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映画『チリ33人 希望の軌跡』レビュー

2010年8月、チリ・サンホセ鉱山で33人の作業員が坑道の崩落によって地下深くに閉じ込められ、69日後に全員が奇跡の生還を果たした実話を映画化した『チリ33人 希望の軌跡』のレビューです。世界中が注目した救出劇の真相が今明かされる。主演はアントニオ・バンデラス。

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『チリ33人 希望の軌跡/The 33』

全米公開2015年11月13日/ドラマ/127分

監督:パトリシア・リゲン

脚本:ミッコ・アランネ・クレイグ・ボーテン、マイケル・トーマス

出演:アントニオ・バンデラス、ロドリコ・サントロ、ジュリエット・ピノシュ、ジェームズ・ブローリン、ルー・ダイアモンド・フィリップスほか

作品解説

2010年8月、チリ・サンホセ鉱山で33人の作業員が坑道の崩落によって地下深くに閉じ込められ、69日後に全員が奇跡の生還を果たした実話をハリウッドが映画化。地上から700メートルも隔絶された暗闇の中で酸素も食べ物もなくなっていく極限状態に置かれながらも、決して諦めることなく生き抜こうとする作業員たちの姿をはじめ、彼らを救うべく奔走する救助チームや生還を信じて待ち続ける家族にもスポットを当て、世界中が見守った救出劇の真相を描き出す。厳しい状況下でもユーモアを忘れない主人公マリオ役をアントニオ・バンデラスが熱演。

引用:eiga.com/movie/83277/


レビュー

2010年、南米チリの鉱山を世界中の人々が固唾を飲んで見守っていた。日本でも情報番組などで生中継され、その一部始終を覚えている人も多いことだろう。

2010年8月、チリのアタカマ砂漠にある鉱山で岩盤が崩落、中で作業中だった33名の鉱夫たちが閉じ込められた。そして生存が絶望視された事故発生から18日後、彼ら全員が生存していることが判明する。その後は各国政府や企業から食料や最新技術の提供もあり、彼ら全員が事故発生後から69日後に無事に地上に舞い戻ってきた。一人も欠けることなく生還した彼らの団結と忍耐を世界は「the 33」と呼び賞賛した。

本作は事故からの救出劇までを、固く閉ざされた鉱山の内部に閉じ込められた33名の炭鉱夫の物語と、彼らの生存を信じて救い出そうとした地上の人々の物語のふたつの視点で語られる。そして物語は終わりは、誰もが知るように、固い岩盤で隔てられていたこの二つの物語が出会うことで終わることになる。

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本作のような実話をベースにした映画化作品の難しさとは、誰もが知っている結末をいかににして映画として語り直すのかという一点に向けられる。史実をベースにした作品はあいからわず多く作られるも、本作のように「まだ記憶に新しく誰もが結末を知っている」物語の映画化作品というのは意外と少ない。

例えばオサマ・ビン・ラディン殺害を描いたキャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』も同様に「まだ記憶に新しく誰もが結末を知っている」ではあったが、そこで描かれる物語は国家秘密に触れる部分であり確証性は疑わしく、最初と終わり以外は知られていない物語だった。一方で本作はwikipediaに詳細が書かれていることを題材としており、それらをどのようにして描くのか、という手法の部分が成功の可否を分けることになる。

その点において、序盤は素晴らしい予感に満ちていた。岩盤の崩落シーンは、例えば『カリフォルニア・ダウン』や『ポセイドン・アドベンチャー』のような災害パニック映画を彷彿とさせる。てっきり鉱夫と地上の人々との家族愛などのドラマ部分にスポットを当てた作品となるかと思っていたのが、サバイバル映画として描くつもりなのだろうかと予想が覆される思いだった。

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しかし実際にはそこからは思っていた通りの展開になっていく。

その後は報道もされていた仲間内での争いと和解が描かれ、彼らの生存の確認と救出と淡々と描かれていく。淡々と、と言ってもアントニオ・バンデラスやルー・フィリップ・ダイヤモンドが取り残されているわけで絵面はコテコテなのだが、特にこの事件を調べたわけでもない人でさえ知っているような出来事が続いていくという意味で淡々としているのだ。音楽や演技といった演出部分で抑揚をつけようとする努力はわかるが、物語演出という面ではほとんど何も冒険を冒していなかった。

また商業的な要請から出演者が英語を話すことは理解できても、緊急のときに英語に混ぜて「ポルファボーレ」などと叫んだりするのはどういった意図があるのか意味不明だった。

キャスティングもイメージ通りで、実際の事故を描きながらも作られた印象が強く残ってしまう。特に映画のはじまりで鉱夫たちの現場の危険性を訴えておきながらも映画としては実話を超えるリアリティ作りにことごとく失敗していては、その教訓も冷めてしまう。

あと閉じ込められた鉱夫の妹として地上での被害者家族のリーダー的な存在となるジュリエット・ピノシュの場違い感も水を差す。

序盤の崩落シーンは素晴らしかったのだから、そのまま災害パニック映画として突っ走るべきだったように感じた。この救出劇は日本でもバラエティ番組のパロディとなるほどに事件の教訓が分かりやすいことは間違いないが、映画にする以上その分かりやすさを超える物語を提示して欲しかった。

豪華な二時間ドラマという印象しか残らない。

『チリ33人 希望の軌跡』:

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ということで『チリ33人 希望の軌跡』のレビューでした。ちょっと辛口ですが、駄作とかそういう印象ではなく、こうなるのも仕方ないのかなとも思います。いっそのこともう十年ほど寝かしてからなら印象も変わったかもしれませんが、ネット時代になり何でも検索して思い出せてしまう昨今では、この救出劇は記憶に新し過ぎました。よく言えば正直な作品なんでしょうが、もうちょっと試行錯誤してほしかったです。以上。

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チリ33人 希望の軌跡
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