映画レビュー|『ガスコイン』-捏造された波乱万丈の物語

Movies gascoigne poster

『ガスコイン/GASCOIGNE』

2015年/ドキュメンタリー映画/イギリス/118分

監督:ジェーン・プレストン

出演:ポール・ガスコイン、ジョゼ・モウリーニョ、ゲイリー・リネカー、ウェイン・ルーニー他

あらすじ

イングランドを代表するサッカー選手として90年代に活躍したポール・ガスコインの波乱万丈の半生。

少年時代の悲しい出来事、そしてプロのサッカー選手となり、やがてはビートルズ以来の熱狂とも呼ばれるほどの人気選手となるも、酒とドラッグに溺れていったポール・ガスコイン。

彼の知られざる素顔と過去を、著名なフットボール選手及び関係者、そして本人のインタビューで描き出す。

レビュー

メディアに求められ捏造されたイギリス版『波乱万丈』:

 1990年代にイギリスの国民的英雄だったサッカー選手ポール・ガスコイン。愛称はガッザ。特に1996年の欧州選手権スコットランド戦で決めたボールを浮かしてのボレーシュートは有名で「世紀のゴール」として今でもスーパーゴール特集ではよく登場する。愛嬌のある笑顔と丸っこい体から想像できないテクニックと力強さを兼ね備えたプレースタイルは広く賞賛を浴びた。本作にはガスコインの同僚でJリーグでもプレー経験のあるゲイリー・リネカーや、ガスコインを憧れる現イングランド代表のウェイン・ルーニーの他にチェルシー監督のモウリーニョも一人のファンとしてガスコインへの思い出を語っているのだが、その姿からだけでも彼の偉大さは伝わる。

またポール・ガスコインというサッカー選手の評価とは別に、彼の過激な言動はトラブルにもなり、やがてはアルコール問題やコカインそしてうつ病と、引退後もメディアを賑わすことが多かった。特に近年では度重なる飲酒運転と薬物所持での逮捕や、立てこもった殺人犯を「友人」と主張し面会を求めたりというトラブルが日本でも報道される一方で、下部リーグでの監督就任という報道もあったが結局は彼の身辺の賑わいが仇となり辞退するに至っている。

本作はドキュメンタリーとしてポール・ガスコイン本人へのインタビューを元に、彼本人の人柄については主に元同僚のリネカーが、そして彼に憧れた少年の視点でウェイン・ルーニーが、また彼に驚愕した視点としてモウリーニョが語っている。この構成を見ればわかるように本作はポール・ガスコインのスキャンダルを描くことが目的ではなく、彼の再評価と真実の姿を描くことを主眼としている。

そのためサッカーを始めた少年時代のトラウマからプロへ至るまでの道のり、そしてイングランド代表選手として挑んだワールドカップで見せた彼の涙と国民的英雄へまつられていく過程を平等に描いている。彼のスキャンダルと没落の姿はほとんど描かれず、彼がそのような状況に追い込まれた理由を加熱するゴシップ合戦への批判と重ねて告発している。

熱心なサッカーファンでもない立場からのポール・ガスコインの印象というのは、彼を揶揄するような「サッカーのうまい酔っ払い」という言葉に集約されている。それは粗野でがさつな無計画な破滅型英国人というもので、イギリス人にとって最高の自虐材料としてのガスコインというイメージが先行していた。しかし実際に本作を観てみると、そこにいたのは人の良さそうな、子供みたいな笑顔を浮かべる愛嬌ある男だった。ではなぜこのように愛嬌のある国民的サッカー選手が、一斉に叩かれ、そして這い上がったと思っところでまた底に落ちていくという繰り返しを経験することになったのか。それが本作の見どころだった。

ガスコインにとっての悲劇が、国民的熱狂といううねりのなかで、その悲劇性ゆえに物語化され英雄へとまつられていく姿。1990年のワールドカップ準決勝でイエローカードをもらい勝っても決勝には出場できないと知ったときに流した「ガッザの涙」が結果的に彼を英雄に仕立てた。そして勝手に作り上げた英雄像を率先して侮辱していくメディア。そういったゴシップに抗うようにプレーで結果を出せば、また最初に戻って一度は堕ちた英雄の帰還をメディアが囃し立て、最後はまた地に落とす。ポール・ガスコインの半生とはまさにこの繰り返しだった。そして当時の所属チームはそんなガスコインを完全に持て余していた。モウリーニョが残念がるように、もしクラブや協会がしかるべきサポートを行っていたのなら全く違った今をガスコインは生きていたのかもしれない。

確かにガスコインは思慮深い人間ではないのだろう。彼が飲酒運転を繰り返すこともコカインを使用していたことも、プレー面でも危険なタックルにいった見返りに大怪我している彼らしい思慮浅い行動の一端と言える。しかし誰の目にも明らかな彼の思慮浅さを率先して囃し立て、半ばトラブルをお膳立てしていたのは紛れもなくメディアだ。そして彼はやがて重度のうつ病を発症し、被害妄想も強くなっていく。曰く、「自分の携帯電話が何者かにハッキングされており、自分の私的な会話がメディアに盗聴されている」というのだ。

今現在もポール・ガスコインの窮状はかわっていない。サッカー選手として稼いだ20億円以上の金はすでに底をついている。同じく現役時代に悪童と呼ばれたエリック・カントナとは大違いだ。それでもワールドカップやイギリス、イタリア、スコットランドで経験した熱狂を懐かしそうに回想するガスコインの姿には、一時代を作った人間らしい威厳と誇らしさが描かれていた。演出次第ではガスコインをもっと哀れに描いたほうがラストの余韻が生きるのかもしれないが、監督はサッカーの元英雄を決して粗末には扱わなかった。

ドキュメンタリー映画だから何かしらの教訓を受け取るべきなのかもしれないが、本作をそこまで小難しくするもの何か違うように感じる。個人的にはこれまで持っていたポール・ガスコインというイメージが大きく塗り替えられたことと、純粋にポール・ガスコインというサッカー選手の魅力に興味を持った。英雄でもなく、決してただ粗野な男でもない。引退から10年以上経ったことで、やっと余計な飾りがなくなったのだろうか、今の彼こそが本当のポール・ガスコインなのだろう。

ちなみに、周りがただの被害妄想と片付けた携帯電話のハッキングについて、裁判によって11年に渡りガスコインが何者かに携帯電話をハッキング、盗聴されていたことが確認された。

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ということでドキュメンタリー映画『ガスコイン』のレビューでした。ポール・ガスコインという選手がデイヴィッド・ベッカム登場前の英雄だったことはなかなか若い人には想像できないのではないでしょうか。同じ悲劇の英雄でも一方は大富豪まっしぐらで、一方はほとんど破産してます。この対比の凄まじさがスポーツ選手らしくていいですね。もちろんガスコインの方ですよ、いいのは。サッカーファンだけでなく、『波乱万丈』の物語としてもよくできたドキュメンタリーだと思います。ちょっと映像がカッコつけすぎてるのが癪ですが、それもガスコインへの監督からの愛情の一種なのでしょう。こういう「生きてる人の半生映画」は好きなんです。以上。

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