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映画レビュー『ブラック・スキャンダル』ジョニー・デップ主演

ジョニー・デップがFBI史上最高の懸賞金をかけられた実在の凶悪犯ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーを演じた『ブラック・スキャンダル』のレビューです。ギャングとFBIと政治家が結びついた危険すぎる実話。ベネディクト・カンバーバッチやダコタ・ジョンソンら豪華な共演陣にも注目。

Black Mass poster from calvin dot edu

『ブラック・スキャンダル/Black Mass』

全米公開2015年9月18日/日本公開2016年1月30日/クライム・ドラマ/122分

監督:スコット・クーパー

脚本:ジェズ・バターワース、マーク・マルーク

出演:ジョニー・デップ、ジョエル・エドガートン、ベネディクト・カンバーバッチ、ケビン・ベーコン、ダコタ・ジョンソンほか

作品解説

1970年代、サウス・ボストン。FBI捜査官コナリーはアイルランド系マフィアのボスであるホワイティに、共通の敵であるイタリア系マフィアを協力して排除しようと持ちかける。しかし歯止めのきかなくなったホワイティは法の網をかいくぐって絶大な権力を握るようになり、ボストンで最も危険なギャングへとのし上がっていく。これまでも作品ごとに全く異なる顔を見せてきたデップが、本作では薄毛オールバックに革ジャン姿で冷酷なギャングを怪演。

引用:eiga.com/movie/81638/

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レビュー|ジョニー・デップが演じる、実話のシェークスピア劇

ジョニー・デップが額の広い冷血漢を演じた『ブラック・スキャンダル』は久しぶりに彼の演技が冴える緊張感に満ちた作品となっていた。

ここ最近のジョニー・デップは贔屓目に見てもロクな作品に出演していなかった。主演作に限って言えば2009年のマイケル・マン監督作『パブリック・エネミー』まで遡らないと評価に価する作品は出てこない。その間には『ツーリスト』、『トランセンデンス』、『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』という誰に目にも明らかな駄作に主演し、『チャーリー・〜』に関しては日本でのプレス会見をドタキャンして、翌日「チュパガブラに襲われたんだ」という1ミリも面白くないジョークを放ち作品のつまらなさに色を添えたりもした。

しかし本作では『パイレーツ・オブ・カリビアン』以降に定着してしまった「不真面目な」演技というイメージから離れ、彼が尊敬するマーロン・ブランドを彷彿とさせるような迫力のある演技を披露している。彼が演じるのは米国史上最も危険なマフィアのリーダー、ジェイムズ・“ホワイティ”・バルジャー。南ボストンで犯罪の免許を与えられたに等しいほどに好き放題暴れまわった実在の男で、2011年に逮捕されるまでFBIが公表した最重要指名手配犯のひとりだった。

彼の逮捕後、南ボストン出身のベン・アフレックとマット・デイモンが彼をモチーフにした映画を製作しようとしたが、結局は本作『ブラック・スキャンダル』に先を越される形で断念するほどに、マフィアとしては有名だった。そして彼がなぜこれほどまでに有名な 指名手配犯となったのか。本作ではその理由が余すところなく描かれている。

ホワイティ(ジョニー・デップ)は南ボストンを仕切るマフィアのボスだった。 地域社会で根強い関係を張り巡らすアイルランド系移民であり、弟(ベネディクト・カンバーバッチ)は有名大学を卒業後に政治家となり地元の名士として知られている。そのためホワイティは地元警察でさえも手が出せない存在となっていた。

そこに全国でマフィアの取り締まりを強めるFBIがボストンにも進出してくる。そしてそのFBI捜査官のなかにはホワイティの幼馴染のコノリー(ジョエル・エドガートン)がいた。彼はボストンで活動を開始していたイタリア系マフィアを掃討するためにホワイティとの間に密約を結ぶ。それはホワイティがFBIにイタリアン・マフィアの情報を提供する代わりに、FBIの捜査状況を漏らしホワイティには手を出さないという悪魔の契約だった。

地元政治そしてFBIという後ろ盾を得たホワイティは、敵対者に限らず目障りな存在を男女問わず殺し回っていく。しかしその悪魔の関係にもやがて破綻の兆しが見え始める、、、。

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見終わってこんな話が実話なんて信じられなかった。まるでシェークスピアが書いた物語のように、登場人物と物語の関係がよく出来すぎている。20名以上殺しまくった狂気の男と固く結ばれたエリート政治家の弟。そこに幼馴染の捜査官が現れ、信頼と裏切りがヒリヒリした感覚で何度も交差していくのだ。

だからと言って嘘くさいという印象も受けない。アイルランド系社会そして1970年代という特異性を考えれば、確かに現代を舞台にシェークスピアが筆を振るったとしても不思議ではないのかもしれない。そして2時間少しの上映時間のなかで、徐々にジョニー・デップ演じるホワイティの狂気が加速していく流れには、出来すぎた状況のなかで孤立していく男の狂気が説得力を込めて描かれていた。そして出来すぎた状況を持て余し徐々に自分を見失っていくジョエル・エドガートン演じるコノリーの後戻りできなくなっていく狼狽ぶりも素晴らしい。

序盤にはホワイティの二面性を強調するため子煩悩なエピソードを盛り込んでいるのだが、まだ小学生くらいの息子が学校で生徒を殴ってしまい怒られるというエピソードが紹介される。そしてホワイティは他の生徒を殴ってしまった息子にこう説教する。

「問題なのは人をぶん殴ることじゃなく、人前でぶん殴ることなんだ。わかったか。人前では殴るんじゃないぞ」

実はホワイティはこの時点まで、最低限の社会ルールをわきまえている。この文句が子供や健全な社会に対して有効かどうかはともかく、これまでホワイティが過ごしてきた裏の世界では価値ある教訓だということが本作を通して理解出来るようになっている。「人前では殴らない」つまり、「悪事とは影で行うもの」というルールだ。

しかしこのホワイティ自身が我が息子に教えようとしたルールは、彼自身によって破られる。前述したシェークスピア的な出来すぎた状況が、彼を狂わしていくのだ。そして結末もまた、自ら望んだ欲に呑まれて身を滅ぼしていく、という何ともマクベス的なものになっていく。まるでホワイティにとってそうなることが運命だったかのようにすら思え、最後には少し同情さえしてしまうのだ。

それもこれもやはりジョニー・デップの狂気に満ちた演技の賜物だろう。人を見つめている時に「今、お前を殺そうかと悩んでいるところだ」と頭のなかで考えているような彼の狂気は凄まじいものがある。他にもケヴィン・ベーコンやロリー・コクレーン、そしてホワイティの鉄砲玉を演じるジェシー・プレモンスなど脇役も素晴らしいのだが、それも全部ジョニー・デップに持って行かれている。

久しぶりにちゃんとしたジョニー・デップが見られるということもあるが、現代に実際におきたシェークシピア劇としてもその狂気を堪能できる怪作だった。

『ブラック・スキャンダル』:

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ということでジョニー・デップ主演『ブラック・スキャンダル』のレビューでした。ベネディクト・カンバーバッチも出演していますが、その印象がほんのり薄くなるほどにジョニー・デップの怪演は見事です。後半になるにつれて徐々に怖くなっていきます。久しぶりに彼の主演作で面白いと思える作品と出会えました。これを見るとなんであんなふざけた役ばかり引き受けてきたんだろうかと不思議に思います。とにかくオススメの一作です。以上。

Summary
Review Date
Reviewed Item
ブラック・スキャンダル
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