕事もできずに社会から浮いた存在になっている。そんなキャムにほとほと疲れ果てた妻のマギー(ゾーイ・サルダナ)は二人の娘を連れて家を出て行ってしまう。物語はここからはじまる。

それでも二人の娘に上質な教育を受けさせたいと願うマギーはニューヨークでMBAを取得するためボストンを離れることを決意。そして平日は二人の娘をキャムが預かることになる。自分ひとりでさえコントロールできないキャムはもちろん二人の娘と「普通」に生活することはできない。四六時中タバコを吸って、部屋は発明品とは名ばかりのガラクタであふれ、台所のスポンジからは変な匂いがする。子供にも容赦なく不機嫌を撒き散らしたかと思えば、一緒になってクタクタになるまで遊んだりもする。

こうして父と娘たちは「普通」ではない生活はトラブルに見舞われながらも続いていく。

3

90分という上映時間からも分かるように、本作にはとりたてて特筆すべき出来事は起きない。ソーシャル・ワーカーが親権を取り上げたりとか、離婚協議が泥沼化したりとか、親の監視不行き届きのために子供が事故に巻き込まれたりとか、そんなことは一切発生しないので安心していい。厳密に言うと、子供の苦労を拠り所にした感動ポイントは一切出てこない。それどころかこの欠陥だらけの父親に対して同情をはるかに超える子供たちの愛情が隅々まで描かれている。映画は一貫して、苦労する子供をよしよしする大人ではなく、苦悩する父親を見上げ励ます子供たちの目線から描かれている。

それもそのはず本作は監督マヤ・フォーブスの実体験をもとにした作品で、長女のアメリアとは彼女のことなのだ。そして本編で描かれるキャムがボストン有数の名家の出身というのも事実で、マヤ・フォーブスの「フォーブス」とは「フォーブス・ファミリー」の一員を意味し、従兄弟には2004年に民主党の大統領候補にまでなったジョン・ケリーがいる。また本編ではフェイスという名のマヤの妹チャイナ・フォーブスもジャズバンド「ピンク・マルティーニ」のヴォーカルだ。

それでも彼女たちが子供のころは貧乏で、大金持ちの曽祖母からは生活費の援助さえしてもらえなかったという。お金の援助はできないがベントレーならあげてもいいという曽祖母の申し出をキャムが断るプロットは本作最高のパンチラインだ。「あんな高級車もらっても維持費だけで破産する」というキャムに対して、娘二人が一斉に「売っちまえばいいでしょ!」とブチ切れるシーンはただただ面白いだけでなく、現在では共に芸術家として成功した二人の娘にとっての重要な体験でもあるのだろう。

過去の思い出をコメディとして懐古することは別に珍しいことではない。悪く言えば本作はそんな珍しくない映画のひとつである。ウディ・アレンが毎年撮ったり、どこかの映画祭でもよく紹介される類の良質な映画だ。だからこそ観て損はない一作だし、そんなありふれた映画として描かれるからこその思い出の温かみがしっかりと伝わってくる一作でもある。

そして物語は「親離れ=子離れ」という出口の扉を前にしたシーンで終わることになる。世界中のどこででも、この映画を観た人も、これから観る人も、今後も観ない人も、みんなが経験したありふれた一瞬を描いているからこそ、本作のラストは等身大に胸を打つ。

別れの悲しみをはっきりと実感した瞬間を切り取ったまま終わっていく本作には、どこをとっても血が通った本物の温もりが感じ取れた。

『それでも、やっぱりパパが好き!』:

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それでも、やっぱりパパが好き!
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