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映画『メン・イン・キャット』レビュー

2000

ケビン・スペイシー扮する大企業の社長がネコになってしまう『メン・イン・キャット』のレビューです。『君の名は。』に通じる「入れ替わり」要素と、猫の可愛らしさが合わさった、猫好きのためのコメディ。共演は『エレクトラ』のジェニファー・ガーナー。

『メン・イン・キャット/Nine Lives』

全米公開2016年8月5日/日本公開2016年11月25日/コメディ/87分

監督:バリー・ソネンフェルド

出演:ケヴィン・スペイシー、ジェニファー・ガーナー、ロビー・アメル、マリナ・ウェイスマン、クロストファー・ウォーケン

レビュー

『メン・イン・ブラック』シリーズのバリー・ソネンフェルド監督作ということで『メン・イン・キャット』という邦題が付けられたものの、オリジナルタイトルは『Nine Lives』で、 高い所から落ちてもなかなか死なない猫のしぶとさを表す「a cat has nine lives(猫は9回生まれ変わる)」という諺から付けられている。その諺に忠実に、本作は高い所から落ちたケヴィン・スペイシーの意識が、突然、猫に移ってしまい中身はケヴィン・スペイシーだが外見は猫になってしまうという内容のファミリー向けコメディ。

特別映像を見れば本作の大体の雰囲気は想像できる。日本で『君の名は。』が大ヒットを記録すれば「入れ替わり」という要素にしがみ付いてパロディを打ち出すという柔軟な姿勢からもわかるように、「子供向け」と呼ぶに相応しい作品だった。でも「子供向け」だからと言って「くだらない」という訳ではない。全米では散々な評価を受けて、大人な批評家からはクソミソに罵られる結果になったのだが、ジャンル映画に対する独特の楽しみ方を身につけてさえいれば、本作はなかなか素晴らしい作品にもなる。

ケヴィン・スペイシーが演じるのは全米で一番高いビルを所有する大企業の社長。危険なスポーツを愛好するアドレナリン過多の社長で、傲慢であり自信家でもある。会社のセレモニーにはわざわざスカイダイビングで登場するというアントニオ猪木みたいな男なのだが、そのせいで日々を秒単位で生きておりなかなか家族と一緒に過ごす時間もない。

それでも家族からは愛されている。前妻との間にもうけた長男は同じ会社で働いており、父を尊敬している。そして二番目の妻(ジェニファー・ガーナー)との間に生まれた娘も父を深く愛している。

そしてその娘の誕生日にプレゼントして猫を買いにいった帰り、会社の屋上で落雷にあい、野心の塊の部下に見捨てられる形でケヴィン・スペイシーは全米一高いビルから落ちてしまう。幸いにも途中で窓を突き破り、地面に落下することはなかったが意識不明の重体。そして目を覚ますと、いつの間にか、自分の意識は娘のために買った猫に移ってしまっていた。

自分が猫になってしまっている間に野心深い部下によって会社は乗っ取られ、息子は追い出されようとしている。こうして猫になったケヴィン・スペイシーはあの手この手で奮闘するのだった。

Ninelives

まあ、この映画をボロクソに言いたくなる気持ちもわからなくはない。とにかく笑ってしまうほどにヒドい描写がいくつもある。

例えば会社の乗っ取りを企む悪役が裏取引の証拠をシュレッダーにかけて隠滅しようとするのだが、その目がとにかく荒い。A4の紙をシュレッダーにかけても、10切れほどにしか分断されていないためにあっという間に修復されてしまうのだ。大企業のシュレッダーにしては安物過ぎる。お前ら『アルゴ』を観てないのか? シュレッダーされた書物を修復するためには気が狂うほどの根性が必要なんだぞ!

といった感じのツッコミがいくつも続くのだが、これがなかなか快感なのだ。見る人が見れば「子供だまし」のご都合主義と感じるのかもしれないが、本作の監督バリー・ソネンフェルドは『アダムス・ファミリー』や『メン・イン・ブラック』の監督であると同時に『ワイルド・ワイド・ウェスト』でもメガホンを取っており、細部のガバガバぶりには一家言ある男なのだ。そういった前提で見れば荒い設定はさほど問題ではない。

それより猫の話をしよう。

本作の魅力はなんといっても猫である。映画の冒頭では「猫の島」としても有名な宮城県の田代島が紹介されたりもする。しかもこれだけ細部がガバガバな作品でありながら、田代島の紹介時に登場する日本語テロップは、『パシフィック・リム』の「萌&健太ビデオ」みたいな適当な日本語ではなく、日本人から見ても完璧なのだ。このアンバランスぶりは結構ハマる。ネコの話になるとマジになる製作陣の偏屈ぶりは素晴らしい。

そう、猫なのだ。大切なのはネコなんだ。

人は生きるために働くのに、いつのかにか働くために生きることを強いられるようになった社会のなかでネコの自由気ままな生き方には心底羨ましく思うのだが、そういった社会が抱える病の反動としてのネコ愛の高まりを本作はしっかりと切り取っている。簡単に言えば、人間よりもネコのほうがずっと人間らしい生き方をしており、我々はもっとネコから多くのことを学ぶべきなのだ。

そうだ、もっとダラけよう。そういうことなのだ。

こういったテーマに立脚するかぎり「子供だまし」や「ご都合主義」という批判はあまり適切ではない。実際に合理的な大人を自認する連中が作った社会のルールを弄ぶ映画なのだから、大人びた批判は意味がない。

そんなことよりも早すぎた女性ヒーロー映画『エレクトラ』でボロカスに言われたジェニファー・ガーナーが、スローモーションでネコと追いかけっこするアクションシーンなどはかなりグッときた。筆者も「マーベル映画初の女性ヒーロー主役映画は『キャプテン・マーベル』」などと間違った紹介をすることがあるほどに、誰も覚えていない『エレクトラ』を思い出させてくれただけでも本作を観てよかった。あれは主演したジェニファー・ガーナーが「ひどい映画」と泣き言を漏らすほどにダメな映画だったが、それと比べれば本作はとても素晴らしい。

とにかく猫は可愛いし、ケヴィン・スペイシーの娘役も可愛いし、猫と話ができるというクリストファー・ウォーケンも可愛いし、本作は何も悪くないという結論に至った。『エレクトラ』と比べれば、とても楽しい映画だ。最後に本筋からは大きく離れるが、『エレクトラ』という映画は本当にどうかしていて、ジェニファー・ガーナーみたいな肩幅の広い女性が忍者技を駆使するのも変だし、最強の特殊能力が「キマグレ」と呼ばれているとか、もうちょっと勉強しろよと言いたくなった。

そうだ、悪いのは『エレクトラ』なのだ。

『メン・イン・キャット』:

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メン・イン・キャット
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