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映画レビュー|『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』

『ロード・オブ・ザ・リング』でガンダルフを演じたイアン・マッケランが、老いたシャーロック・ホームズを演じる『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』のレビューです。93歳となり明晰な頭脳には陰りが見える老ホームズが自身の引退のきっかけとなった事件に再び挑むミステリー。共演は真田広之ら。

Mr Holmes

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』

全米公開2015年7月17日/日本公開2016年3月18日/ミステリー/104分

監督:ビル・コンドン

脚本:ビル・コンドン、ジェフリー・ハッチャー

出演:イアン・マッケラン、ミロ・パーカー、ローラ・リニー、コリン・スターキー、真田広之ほか

作品解説

ある男性から不可解な行動を取る妻の素行調査を依頼されたホームズだったが、その謎解きはホームズの人生最大の失態となり、探偵稼業を引退することとなった。あれから30年、93歳となったホームズは、30年前の未解決事件に決着をつけるため、ロジャー少年を助手に迎え、最後の推理を始める。現役から退き、93歳となった年老いたホームズをマッケランが演じ、アカデミー賞ノミネート女優ローラ・リニー、真田広之らが脇を固める。

引用:eiga.com/movie/81863/

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レビュー

実年齢で76歳のイアン・マッケランが、すでに探偵業を引退し93歳となったシャーロック・ホームズを演じる『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』は、過去の後悔を放置し続けることで進行する「老い」の本質を描いた作品だと言える。

過去に数々の難事件を並外れた分析力と推理力で解決してきた名探偵シャーロック・ホームズも老いには勝てなかった。すでに探偵を廃業し、93歳となった今では家政婦が暮らす田舎の農場で隠居生活を送っている。そこでホームズはミツバチを育てて過ごすも、過去に自分を廃業へと追いやった事件のことが忘れられなかった。

物語はホームズが日本の旅から隠居先の農園に帰ってくることからはじまる。もともとアヘンや毒薬にも詳しく植物への関心が強いホームズは、日本から記憶力に作用すると言われる「山椒」を持ち帰る。93歳になったホームズは日々の出来事さえも記憶するのが難しくなっていたのだ。

遡ること30年前、ホームズはある紳士から人が変わったという妻の身辺調査を依頼される。そしてその調査はやがて悲しい事件となりホームズを探偵業から遠ざけることになった。

現在の生活と30年前の事件、そして日本旅行の記憶が入り乱れるなか、一緒にミツバチの世話をするロジャー少年の若さを頼りに、ホームズは30年前の事件と再び向き合う。

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少年ロジャーが母親に放った暴言を老ホームズが諌めるシーンが中盤にある。「今すぐ母親に謝りに行け、さもなくば後悔するぞ」と忠告するホームズに少年は「大人はみんなそう言うだけだ」と反論する。それに対しホームズは声を荒げる。

「私も後悔しているから、そう忠告するんだ」

本作『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』には、例えばベネディクト・カンバーバッチの『シャーロック』のような謎解きミストリーとしての醍醐味はほとんどないし、唯我独尊を地で行く完全無欠なホームズの活躍が描かれることもない。それどころか93歳になり頼る者のない孤独なホームズの、その哀れな姿が正面から描かれる。

日々の出来事さえも確かに覚えることができなくなり、その名を英国のみならず日本にまで轟かせた名探偵ホームズは、隠居先の農園でただただ老いを重ねるだけの日々を送っている。そこにはあの名探偵ホームズの跡形も見えない。歩くこともままならず、声を張り上げることもできない老ホームズの姿は自信を失っているようにしか見えない。このホームズの老いさらばえた姿はなかなかショッキングだった。ただ老人が物忘れをし認知力を弱めていくという当たり前の事実も、それがホームズの身に起きると過去の栄光とのコントラストからただただ惨めに見えてくる。よくある傲慢な老人の虚勢すらなく、ただただ萎びれているだけなのだ。

その原因とは単にホームズが年老いたからというわけではなく、その契機となった30年前の事件を解決できなかったという「後悔」が彼から自信を奪ってしまったことが描かれる。

これは難事件をホームズが解決する物語ではなく、ホームズにとっての難事件を彼自身が解決していく物語と言える。誰が犯人なのか、という推理と洞察で導き出される解答ではなく、あの時自分は何をすべきでそして今何をすべきなのか、という後悔を巡る難題と向き合う物語だ。それは自分の正しさを疑うこともなかった若きホームズには解くことができない、老いたホームズだからこそ解くことができる 難題なのだ。そしてその難題を解き明かすのはホームズは助けを必要としていた。

本作には様々な後悔が登場する。30年前の事件とはほとんど無関係にホームズが日本を旅行する過去も描かれ、そこでは焼け野原となったヒロシマが登場する。真田広之演じる日本人とホームズの奇妙な関係と終戦直後の日本の姿は、作品全体のトーンを決定づけている。それは贖罪の意識を込めた後悔だ。物語の最後に見せるホームズの何気のない優しさが心を打つのは、彼が放つ言葉以上の後悔の念が物語を通して描かれているからだ。

そしてホームズにとって必要だった助けとは老いた自分の成長の証となる存在だった。それは父親もいない貧しい家政婦の息子ロジャーに他ならない。ホームズが過去の後悔を乗り越えるためには、彼はロジャー少年にとっての「父親」となる必要があった。父親のいない孤独な少年ロジャーに何かを教えなければならないとホームズが感じるということ。それがホームズにとっての成長だったのだ。

天涯孤独をよしとしてきたあのシャーロック・ホームズが、過去を乗り越えることでユングがいうところの「オールド・ワイズマン」つまりは無意識としての理想の父親となっていく展開は、ホームズファンでなくとも胸が熱くなる。キャラも設定も何もかも違うがロバート・B・パーカーの『初秋』と同じような話になっていく。

そしてロジャー少年を演じたミロ・パーカーやその母を演じたローラ・リニーの演技も感動的だし、日本人ホームズファンを演じた真田広之も存在感を示した。なにより60歳のホームズと93歳のホームズを演じ分けた サー・イアン・マッケランの熱演には拍手。ホームズのワトソンへの言葉にできない想いが見事に描かれていた。

本作でシャーロック・ホームズが証明して見せた難題とは、老いてもなお人は成長できるということなのかもしれない。

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』:

Mr holmes jazf

ということで『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』のレビューでした。はっきりいって謎解きミステリーを期待していくとがっかりします。レビュー内でも言及しましたがこれはスペンサー・シリーズの『初秋』ですよ。孤独なホームズが孤独な少年と出会うことで、その「父親」となり人生を教えるという物語です。『初秋』を読んだことのない男子は何歳でも遅くないので読むことを激奨します。そんなわけでも個人的には大好物な映画でした。まあ、作品としての小ぶり感は仕方ないですが、イアン・マッケラン演じるホームズのワトソンへの淡い想いとか、なんかそわそわしませんか?これオススメです。以上。

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Mr.ホームズ 名探偵最後の事件
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