とてもストレートな同性恋愛映画、、、。ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラ共演の『キャロル』のレビューです。同性愛を公言するトッド・ヘインズ監督が描く1950年代を舞台にした女性同士の美しい恋模様。ローニー・マーラは本作でカンヌ映画祭で女優賞を受賞。
『キャロル/Carol』
全米公開2015年11月20日/日本公開2016年2月11日/ドラマ/118分
監督:トッド・ヘインズ
脚本:フィリス・ナジー
原作:パトリシア・ハイスミス『ザ・プライス・オブ・ソルト』
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、ジェイク・レイシーほか
作品解説
52年、冬。ジャーナリストを夢見てマンハッタンにやって来たテレーズは、クリスマスシーズンのデパートで玩具販売員のアルバイトをしていた。彼女にはリチャードという恋人がいたが、なかなか結婚に踏み切れずにいる。ある日テレーズは、デパートに娘へのプレゼントを探しに来たエレガントでミステリアスな女性キャロルにひと目で心を奪われてしまう。それ以来、2人は会うようになり、テレーズはキャロルが夫と離婚訴訟中であることを知る。生まれて初めて本当の恋をしていると実感するテレーズは、キャロルから車での小旅行に誘われ、ともに旅立つが……。
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レビュー:とてもストレートな同性恋愛映画
先日亡くなったデヴィッド・ボウイのセクシャリティをモチーフにした『ベルベッド ・ゴールドマイン』を監督したトッド ・ヘインズ最新作『キャロル』は1950年代という保守的な時代にあって許されざる同性の恋愛を耽美主義的に描いた作品になっていた。
物語の舞台は1950年代のニューヨーク。ルーニー・マーラ演じるテレーズは、デパートで働く写真家の卵。ある日、テレーズがデパートで働いているとそこに現れたひとりの女性に目を奪われる。ケイト・ブランシェット演じるその女性はキャロルと言い、結婚し家庭を持つ美しい中年女性で、一人娘のためのクリスマス・プレゼントを探していた。
リチャードという恋人がいながらも本当に彼を愛しているのか自信のないテレーズと、夫とは離婚調停中だったキャロルは、デパートに忘れものをしたことをきっかけに距離を縮めていく。
女性であり男性であり同性を愛することが精神的な問題と同一視されていた時代に、お互いを心から愛し合ったテレーズとキャロルだったが、それを快く思わない存在のせいで、二人の関係は引き裂かれていく。
ウディ・アレン監督作『ブルー・ジャスミン』で演じた無知な金持ちマダムとは違う、進歩的な金持ちマダムを演じたケイト・ブランシェットの性別を無視するような存在感はスゴかった。物語のはじまりには50年代のニューヨークに降り立ったエルフの女王様みたいな高潔な匂いを振りまきながらも、途中からは飛び抜けて美しい女性にもなり、激しい個性をもった女性にもなり、そして後半には脆い男性的な雰囲気まで醸し出してしまう。もちろんそれは物語の展開に応じてのことなのだが、たった2時間ほどのひとつの物語の中でこんなにもカメレオンみたいに顔色を変えられるのはやはりスゴイとしか言いようがない。相手役となるルーニー・マーラが一貫して女性的であることからも、その変貌ぶりは際立つ。
そしてトッド・ヘインズ監督作の『エデンより彼方に』同様に50年代のニューヨークの風景が緻密に再現されており、わざわざ当時の質感を出すために16mmフィルムで撮影されただけあって、赤やピンクなどの色合いがヴィヴィッドにならず落ち着いた印象を与える不思議な色調になっていた。
物語としては同性愛をテーマにした作品であるのは違いないのだが、その手の映画に散見されるテーマ優先の内容ではなく、恋愛を軸にしてふたりの登場人物それぞれの視点から違った捉え方ができるようになっている。
時代の被害者であり現代にも続く同性愛への偏見という外聞のなかでも自分らしく生きようとするキャロルの苦悩、そしてまだ若く自分の恋愛や将来に対しても無邪気でいるテレーズの自我の芽生えと自立の過程、そのふたつが大まかな本作の視座となっている。つまり「同性愛」を描いていることは重要なパートとなっているが、それが目的でもなく、性別を取り払えば『ロミオとジュリエット』のようなシンプルな恋愛物語とも言える。
というのも本作の原作となっている古典的なレズビアン小説『ザ・プライス・オブ・ソルト』は長く作者不明とされていたのだが、今から15年ほどまえに『太陽がいっぱい』の原作者でもあるパトリシア・ハイスミスが自分の作品であることを公表しており、しかも内容は彼女自身の実体験を基にしているからだ。物語のための話ではなく、実際に原作者が50年代に体験した許されなかった恋愛を描いており、原作者のパトリシア・ハイスミスが物語でのテレーズであり、キャロルに相当する女性と実際に恋に落ちていたのだ。
そういった背景を踏まえると、月並みだが、 性に対しての偏見や差別といったネガティヴな反応がもたらす生き辛さとは、現代もまだ50年代アメリカの延長線上にあるということなのだろうか。そしてその生き辛さとは、大多数の「普通」を自覚する人々には見えない、もしくは見ようとしない場所に隠れているとするのなら、この作品の魅力をどこまで自分が実感できたのかあまり自信もない。
『キャロル』:
ということで『キャロル』のレビューでした。本作はアカデミー賞へのノミネート間違いなしと思われていたのですが、作品賞にも監督賞にもノミネートされませんでした。一方で同じ50年代のニューヨークの下町を舞台にしたストレートな移民少女の成長物語『ブルックリン』は作品賞にノミネートされました。どちらも素晴らしい作品でしたが、ちょっと首をかしげますね。それほどケイト・ブランシェットの人外なる魅力がほとばしっています。性別に関係なくオススメです。以上。
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