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映画レビュー|『グランドフィナーレ』パオロ・ソレンティーノ監督作

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『グレート・ビューティー/追憶のローマ』でアカデミー外国語映画賞を受賞したパオロ・ソレンティーノ監督最新作『グランドフィナーレ』のレビューです。過去に手に入れた大切なものを失った人々が織りなす不思議な希望の物語。素晴らしい作品でした。

『グランドフィナーレ/Youth』

全米公開2015年12月4日/日本公開2016年4月16日/ドラマ/119分

監督:パオロ・ソレンティーノ

脚本:パオロ・ソレンティーノ

出演:マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、ジェーン・フォンダ、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノほか

作品解説

イタリアのパオロ・ソレンティーノ監督が、イギリスの名優マイケル・ケインを主演に迎え、アルプスの高級ホテルを舞台に、老境のイギリス人作曲家の再生を描いたドラマ。80歳を迎え、未来への希望もなく表舞台から退いた作曲家で指揮者のフレッドは、親友の映画監督ミックとアルプスの高級リゾートホテルにやってくる。そこで穏やかな日々を送っていたある日、エリザベス女王の使者という男が現れ、フレッドの代表作を女王のために披露してほしいと持ちかける。個人的なある理由から、その依頼を断ったフレッドだったが、ホテルに滞在する様々な人との出会いを通し、気持ちに変化が訪れる。

引用:eiga.com/movie/83793/


レビュー

この映画を観ている途中からある言葉が脳裏から離れなくなった。これまで何度かぼくの気を楽にしてくれて、今でも折に触れては口の中で呟きながら色々と考えを巡らしたりする言葉だ。

「If I am what I have and if I lose what I have who then am I?/もしぼくという存在がこれまで手に入れてきたもので作られてきたとするなら、もしそれを失ったらぼくは何だというんだ?」

日本語にするとややこしくなるが英語だとシンプルな文章で、そして、意味はなかなか深い。これはエーリッヒ・フロムという心理学者の言葉で、過去やトラウマといった無意識領域によって人間の現在を理解しようとするフロイト的な考えに対する、フロムから挑戦、もしくは批判が込められている。簡単に説明すれば、確かに今のぼくは過去の集積であることは間違いないが、ではもし今を変えることを欲した場合、ぼくは過去をなかったことにしなければならないのだろうか。もしくはタイムマシーンでも作って過去のあなたを変えない限り、今のあなたはずっとそのままでいなければいけないのだろうか。

パオロ・ソレンティーノ監督最新作の本作『グランドフィナーレ』は、これまで自分を形成してきた大切なものたちを失った人々が集まる高級リゾートホテルを舞台に、そういった問いかけへのひとつの答えとなるような作品となっている。そして明日への希望に必ず同居するはずの、過去の喪失がもたらす決して消えない漠然とした絶望もそこには描かれていた。そして物語に登場する様々な人物のなかに、この映画を見ているはずの自分自身もいるような錯覚を覚えることになる。

物語は主に4人の感情の揺らぎを描いている。

マイケル・ケイン演じるフレッド・バリンジャーは引退した著名な作曲家。過去にはストラビンスキーとも交遊があり、彼が作曲した「Simple Songs」は世界中で広く愛される名曲だった。そして彼がアルプスのリゾートホテルに滞在中、エリザベス女王の使者がやってきて王室行事で披露してほしいと依頼されるが、彼はある過去を理由にそれを断る。本作はこのフレッドが「失ったモノ」を軸としている。

ハーヴェイ・カイテル演じるミック・ボイルはフレッドの親友で、有名な映画監督。リゾートホテルに数人の若手を引き連れて新作の脚本執筆をしているが、なかなかうまくいかない。

レイチェル・ワイズ演じるレナはフレッドの娘で、ミックの息子と結婚していたが、父のアシスタントとしてホテルに滞在中に夫をポップスターに寝取られる。

そしてポール・ダノ演じるジミー・ツリーは若手人気俳優。ホテルには次の作品の役作りのために滞在しているが、いつまでたっても過去の役ばかりが評価されることにイラついている。

アルプスを臨む高級ホテルに滞在しているこの4人の前を、太りすぎたマラドーナや、ミス・ユニバース、チベット仏教僧、ダンサー志望のマッサージ師など個性的な人物が通り過ぎていく。物語らしいものはほとんどない不思議な作品だが、フレッドの代表曲と同じようにシンプルな作りになっている。

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本作には最初から最後まで貫く大きな筋はない。多くのエピソードと、多くの象徴的なシーンが、多くの人々が、まるでオーケストラを構成するそれぞれの楽器のように音色を奏で、気がつくとそれらが合わさり一つの曲になっている。

例えば太りすぎたマラドーナと主人公のフレッドには何の関係もない。悩める若き人気俳優とフレッドの娘レナとも全く関わりがない。マラドーナと死ぬほどセクシーなミス・ユニバースも関係ない。フレッドとミックを中心として関係以外の登場人物は、ただ同じホテルに滞在しているだけで、直接的に彼らを繋ぐものは何も描かれない。登場人物たちが共通の出来事のなかで、同じ出口に向けて進んで行く、という物語ではない。それぞれにはそれぞれの事情がありそれぞれの物語もあるのだろうが、本作で描かれるのは主にフレッドとミックの関係だったということ。

一方で物語や言葉として説明されなくても、徐々にこのホテルに滞在する人々に共通する想いが映像から伝わってくる。それはポール・ダノ演じる若き俳優が老作曲家フレッドに尋ねる「年老いた今、一番恋しいものは何?」という言葉に凝縮されている。人里離れたゴージャスはリゾート・ホテル。そこに滞在するのは少なからず、何かを恋しく思っている人々ばかりだ。同時にそのホテルでの滞在資格とは「何かを失った」ことだと言えるのかもしれない。

フレッドやミックという主要人物が何を恋しく思っているのか、その失った過去については映画を観なければわからないが、太ったマラドーナは現役時代を恋しく思っているだろう。瞑想するチベット僧はアルプスとは違う、今では帰ることのできない故郷のヒマラヤの風景を恋しく思っていることだろう。そして死ぬほどセクシーなミス・ユニバースもまた、死ぬほどセクシーなだけでない自分を恋しく想っているはずだ。

彼らは皆、自分という存在を作ってきた大切な何かを失くしている人ばかりなのだ。結果、自分が一体何者なのかわからなくなり、このホテルに滞在しているのだ。

フレッドが音楽と決別した理由も、ミックが抱える苦悩も映画のなかで明かされる。しかしそれは物語の中心ではない。大切なものを失ってしまった喪失感を描くことが本作の目的ではない。

本作のラストに思わず震えてしまうは、全く無関係な人々が喪失感によって引き寄せられるも、決して交わることのないその微妙な関係性が、やがてはひとつの緩やかな共感を奏でるようになるためだ。

一見すると典型的なグランドホテル形式の映画にも思えるが、複数の思惑がやがてひとつの出口に向けて集結するような展開ではなく、出口を求めて彷徨っている人々の思惑が、挫折や後悔や反省を経験することで同質化していく過程を描いている作品だと言える。

これまでの人生で手にしてきた大切なものを失った人たちは、もうこれ以上何も手放せない状態になった時、どうなってしまうのか。

「If I am what I have and if I lose what I have who then am I?/もしぼくという存在がこれまで手に入れてきたもので作られてきたとするなら、もしそれを失ったらぼくは何だというんだ?」

映画のラストにマイケル・ケイン演じるフレッドが見せるひとつの決断とは、その疑問に対する回答のように思えた。

美しい映像とイメージの連続で描かれる物語は残酷かもしれないが、最後に訪れる長いエンディングシーンには思わず身震いしてしまうのは、そのスクリーンのどこかに自分自身の姿を探してしまうからなのだろう。

『グランドフィナーレ』: 激奨!

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Yth

ということでパオロ・ソレンティーノ監督最新作『グランドフィナーレ/Youth』のレビューでした。アカデミー外国語映画賞やゴールデングローブ賞外国映画賞も受賞した前作『グレート・ビューティー/追憶のローマ』も素晴らしかったですし、ショーン・ペン主演の『きっと ここが帰る場所』も好きでしたが本作は個人的にはこれまでの観たパオロ・ソレンティーノ作品のなかで一番だと思います。何というかワンシーン、ワンシーンがことごとく胸に染みいるような感じでした。俳優たちも素晴らしいですし、現実と幻想が入り混じるような映像も美しいです。是非劇場でご覧ください。オススメです。

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グランドフィナーレ
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