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ジョディ・フォスター監督作『マネーモンスター』レビュー

ジョディ・フォスターの4作目となる映画監督作で、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツ共演の劇場型金融サスペンス『マネーモンスター』のレビューです。株投資を煽るテレビ番組の司会者が生放送中スタジオに侵入した男に銃で脅され人質となってしまう。男を凶行に向かわせた真実とは?往年のシドニー・ルメット作品を彷彿とさせる社会派サスペンス。

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『マネーモンスター』

全米公開2016年5月13日/日本公開2016年6月10日/サスペンス/98分

監督:ジョディ・フォスター

脚本:アラン・ディ・フィオーレ、ジム・カウフ、ジェイミー・リンデン

出演:ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネル、ドミニク・ウェスト、カトリーナ・バルフ、ほか

レビュー

この映画にはジョディ・フォスター以外に見えない監督が3人いる。

ジュディ・フォスターが4作目となる監督作として送り出したのは、人気テレビ番組の生放送が「一人の男」によってジャックされる顛末を描いた社会派エンターテイメント作品だった。

ジョージ・クルーニー演じるリーは株式投資の情報番組「マネーモンスター」の司会者で、ジュリア・ロバーツ演じるパティはそのディレクター。過去にリーがオススメした新興会社アイビスの株が原因不明の大暴落を起こしているなかで行われた生放送中、銃と爆弾を持った男カイル(ジャック・オコンネル)が乱入し、リーを人質にとる。カイルはリーの勧めに従ってアイビスの株を購入するも、暴落のせいで全財産を失ってしまっていた。そしてカイルはリーを人質にとって生放送をジャックすることで、「マネーモンスター」のデタラメぶりや、アイビス株の不正を訴える。

番組のジャックが生放送されるなか警官に包囲されたスタジオで、リーとパティは自暴自棄のなりつつあるカイルを宥めながら、アイビス株に一体何は起きたのか突き止めようとする。

やがて真相はウォール街の闇と結びつき、そしてリーとパティはカメラを通して真実を明らかにしようと奔走する。

閉ざされた空間、入り乱れる思惑、何重もの眼によって囲まれ、限られた時間のなかで真実に到達できるのか?

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本作『マネーモンスター』を見ていると、いくつかの先行作品が思い出される。その小気味好い編集、多彩なカメラワークはジュディ・フォスターが出演したスパイク・リー監督作『インサイド・マン』を彷彿とさせ、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの出演作ということでスティーヴン・ソダーバーグの影もちらつく。そして社会問題がもたらす緊張感を劇場型のエンターテイメントとして仕上げたという意味ではシドニー・ルメットの傑作『ネットワーク』とよく似ている。

これら傑作揃いの先行作品と比べられるように、『マネーモンスター』はよくできた物語だった。

状況説明のためだけのシーンやセリフは極力廃し、一時間半という上映時間がほとんど劇中に流れる時間と同じになっている。そのため観客も生放送を見つめる視聴者と同じ視線で物語を同時に追いかけることになる。ともすれば悲鳴とバタバタの連続でスピード感しか残らない劇場型サスペンス映画の悪例にはまってしまう可能性もあっただろうが、ジュディ・フォスターの職人的な統制力で、絶妙な緊張と緩和が演出されている。

また金融危機をテーマの一部にしながらも『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』のように問題意識をリアリズムの様式で描くのではなく、あくまで物語の推進力として金融問題を扱っているため社会派作品である前にエンターテイメントであるという映画として非常に真っ当な姿勢を貫いている。

例えばシドニー・ルメット監督作の『ネットワーク』がコマーシャルに乗っ取られているマスメディアの内的崩壊をエンターテイメントの枠内で描いたことと同じように、本作では金融市場が崩壊すれば過去に投資を煽った事実を忘れて、自分たち以外の犯人探しに血眼になったメディアの無責任さを、ジョージ・クルーニーの滑稽さに重ねて描いている。こうすることで悪い奴らのずる賢さとは、知恵や経験の発露としてではなく、粗悪で粗野な品性の結果であることが明らかになる。

ジョージ・クルーニーは道化を演じている。高級スーツに身をまといまるで人生の勝者のように振る舞う一方で、離婚を繰り返し娘にも会うことのできない男である。そして生放送中に人質になったかと思うと、いつのまにかその立場さえも取り上げられることになる。道化というのは善でもあり悪でもあり、善でもなく悪でもない、見るものの鏡なのだ。見方によってジョージ・クルーニー演じるリーは被害者であるが、当事者からすれば加害者である。自分の言葉で話そうとすれば事態が悪い方向に向かっていき、ジュリア・ロパーツ演じるパティの指示をイヤーモニターで聞きながら行動するだけの男だ。そして彼の一挙手一投足は徐々にコメディとして物語を戯画的に仕上げていく。

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この手の空虚なお騒がせ男とはソダーバーグ作品によく登場する。『インフォーマント!』のマット・デイモン演じる内部告発者や、『コンテイジョン』でジュード・ロウが演じた嘘つきジャーナリスト。本作のジョージ・クルーニーもまた事件を通して自分の空虚さを理解するのだが、『ネットワーク』の元ニュースキャスターと同じ運命とはならない。そこはジョディ・フォスターの優しさなのか、それとも商業主義が大衆主義へと姿を変えた時代のせいなのか、見るものの判断で変わってくるだろう。

苦言としては物語の途中に突然、凄腕ハッカーやら、事件の真相に近いコンピューターエンジニアが登場するのには興ざめした。小気味いいテンポで進むほどにこういった強引な展開の粗は目立つ。また黒幕の描き方も薄っぺい。それでもジョディ・フォスターは『インサイド・マン』でメガホンをとったスパイク・リーから多くのことを学んだことはよくわかる。社会派スパイク・リーがメジャー資本で撮った『インサイド・マン』は、一般的な社会問題(ユダヤ人迫害)とスパイク・リー本人の問題意識(黒人差別)という本来は共存させることが難しい両者も、エンターテイメントに徹すれば、ひとつの物語で同時に描けることを証明した。

そして本作『マネーモンスター』では金融危機やメディアの責任という一般的問題と同時に、男社会のハリウッドで子供の頃から過ごしてきたジョディ ・フォスターだからこそ描ける女性としての矜持がジュリア・ロバーツに、そして株価暴落の真相を内部から探るカトリーナ・バルフ演じる広報に見ることができる。

完璧な作品とは言えないながらも、シドニー・ルメット作品を下敷きにして、ジョディ・フォスターの経験と、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツという人気スターの演技が、うまくリンクした作品だった。きっとこのバランス感覚こそがジョディ・フォスターの監督としての資質なのだろう。

『マネーモンスター』:

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