『50/50 フィフティ・フィフティ』のジョセフ・ゴードン=レビットとセス・ローゲンが再共演したクリスマス・コメディ作品。魔法のマリファナを通して、過去、現在、未来と向き合う親友3人最後のクリスマス・イブの大騒動を描く「ガンバレ、キヨハラくん」な作品。
『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー/The Night Before』
全米公開2015年11月20日/日本公開2016年2月27日/コメディ/101分
監督:ジョナサン・レヴィン
脚本:エヴァン・ゴールドバーグ、カイル・ハンター、アリエル・シェイファー、ジョナサン・レヴィン
出演:ジョセフ・ゴードン・レヴィット、セス・ローゲン、アンソニー・マッキー、リジー・キャプラン、マイケル・シャノン、ほか
レビュー
元プロ野球選手が覚せい剤所持で逮捕された記憶も新しい2月27日に公開される『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』はセス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグの作品ということもあり、劇中のほとんどで登場人物の誰かがドラッグを嗜んでいながらも、中身は誰かを労わることの重要さを描いた、まさに「ガンバレ、キヨハラくん」な作品だった。
舞台はクリスマス・イブ。イーサン(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)とアイザック(セス・ローゲン)とクリス(アンソニー・マッキー)は2001年のクリスマス直前にイーサンの両親が死んでしまってから、男水入らずの3人でクリスマス・イブ過ごすことを習慣としている。しかしもう彼らは子供ではなかった。アイザックは結婚し、子供が生まれようとしていた。そしてクリスはアメフト選手として成功し、時間を見つけるのが難しくなっていた。イーサンはミュージシャンを目指しながらもパッとしない生活を営むも、3人は今年のクリスマス・イブを最後にその習慣を終わらそうと決めていた。
そして男3人で過ごす最後のクリスマス・イブ。アイザックは身重の妻から最後のパーティを楽しむためにと最高級のコカインと魔法のキノコをプレゼント(!)され、イーサンはバイト先で盗んできたシークレット・パーティのチケット3枚を手に、クリスが用意したレッドブル社特製のリムジンで3人はその秘密のパーティ会場に向かう。
しかし肝心のマリファナがない。マリファナ調達係のアイザックはたった一本のジョイント(大麻タバコ)しか持っていなかった。これじゃ、せっかくのクリスマス・イブが台無しだ。ということで高校時代に知り合いだった売人に連絡してマリファナを調達することにする。久しぶりに再会した売人のミスター・グリーン(マイケル・シャノン)は完全にキマっていて、マリファナを渡すときに不思議なセリフをつぶやく。曰く、このハッパを吸えば、それぞれの現在、過去、未来が見えてしまうというのだった。
なんとかマリファナを手にした3人だが、アイザックは妻から貰った魔法のキノコとコカインのせいで錯乱状態になり自分の携帯電話を無くし、クリスはクリスでせっかく手に入れたマリファナを盗まれる始末。さっさとパーティ会場に行きたいイーサンを尻目に、3人はバラバラになってしまう。
それでも魔法のマリファナを通して、幸せそうに見えたアイザックが抱く未来への不安、そしてスターになったクリスが隠す現在の秘密、そしてイーサンの悲しい過去の本当の意味が徐々に見えてくるのだった。そして3人はそれぞれの想いを胸にパーティ会場に乗り込むのだった。
ものすごくバカな映画だった。
序盤でいきなりセス・ローゲンはマジック・マッシュルームをバッドにキメてしまいユダヤ教のクリスマス礼拝で「俺たちはキリストを殺してないよな」とギリギリの捨て台詞を残すし、実名役でカメオ出演するジェームズ・フランコは自分のチンコを自撮りして携帯に送ってくるし、そもそも旦那が遊びに出かける時に「クリスマス・プレゼントよ」って世界最高級の魔法のキノコとコカインを手渡して見送ってくれる嫁さんってなんだよ、最高じゃないか。大した意味もなく繰り返すが、最高じゃないか。
それでもディケンズの『クリスマス・キャロル』を大胆に解釈した作品として、思わずほろりとさせられてしまったことも事実なのだ。
本作はコメディであり、いわゆるブロマンス(男同士の友情ロマンス)でもあり、古典的なクリスマス・ストーリーでもある。同時に『クリスマス・キャロル』、『素晴らしき哉、人生!』、『俺たちは天使じゃない』、『くるみ割り人形』といった古典的なクリスマス映画を展開を引用し、細部では『ホーム・アローン』や『バッドサンタ』なんかへのオマージュも欠かしていない、とにかく大忙しの作品で好き嫌いはかなり分かれるだろうし、世の中が「ドラッグするか、人間やめるか」という無茶苦茶な二者択一(その中間がいいんですけど、、)を迫るなかで公開される映画としてはかなり肩身が狭い想いをすることになるだろう。
それでもマリファナやコカインやポコチンを除けば非常に前向きな映画でもある。物語の中心を貫くテーマは「誰にだって不安はあるけどクリスマスにはそれも全部持ち寄って優しい気持ちになろう」というストレートなもので、エス・ローゲンとジョセフ・ゴードン・レヴィットの共演作『50/50 フィフティ・フィフティ』のクリスマス・バージョンだと言える。誰にだって人生に躓くことや将来の不安に押しつぶされそうになったり、過去をいつまでも引きずってしまうことはあるけど、クリスマスくらい一緒に過ごそう。そうすれば案外うまく行くのかも、という根拠のない前向きさが本作の最大の魅力だ。
細部は相変わらず悪ふざけに満たされた映画となっているが、「クリスマスとは誰も一人ではないことを確認する特別な1日」という伝統的なクリスマス観を踏襲した作品であることは間違いない。そしてマイケル・シャノン演じる売人が物語のファンタジー色を強め、アンソニー・マッキーの現在とセス・ローゲンの未来、そしてジョセフ・ゴードン・レヴィットの過去を『クリスマス・キャロル』に重ねたり、他にも前述したようなクラシックなクリスマス映画を強く意識した構造などは非常に良く出来ていた。
『ハングオーバー!』を意識した邦題がつけられているが、それよりもセス・ローゲンがドラッグでおかしくなるところと、アンソニー・マッキー演じるアメフト選手が現在に抱える問題が、もうまるっきり「キヨハラ」だったことに注目してほしい。もちろん覚せい剤はダメだ。コカインもマリファナもダメだ。でもその罰として孤独を与えるとするのなら、何も解決されないことは本作を見ればよくわかる。この映画を観た後なら素直に「もう一度かっとばせ!キヨハラくん」と陰ながら応援できる。
はっきり言えば見ても見なくてもどうってことない映画なのだが、誰か「キヨハラくん」の友人は保釈されればこの映画に連れて行ってもらいたい。きっと彼だって大切な存在を理解することだろう。それでも本作にはマリファナを推奨するような内容が含まれているからやっぱりダメか、、、、うん、どう考えてもダメだな。
『ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー』:
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