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映画『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』レビュー

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アカデミー賞俳優マシュー・マコノヒーが南部ミシシッピ州でリンカーンよりも早く白人と黒人の平等を訴えて「ジョーンズ自由州」を設立した実在の男性ニュートン・ナイトを演じる歴史ドラマ『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』のレビューです。監督は『シービスケット』『ハンガー・ゲーム』のゲイリー・ロス。

『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』

全米公開2016年6月24日/日本公開2017年2月4日/ドラマ/140分

監督:ゲイリー・ロス

脚本:ゲイリー・ロス

出演:マシュー・マコノヒー、ググ・バサ=ロー、マハーシャラ・アリ、ケリー・ラッセル

レビュー

1948年、ミシシッピ州最高裁判所は異人種間結婚の罪でデイヴィス・ナイトを有罪とした。白人女性と結婚しようとしたためだ。彼は見た目はどこにでもいる白人だった。しかし裁判を通して、彼の曽々祖父ニュートン・ナイトは黒人女性と結婚し子供をもうけていたことが判明したため、デイヴィス・ナイトには1/8の黒人の血が混ざっていることが証明され、5年の刑が言い渡される。

本当に馬鹿げた話だが、アメリカでは最高裁判決で憲法違反と判断される1967年まで、白人が黒人と結婚することを禁止する異人種間結婚禁止法が、南部の多くの州で存在していた。この1967年の最高裁判決を巡るドラマに関してはジェフ・ニコルズ監督最新作『ラビング 愛という名前のふたり』で描かれるが、1950年代までには全米の約半分の州が異人種間結婚を禁止しており、本作の舞台となるミシシッピ州の一部では黒人だけでなくアジア人もまた結婚禁止対象となっていた。

現在では当然のことだが異人種間の結婚を制限する法律は存在しない。それでもその偏見がなくなったわけでもない。記憶に新しい事件として2009年には南部ルイジアナ州の判事が白人と黒人の結婚に嫌悪感を表明しその証明証の発行を拒否し、全米を巻き込んだ騒動にまで発展した。

リンカーンが奴隷解放を宣言しても、ジム・クロウ法が撤廃されても、人種差別は残り続けている。どれだけ法律で規制しようとしてもアメリカの深層には人種差別が刷り込まれてしまっているのだろうか。

そんな諦めにも似た達観に対して『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』は歴史を通して反論する。リンカーンが奴隷解放する前に、しかも南部ミシシッピで人種の壁を乗り越えようとした男が実際に存在したのだ。

正義に裏切られて目覚める本当の正義

南北戦争の時代にミシシッピ州ジョーンズ群で、脱走兵や農民、そして黒人らで団結し南部連合から独立を宣言し「自由州ジョーンズ」を設立したニュートン・ナイトが本作の主人公。演じるのは南部の男が似合うマシュー・マコノヒー。

「金持ちのために貧乏人が死ぬ」戦争だった南北戦争に従軍していたニュートンは、まだ少年だった甥まで戦場に送られたことに愕然とする。そして甥を守りながら戦場を生き抜こうとするも流れ弾に当たり、その若い命は終わってしまう。この戦場に正義がないことに絶望したニュートンは命令に背き、甥の遺体を姉の元に送り届ける。正しいことをしたつもりが、結果的に彼は脱走兵として南部連合から追われる立場となってしまう。

脱走兵として戦場から離れることで南部連合の暴政を目の当たりにしたニュートンは、その逃走中に農場から逃げていた黒人奴隷たちと一緒に身を隠すようになる。そして他の脱走兵や政府に反感を持つ農民たちと連携しながら、ミシシッピ州ジョーンズ群のアメリカ連合国からの脱退と、基本的人権を遵守する「ジョーンズ自由州」の設立を宣言する。

そしてニュートンは黒人女性レイチェルと恋の落ち、黒人たちからの信頼も勝ち取ることに成功するも、南部連合の軍隊だけでなく、KKKもまた彼らの自由に対して攻撃を続けていた。

優秀な教科書だが、、、

本作の構成はかなり奇妙だった。

映画の冒頭では南北戦争のど真ん中を、かなり過激な描写で描きこんでいる。誇りをかけて戦うことを強要された戦争の現実というのが、どれだけ人間の誇りを踏みにじる醜悪なものなのかを余すことなく描く。画面のほとんどが血で染まるシーンはかなり強烈な先制パンチとしてビジュアルに訴えかける。

しかしそこから作品のトーンは「ドラマ映画」に修正される。中盤にはニュートン・ナイトに率いられた自由州の兵士たちが南部連合と戦うシーンや、後半にはKKKの黒人狩りも描かれるのだが、冒頭の過激さは息を潜めることになる。

そして本筋はリンカーンの奴隷解放宣言に呼応するかのように南部ミシシッピで自由州の旗を掲げたニュートン・ナイトの物語なのだが、その歴史を別の視点からひもとくという設定で、ニュートンの曾々孫であるデイヴィス・ナイトの異人種間結婚を巡る裁判の模様も描かれる。また劇中には本作が「歴史ドラマ」であることを強調するように記録写真も多く挿入される。

こういった構成はお世辞にも全然うまくない。本筋以外のプロットは邪魔でしかなかった。同時進行で1862年の本筋と1948年の裁判が並走することになるのだが、9.5対0.5くらいに偏っていてバランスが悪い。「こういった歴史的事実があります」ということを伝えたかったのだろうが、ニュートン・ナイトの曾々孫が異人種間結婚禁止法で有罪になったという部分は、最後か、もしくは最初にまとめて置くべきだった。

戦場描写の熱量の違いや視点の移動など、物語がひとつにまとまっていない印象だ。

本作には多くの「正しさ」が登場する。それはマシュー・マコノヒー演じるニュートン・ナイトが体現するだけではなく、サブキャラクターたちも彼に感化される形で様々な「正しさ」を実践していく。一方でその「正しさ」を受け入れようとせずに、弾圧する人々も存在する。この争いこそが物語を動かす要素なのだが、両者の描き方があまりにも教科書的に一辺倒だった。

特に黒人を巡るプロットが弱い。彼らが悪いわけではないのに、様々な暴力や差別に遭遇するという不条理。本作に登場する黒人たちはその不条理に対抗する術をニュートン・ナイトから与えられる。それは文字の読み書きであり、信頼である。しかしその結果として「二本の足と二本の腕があるものすべてが人間であり同じだ」というニュートンの宣言が彼らをどう変えたのかが描かれない。ただ不条理に飲み込まれるだけの存在だった。彼らの不条理な現実はニュートンを「正しさ」に目覚めさしただけだった。

こういった物語の視点は、人種差別が憲法で守られていた当時の黒人たちを描く昨今の映画を通過していればなおのこと、教科書としては上出来でも映画としては陳腐という印象を持たせてしまうことになった。

『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』:

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ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男
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