漫画家志望の15歳少女ミニー・ゲッツのあけすけな成長を描き、サンダンス映画祭で絶賛された『ミニー・ゲッツの秘密』のレビューです。秘密によって維持される少女の危うい日常と、多感で正直な心模様を描き出した青春コメディ。生々しい内容でR指定ながらも不思議に清々しいラストが印象的。
『ミニー・ゲッツの秘密/The Diary of a Teenage Girl』
全米公開2015年8月7日/日本公開未定/青春コメディ/102分
監督:マリエル・ヘラー
原作:フィービィー・グロックナー『The Diary of a Teenage Girl』
脚本:マリエル・ヘラー
出演:ベル・パウリー、クリステン・ウィグ、アレクサンダー・スカルスガルド、マルガリータ・レヴィエヴァ、クリストファー・メローニほか
あらすじ
1976年、米サンフランシスコ。アーティストを夢見る15歳の少女ミニー・ゲッツは、自分のルックスにコンプレックスを抱き、なかなか男の子と話ができず悩んでいた。そんなある日、母親の彼氏であるグータラだけどかっこいい中年男モンローに思わず、セックスをおねだり! バージンを捨て、心がはずみっぱなしのミニーは、絵を描いたり、日記代わりに使っているテープレコーダーに自分の想いや出来事を赤裸々に吹きこんでいく。
しかし、それを思いがけない人に聞かれてしまい・・・。
引用:AMAZON
レビュー
15歳の少女のあけすけな独白からはじめる『ミニー・ゲッツの秘密』は多感でストレートな少女の普遍的な心模様を、70年代後半の廃れていくヒッピー文化を背景に見事に描き切った青春映画だ。
物語のオープニング、マイクを手にした少女がつぶやく。「今日、とうとうセックスした。もう最高!」
主人公ミニーは不思議な少女だ。自分の顔や体にコンプレックスを持ちつつも、セックスへの関心は並々ならぬものがあり、その想いを日々テープにオーディオ日記という形で録音している。そして自分の有り余る想像力の矛先を漫画を書くことに費やしている。
父親はおらず、母親は廃れゆくヒッピー文化にすがりつくようにして夜な夜な友人や恋人とマリファナや酒を楽しんでいる。その母親には恋人がおり、ミニーはその彼に、これがふさわしい表現か悩むのだが、淡い恋心らしいものを抱いている。母親が酔いつぶれて眠るとミニーはソファーでその母親の彼氏とじゃれ合ったり、見ている方からするとヒヤヒヤするほどの密着具合となることも珍しくない。
そしてある日、とうとうミニーは母親の彼氏と「セックス」をして処女を失う。15歳の少女が母親の恋人と肉体関係になるのだ。しかもその後、ミニーの親友を交えた3Pにまで発展する。
しかしこんな関係が長続きするはずもない。ミニーはオーディオ日記にその一部始終を録音しており、やがて絶対に聞かれてはいけない相手に秘密の関係が知られてしまうのだった。
『ミニー・ゲッツの秘密』は2015年のサンダンス映画祭で上映されると大絶賛され、2015年の青春映画のなかでも特出した作品として各方面から高評価を受けた。一方でいわゆる少女の成長物語としては異例とも言えるほどにストーリーは過激で、セックス描写も生々しい。母親の恋人とセックスし、未成年でも酒を飲み、友人と売春婦を演じてはバーで見知らぬ男のアソコをノリでくわえたりもする。細部を見ていけば青春の過激さの一瞬を描いた、例えば1995年の『KIDS/キッズ』などを連想しそうなほどで、レーティングもR指定されるほどだ。
しかし『ミニー・ゲッツの秘密』は過激な青春を売りにした作品とは一線を画す、あくまで主人公ミニーの成長を主題に描いた文字通りの青春映画だった。美男美女がくっついたり離れたりする夢物語としての青春ではない、どこにでもいる夢見がちな少女が、その性格をきっけにしてつまずき、それでも現実に向かっていくことを決心する過程を、ユーモラスに描いたコメディなのだ。
ミニーは漫画を描いている少女で、彼女の描いた漫画のキャラクターが想像力の力を借りて具現化されていくシーンなどは映画全体の緊張感のない空気と混ざり合って、シュールだが思春期のリアリティがうまく表現されいる。そしてR指定のため15歳の少女の成長を描きながらも観客のターゲットは成人となるため、観客は自分の過去と比較してしまうことになる。
つまり本作は少年少女の憧れや手本としての成長物語ではなく、すでに青春を終えた人々が過去の自分たちの成長を自覚するように促す作品と言えるのだ。それが成長のきっかけだとは気がついていない過去の失敗、挫折、放蕩などが実は一連の青春のなかにあって重要なパーツとなっていたのだと振り返らせてくれる。映像は頻繁に白飛びし、レンズフレアも多用されるなどのも観客のノスタルジーを強く刺激するためだ。
そして邦題にあるようにミニーの秘密が重要な役割を果たすことになる。大雑把に言ってしまうと、青春の不確かさというのは秘密によって作られる関係性そのものであるということかもしれない。ミニーは母親とも、その恋人とも、親友とも、秘密によってそれまでの関係を維持してきた。そのため秘密が明らかにされた時、彼女を中心とする人間関係は一気に崩れることになる。結果、その崩れた関係を修繕するために自分の将来を親から命令されるように決められそうにもなる。しかし唯一秘密を共有していなかったある人(もしくは何か)の存在が彼女の拠り所となっていく。
ミニーは最終的にどうなるのかは是非とも映画を見てもらいたい。
でもこれだけは言っておきたい。彼女の居場所を見つけ出してくれたのは家族でも友人でもない。彼女の成長そのものが彼女の居場所を見つけてくれたのだ。
『ミニー・ゲッツの秘密』:
オススメ!ということで『ミニー・ゲッツの秘密』のレビューでした。これは日本公開はないですがDVDの発売が決定しています。2015年の青春映画のなかでは『The Road Within』そして『Me and Earl and the Dying Girl』と並ぶような作品でしたが、作品のセンスでは本作がずば抜けています。原作は人気漫画家フィービ・グロエックナーが描いた小説で、漫画風アニメーションが具現化して現れるなど最近の青春映画では珍しくない手法を使っておきながらも内容のトンガリ具合では群を抜いています。15歳のミニーをあけすけに演じたベン・パウリーの演技もよかったですし、母親の恋人でありながら娘にも手を出すダメ男を演じたアレクサンダー・スカルスガルドもリアルでした。これは今後カルト化しそうな映画ですので要チェックです。以上。
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