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映画ジャーナル<ビーグル・ザ・ムービー>

映画『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(原題)』レビュー

Hunt for the wilderpeople

『マイティ・ソー3』のメガホンを託されたタイカ・ワイティティ監督作品『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(原題)』のレビューです。孤児の太っちょ少年と無骨な老人がひょんなことから一緒に森のなかを逃走するコメディ。2016年最優秀バディムービー賞はこれに決定!!

『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(原題)/Hunt for the Wilderpeople』

日本公開未定/コメディ/101分

監督:タイカ・ワイティティ

脚本:タイカ・ワイティティ

出演:サム・ニール、ジュリアン・デニンソン、リス・ダービー、レイチェル・ハウス、オスカー・ナイトレー

レビュー

『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』で脚光を浴びて2017年公開予定の大作映画『マイティ・ソー』第3弾の監督にも抜擢されたタイカ・ワイティティ監督最新作となるニュージーランド映画『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(原題)』は、コメディとしても、バディムービーとしても、そしてロードムービーとしても、ほとんど完璧な作品だった。

簡単に要約すればクソガキとクソジジイの逃走劇なのだが、『ロード・オブ・ザ・リング』の大自然(とカメラワーク)を背景にして乾湿幅広いユーモアが小気味よく散りばめられていて、馬鹿笑いもできれば押し付けがましくないハートウォーミングさもあり、とにかくバランス感覚に優れている。テーマの柔軟さや観客の世代を限らないキャラクター設定、そしてテンポよく進んでいくストーリー展開などは、凡庸なコメディとの比較よりも、ピクサーアニメの傑作たちと比べられるべきだろう。

それほどまでに良質な映画だった。

親に捨てられた孤児として育ったためヤサグレているリッキーは、児童福祉課の斡旋で山奥に暮らす夫婦のもとに里子として送られる。都会生まれラップ育ちのリッキーはもちろん自然の生活になじめず、最初は夜逃げばかり繰り返していた。それでも里親おばさんのベラの愛情のおかげで徐々に生活に馴染んでいくが、里親おじさんのヘック(サム・ニール)は相変わらずぶっきらぼうのまま。

そんなある日、リッキーが愛犬トゥパックと散策中、おばさんのベラが急死してしまう。そのためリッキーはやっと慣れ始めた自然での生活から再び児童福祉施設に引き取られることになってしまう。

リッキーは刑務所同然の児童施設へ戻ることを拒否して、納屋に火を付け一人で森のなかへ夜逃げを敢行するが、あっという間にヘックに発見されて引き戻されてしまう。

しかしその途中でヘックが足を怪我してしまったため森のなかで待機していたところ、リッキーを迎えにきた児童福祉相談員が焼け落ちた納屋を発見。そして妻が死んで頭のおかしくなったヘックがリッキーを誘拐したと勘違いしてしまう。

こうして太っちょでクソ生意気な少年リッキーと無骨で孤独な老人ヘックの不思議な逃避行がはじまる。

Hunt for the wilderpeople

ニュージーランド版おくのほそ道

物語の主人公リッキーは太っちょで、孤児で、ダンスが得意で、ラップが好きで、基本はヘタレで、でも時には勇敢にもなり、そして時々調子に乗って勇敢にもなりすぎる、とにかくに憎めない少年。

一方でサム・ニール演じる老人ヘックは、寡黙で、無骨で、文字が読めない、偏屈な老人。これまでは妻の愛情のおかげで生活できていたが、彼女の死後はどう暮らしていけばいいのかわからなくなってしまう。

この二人が児童福祉職員の壮大な勘違いと強引さによって、帰る場所を失ってしまい仕方なく大自然を舞台とした逃走劇を開始するのだがリッキーはデブだし、ヘックも足を怪我しているため疾走感のある逃亡劇とはいかない。しかし趣は十分だった。

実はヘックは愛犬にトゥパックと名付けるほどのラップ好きが高じたのか俳句(haiku)を詠むのが趣味だった。児童福祉施設に戻りたくないためにはじまった彼の逃走劇とは、その途中途中で「くそったれ、苦痛もろとも、死んじまえ(Kingi you wanker / You arsehole, I hate you heaps / Please die soon, in pain.)」とか「 大自然、ヘックよ逃げるぞ、永遠に(Trees. Birds. Rivers. Sky. / Running with my Uncle Hec / Living forever)」(これらは意訳です)と、なかなかひねりの効いた一句を披露しながら森へと分け入る、おくのほそ道だった。

そしてその一句ひとつひとつに文字が読めないことがコンプレックスのヘックはイライラしつつ、旅の日々を共に過ごし、季節が少しずつすぎ変わっていくことで、二人の関係にも変化が訪れる。

反発からの和解というのはバディ映画の定型ともいえるが、本作ではその過程を決して大事にはせず逃亡生活のなかの二人の成長を、小さなエピソードの積み重ねを通して、お互いが自然と歩み寄っていくように描いている。

本作のテーマはもちろん成長だ。主人公少年の成長、そしてその相棒である老人の成長。

それは例えば森のなかの一本の木が日に日に伸びていくこととよく似ている。木にとって大きくなることが成長なのだが、そのことで森の一部としての役割が増え、そしてもっと広い世界を見渡す事ができるようになる。成長するということはただ強くなるとか、ただ大きくなるということ以上に、世界の広がりとその役割を実感することが可能になることを指す。

孤児として育ち居場所を持たない少年と、最愛の妻に先立たれ生きる居場所をなくして老人。この重要な何かが足りない二人が、目的は違えと同じ冒険を共有することで、自然と自分にできることと相手にできないことを重ね合わせるようになる。そして少年と老人は馬鹿げた逃亡劇の果てに、お互いがこれまで存在さえ知らなかった新しい世界を発見する。

まるでピクサーの『カールじいさんの空飛ぶ家』実写版を見るようだった。

冒険を通して成長する少年の物語という軸を中心に、爆笑もののユーモアや鋭い社会風刺、それにアップテンポなストーリー展開からの思わぬ伏線回収と、どの側面から見ても楽しめる本作。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』からマーベルの大作ヒーローを任されたタイカ・ワイティティ監督は只者ではなかった。やはりマーベルの眼識に間違いはない。

主人公リッキーを演じるジュリアン・デニンソン君も文句なしに最高だし、相棒の石頭を演じたサム・ニールが垣間見せる優しさと最後の一句にはグッとくること間違いなし。しかも『ロード・オブ・ザ・リング』ネタや『マッドマックス』風カーチェースまで付いてくるので、最後には幸せの満腹気分を味わうことができるだろう。

ということでまことに勝手ながら本作『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(原題)』に2016年最優秀バディムービー賞を贈りたいと思う。

『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル(原題)』:

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Hunt for the wilderpeople ver3

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