『アドベンチャーランドへようこそ』以来となるジェシー・アイゼンバーグとクリステン・スチュワートの主演映画『エージェント・ウルトラ』のレビューです。マリファナばかり吸っている冴えない漫画家志望のコンビニ店員は実は凄腕エージェントだった!
『エージェント・ウルトラ/American Ultra』
全米公開2015年8月21日/日本公開2016年1月23日/コメディ/96分
監督:ニマ・ヌリザデ
脚本:マックス・ランディス
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、トファー・グレイス、コニー・ブリットン、ジョン・レグイザモほか
あらすじ
日々をのらりくらりと過ごしてきたダメ男のマイクは、恋人フィービーに最高のプロポーズをしようと決心するが、なかなかうまくいかない。そんなある日、アルバイト先のコンビニで店番をしていたところ、謎の暗号を聞かされたマイクは、眠っていた能力が覚醒。スプーン1本で2人の暴漢を倒してしまう。実はマイクは、CIAが極秘計画でトレーニングされたエージェントだった。マイクは、計画の封印を目論むCIAに命を狙われることになるが……。
レビュー|アレもコレもごった煮したウルトラ映画
1950年代からCIAが極秘裏に進めていた人間の意識下能力開発を目的とした洗脳実験、通称「MKウルトラ計画」。詳細は不明ながらも軍人や精神異常者を中心にLSDなどの麻薬や向精神薬を用いて眠った才能を開発しスーパー人間を作り出そうとした、実際に行われていた実験だ。本作『エージェント・ウルトラ』はこのMKウルトラ計画で極秘に作り出された人間凶器の生き残りが、記億を消された結果、今では冴えないコンビニ店員になっていた、という設定のコメディ。
これまでも映画ではMKウルトラ計画はたびたび題材にされており、ジョージ・クルーニー主演の『ヤギと男と男と壁と』ではその内容をおもしろ可笑しく描いている一方、今は懐かしメル・ギブソンがオカルトタクシードライバーを演じた『陰謀のセオリー』では「あるきっかけで目覚める殺人術」という本作と似通った設定をクソ真面目に描いていた。
ジェシー・アイゼンバーグ演じるマイクは四六時中ハッパを吸っている冴えないコンビニ店員。漫画家志望で仕事の傍で執筆に勤しむも、とにかくパッとしない。それでもマイクは人生に満足していた。というのも彼にはクリステン・スチュワート演じるフィービーという勿体ないくらいの恋人がいたのだ。マイクはフィービーにプロポーズすることを決心するも、いつもヘマばかり。
そんなある日、マイクの前に見覚えのない女性が現れ、意味不明な言葉を発する。その直後、マイクは襲ってきた暴漢ふたりは持っていたスプーンひとつで瞬殺してしまうのだ。実はマイクの存在を通して極秘計画が露見することを恐れたCIA内部でマイク抹殺命令が下るも、それに反対した職員が事前にマイクの眠っていた人間凶器としての力を呼び起こすコードを吹き込んでいたのだった。こうしてマイクは自分が何者なのかもよくわからない状況の中、CIAに追われ、そして非情な秘密を突きつけられる、、、。
本作はコメディだ。物語レベルでの滑稽さや可愛さと反するように暴力描写が満載であることは『キック・アス』や『スーパー!』に似ており、出来事の深刻さと反比例するハッパ野郎の珍道中という意味では『パイナップル・エキスプレス』にも近い。一方で物語のなかに、CIAを巻き込んだ殺し合いという筋と、マイクとフィービーの恋愛という 筋の似つかわしくない二つの目的が同時進行して描かれる点では、趣は違えど『バッファロー’66』も彷彿とさせる。また途中から『ボーン・アイデンティティ』と同じようなアイデンティティをめぐる葛藤も描くことになり、後半はデンゼル・ワシントン主演の『イコライザー』な展開にもなる。
このように本作は、ごった煮の印象なのだ。恋愛とヴァイオレンス・アクションという趣向の異なる要素を同時に語るために、様々な作品の特徴を借り受けることで成立している。しかもそれが意図的に行われていることは、『宇宙人ポール』でのシガニー・ウィーバーのように登場するビル・プルマンの役柄に如実に表れている。つまり制作サイドからすると、このごった煮は意識的にやっていますよ、というエクスキューズなのだが、だからと言って作品が面白くなるわけではない。クエンティン・タランティーノのようにカット&ペーストすることで物語に新しい解釈が生まれるわけでもなく、ただカッコイイシーンを切り張りしているだけに思えるのだ。何よりこの手の「舐めてた相手が実は殺人マシーン」系映画は近年では珍しくもなく、2015年には『キングスマン』が突き抜けただけにどうしても比較の上では物足りない。アクションも弱い。そのため映画としての個性がほとんどない。
それでも見所としては、主演二人のバカップルっぷりが挙げられる。『アドベンチャーランドへようこそ』以来の再タッグということだが、ジェシー・アイゼンバーグのちょっと間違えたバカっぷりと、クリステン・スチュワートのちょっとイケそうな美女っぷりの相性は素晴らしい。個人的には、過激なヴァイオレンスシーンよりも二人の関係性をもっとクローズアップしたほうがうまくいったように感じる。
サブカル系コメディとしては面白いが、それ以上の魅力はなかった。
『エージェント・ウルトラ』:
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ということで『エージェント・ウルトラ』のレビューでした。ギンティ小林さんが表現するところの「舐めてた相手が実は殺人マシーン」でした、という映画なので好きな人には堪らない一作なのかもしれませんが、『ジョン・ウィック』や『イコライザー』のようなアクションの説得力はなく、あくまで恋愛コメディです。ハッパを吸って楽しそうにするのはいいですが、やっぱり突き抜けきれていなが残念です。でも前半はかなり笑えますよ。特にジョン・レグイザモのいい人感は半端ないです。以上。
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