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映画レビュー|『オデッセイ』リドリー・スコット監督作

リドリー・スコット監督最新作、マット・デイモン主演の『オデッセイ』のレビューです。火星にひとり取り残された宇宙飛行士が、人類が築き上げた科学とユーモアの力を持って絶望的状況と立ち向かう火星サバイバル映画。

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『オデッセイ/The Martian』

全米公開2015年10月2日/日本公開2016年2月5日/SF映画/141分

監督:リドリー・スコット

脚本:ドリュー・ゴダード

原作:アンディ・ウィアー著『火星の人』

出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、クリステン・ウィグ、ジェフ・ダニエルズ、マイケル・ペーニャほか

作品解説

火星にひとり取り残された宇宙飛行士のサバイバルを緻密な科学描写とともに描いた、アンディ・ウィアーのベストセラー小説「火星の人」を映画化。極限状態の中でも人間性を失わず、地球帰還への希望をもって生き続ける主人公マーク・ワトニーをマット・デイモンが演じ、「エイリアン」「ブレードランナー」などSF映画の傑作を残してきた巨匠リドリー・スコットがメガホンをとった。火星での有人探査の最中、嵐に巻き込まれてしまったワトニー。仲間たちは緊急事態を脱するため、死亡したと推測されるワトニーを置いて探査船を発進させ、火星を去ってしまう。しかし、奇跡的に死を免れていたワトニーは、酸素は少なく、水も通信手段もなく、食料は31日分という絶望的環境で、4年後に次の探査船が火星にやってくるまで生き延びようと、あらゆる手段を尽くしていく。

引用:eiga.com/movie/82409/

レビュー|人間的であるという救いの物語

リドリー・スコットは好不調の激しい監督と言える。1977年の『デュエリスト/決闘者』でのデビューから息つく暇もなく『エイリアン』、『ブレードランナー』という映画史に残る傑作を続けて世に送り出したかと思うと、その次には『レジェンド/光と闇の伝説』というそれから30年後の『エクソダス:神と王』を彷彿とさせるような凡庸な作品を作ったりする。『テルマ&ルイーズ』から『グラディエーター』までの10年間もパッとしない。そんな彼のフィルモグラフィーにあってこの10年ほどは『ロビン・フッド』と『エクソダス:神と王』という明らかな失敗作を作り、『プロメテウス』と『悪の法則』では賛否が真っ二つに分かれる事態となり、評価の出入りがこれまでになく激しくなっていた。

そんななかリドリー・スコットの評価を一気に『グラディエーター』の頃に引き戻すことになったのがこの『オデッセイ』だろう。世界中で大ヒットを記録し、賞レースでも久々の存在感を見せている。

本作は火星に取り残されたひとりの宇宙飛行士のサバイバルを描いている。宇宙空間での絶望的な状況を描いた作品では『ゼロ・グラヴィティ』や『アポロ13号』などが思い起こされるし、周囲との連絡が途絶えてしまい誰もが生存を信じていない状況のなかで必死に生きようとする姿はトム・ハンクス主演の『キャスト・アウェイ』や、少し趣は違えどジェームズ・フランコ主演の『127時間』を彷彿とさせる。

一方で同じく宇宙にひとりぼっち系映画でも、1970年代の終末観のなかで描かれた『サイレント・ランニング』やタルコフスキー監督作の『惑星ソラリス』とは作品のトーンが全く違っている。本作は宇宙という特殊空間を、地上と断絶した場所として描くのではなく、絶望的な状況で生き抜くために必要な知性とユーモアを最大限生かせる場所として設定している。そのため火星は人間にとっての終末の比喩として描かれることはなく、あくまで人間が克服すべき通過点として描いている。

状況はことごとく絶望的ながら、どこにでも必ず可能性は存在すること。この設定のみにおいて1964年の元祖火星サバイバル映画『火星着陸第1号』と似ているのだが、本作には宇宙人は登場しないし、都合よく酸素を生み出す石が発見されたりもしない。あくまでリアルに火星でのサバイバル風景を再現している。

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本作は火星にサバイバルを強いられる一人の宇宙飛行士の苦闘を描いてはいるが、他にも火星探査という国家プロジェクトの困難さ、そして火星に取り残された一人の宇宙飛行士を救出しようとする集団の努力も同時に描いており、火星での個人、それを救出しようとする集団、それらを含んだ国家、という三層構造で物語が構成されている。そしてこの三つの層のなかで最も密接に物語を動かすのが、個人と集団の関係性と言える。

本作では国家(≒NASA)は足手まといですらある。大きなプロジェクトのため決断力に乏しく、過去に前例のない火星でのサバイバルを前に有効な手立てが打てない。それを尻目に官僚機構に属していない集団は、柔軟に現状に対応して型にとらわれない解決策を提出していく。困難を脱するのに必要なのは時間でも気合いでもまぐれでもなく、人類の英知に裏付けされた科学であり知恵であるということを本作は訴えかける。

そして火星に取り残されたマット・デイモン演じる宇宙飛行士と、地上や宇宙空間から彼を救い出そうと努力する集団を結びつけるのが、とてもシンプルなユーモアであることが本作の肝なのだろう。主演のマット・デイモンもそうだが、クリステン・ウィグ、マイケル・ペーニャ、ジェフ・ダニエルズ、ドナルド・グローヴァーなど笑いを得意とするメンツを集めたおかげで、絶望的な状況を描きつつも根拠のない明るさのようなものが映像には散りばめられていた。特に物語上は損な役回りとなるNASA長官を演じたジェフ・ダニエルズなのだが、どれだけ冷たい役柄を演じてもそれは彼の人間性ではなく役職が生む責任なのだとしか思えず、作品全体のポジティブなトーンを体現するキャスティングは本作の成功の一因だと言える。特にマット・デイモンとマイケル・ペーニャのやり取りは、直接的にふたりの関係性が描かれずとも、そこに強い信頼感があることが伝わってくる。

宇宙に取り残される映画となると、内向的で哲学的な作品になりがちなのだが、本作は自己犠牲を強調するメロドラマとも違い、一貫してエンターテイメントな作品となっている。とにかくみんなで最良の出口を探す、という映画全体の姿勢のおかげで物語の終盤に登場する救世主の唐突さもさほど目立たない。

唯一難癖をつけるとするのなら、火星でのサバイバルの葛藤が淡白すぎるという点。食料もない、水もない、助けもないという状況説明が簡単すぎる。一応ラストシーンで本編では十分に描かれてない彼の絶望感や葛藤の存在は示唆されるのだが、地球上でのドタバタは少し削ってでもマット・デイモンの苦しみや絶望をもう少し丁寧に描いてもらいたかった。

それでも結論としてはやはり、リドリー・スコットはすごかったということに尽きる。これほど魅力的な素材を、あえて難しくせずにシンプルかつユーモラスに描くというのはほとんど職人技とも言える。もちろん本来は監督の予定で脚本を執筆したドリュー・ゴダードの役割も大きかっただろうが、感動のポイントを誰もが持っている普通の人間性に求めるあたり、これまでSFやら歴史大作で特別な人間を数多く撮ってきた彼だからこそ凄みが増すことにもなる。

そして見終わった後これほどまでにポテトが食べたくなる映画も珍しいのだ。

『オデッセイ』:

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ということでリドリー・スコット監督作、マット・デイモン主演の『オデッセイ』のレビューでした。それにしても『オデッセイ』という邦題は何なんですか。ギリシア神話から取るのはいいけど、オデュッセウスはどちらかといえば悪知恵が働くイメージなんですけど僕だけなのかな。もうこういう場合は原作翻訳の『火星の人』とするか、原題そのままにしてほしいです。後々になって思い出す時に混乱しますよ。でも文句はそれくらいで、これは本当に面白かったです。観ているだけで前向きにもなれ、科学通になった気にもなれる、一作で2つも3つも美味しい作品です。マット・デイモンの一人芝居もいいですし、出演者みんなが素晴らしい。余計な感動系を盛り込まなかったことも好印象。リドリー・スコットファンとしては嬉しい限りです。おすすめです。以上。

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オデッセイ
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